あらすじ
孤独をおぼえる人に光射す物語
小学生の頃に失踪した父をモデルにした創作小説と宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を修士論文に選んだ大学院生の私。賢治の未完の物語に導かれるように、私は押し込めていた過去の自分と向き合っていく。
そして結婚を前提に同棲を望む恋人の亜紀との関係に息苦しさを覚え始め……。
迷いや痛みを抱えるすべての人に光射す傑作小説。
解説・柴崎友香
※この電子書籍は2021年7月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
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就活で自信をなくした主人公が、恋人との関係が苦しくなることで自分の足りないもの(自己肯定感?)に気付く話。
幼少期の経験から、何でも自分が悪いと考える癖があったが、周りの人たちとの交流によって、
例え理不尽な扱いを受けても自分が間違ってるわけではないこと、相手と同化しなくても(相手と意見を異にしても)自分として存在していいことに気付く。結局、春が亜紀君と苦しい関係になってしまったのは、春が亜紀君と同化してしまった自分自身に苦しくなってしまったからでは?
私自身も同じような考え方をすることがあるので、篠田君が言うように私と他人の問題を区別していきたい。あと、言わない訓練を積みすぎていて本音がわからなくなっているので、これからは上部の言葉を使うのはやめて欲に忠実に生きていく!
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複雑な家族関係の春は日本文学の修士論文に取り組むなかで、彼氏との関係に疑問を抱くようになる。時はコロナ禍、友人や大人たちと大人数で会うことがなくなった反面、より密に会話を交わすようになった。論文の主題となる宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を探り、自分の過去と向き合い、自分の人間関係をつぶさに見つめていく。
恋愛だけが物語として進むのではなく、常に宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の研究が物語の根底に流れていて、読み終えたとき読者は長い旅路を終えたような気持ちになる。
いや、終えたというか、まだ道半ばだが、人生は悩みの連続でそれから逃れることはできないということを認識しつつも、一つの区切りがつけられた登場人物達が愛おしい。
『銀河鉄道の夜』以外にも文学作品が引き合いに出され、文学と宗教を巡る個々の考え方も心地良く、自分の考え方も含めて思考が広がる感覚があった。
どうしてもこのコロナ禍に描いておかねばという筆者の気持ちが伝わるような気がする。
人間関係は本当に難しい。
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危ういものにふれて自分の弱さと向き合いはじめる
宮沢賢治と主人公そしてその父と叔母
蓋をした感情の表出が周りの登場人物の言葉と
物語がリンクして解けていく感じが絶妙
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お互いに好き合っているのに、核の部分を見つめずに、避けるからこそすれ違いというものが生まれる。私もそういう経験をしたからこそ、心が痛くなった。亜紀君のような彼と付き合った経験があるから、重ね合わせて当時の心情を思い出し、涙してしまった…。
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作中に出てくる作品や宗教的な話がちょっと難しくて予備知識がほしかった。
過去の記憶、受けた傷、抱えた闇、こういったものを特別な自己開示をせずに流れるように生きていける人もいるけれど。
私自身が春と同じように解いていくタイプで随分長く苦しんだ、だから後半はどこかリンクするたびに息をつきながら読ませてもらった。
解説にもあるけれど「自分の傷と向き合うことから逃げて、誰かを救うことにすり替える」こと。
これは本当に多いと思うし。
かわいそうな誰か、かわいそうな私、この共依存は他者との距離感をおかしくして関係性を歪ませる。
ここから抜け出す一歩、こういった女性の姿を描くのが島本さんは本当におじょうずで大好きな理由の1つ。
吉沢さんと春の関係性、特に最後のやり取りが好きだった。
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主人公、春の修士論文のテーマは、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」と、幼い頃失踪した父親をモデルにした小説。
結婚を前提に同棲してほしいという恋人。
大学院の友人、篠田君と売田さん。
アルバイト先のミステリー作家、吉沢さん。
島本理生さんらしい主人公だなと思った。
儚くて、危うげで、影があって。
ぱっと見はか弱くも芯がある孤高のひと、のような印象を受けるけれど、
本当はただただ自信がなくて、気づかないままに自分を誤魔化して他人に媚びたり、おもねったりする。
*
売田さんの語る「ノルウェイの森」がよかった。
”私がもっと知りたいのは、そういう危うい女の子たちが本当に救われたら男の子たちはどうするのかなっていうことかもしれない”
売田さんみたいなお友達が欲しい。一緒にホテルでだらだらケンタッキーとTopsのチョコレートケーキ食べたい。
*
”私は根本的な思い違いをしていた。
それは、相手の意に沿わなければ、その相手を否定したことになると思っていたことだ。”
*
島本理生さんの描くメンヘラ炸裂主人公、全然嫌いではないのだけれど、読んでいるうちにモヤモヤするのはきっと、嫉妬だろうなと思う。
人はそんなにきれいにまっすぐメンヘラできないし、売田さんみたいにまっすぐ意見を言ってくれる友達も、吉沢さんみたいに正しいことを率直な言葉で教えてくれる大人も、いない。
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自分がフタしてきたことを、自分の外に出して触らないと、まわりとの接続が上手くいかない。
不快なことに変わりはないけれど、ひとりでフタを開けなくてもいい。
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「私のことを愛してるってどういうこと?」
幼い頃に失踪した父の記憶と、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を織り交ぜ
主人公の春が自身の過去と、彼氏(亜紀)との未来に向き合っていくストーリー
亜紀くんが赤の他人に対して感じた嫌悪感を、自分に向けられたものだと春が感じてしまったのは
あの夜に喧嘩していた精神的に危うい父と叔母に
血縁者である自分とを重ねてしまったからだと思う
銀河鉄道の夜で
ジョバンニは神様は1人です。と言われたことに対して〝ほんとうのほんとうのかみさまはひとりです〟
と言い返した。
信じるものがあって、だけどそういう人たちのためにも頑張ろうと誓った。
だからジョバンニとカンパネルラはどこまでも一緒に行くことはできなかったのかなと思います。(p204)
春は銀河鉄道の夜を研究することで、
信じるものはあってもいい。
異なるものが同じ場所に存在していい。
亜紀くんに〝危うい雰囲気〟と言われても彼が守ると言ってくれたならそれに甘えればいいんじゃないか
嫌いな自分にフタをせずに素直に言いたいことを言えばいいと気付かされたんじゃ無いかなと思いました
春は今後
「愛してる」に意味を求めなくても、
自分にも愛してると言えるように自分とそれから亜紀くんに向き合っていくのだと思う。
最後の2行が
春が変わろうと決心した〝春自身の言葉〟で
心にジーンときました
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面白かった。小説としてストーリーが面白いし、この作家の書く文章が好きだと思った。
ただ取り扱っているテーマとして、宗教だったり神だったり少し考えることが必要だったりもする。
また再読したい。
個人的には、ノルウェイの森の考察を売野さんが語る場面が好きだった。
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島本さんの作品って私が読んだ中では日常がキラキラしてる光のような作品が多いけど、たまに人間の本質に目を向けたどこか危うい闇のような作品がある。
今回は後者だったけど、少し自分の生い立ちや抱えてる闇とリンクするところがあってすごく考えさせられた。
幼少期の経験、親の人柄ってその人の人格形成に大きく関わるってのは分かってて。それが春にとって闇を生み出してた。それを認めること、向き合うこと、知ることってすごく必要なんだな。
私は常にいい子でいたい。幼いときからのその感情がずっと消えない。だから他人の顔色を伺いすぎるし自分の思いなんて押し殺しちゃう。
何を言っても自分の意見が罷り通らない環境で自分の意見を口に出すことなんてしなくなった。
今でも怖いんだ、周りの人が離れてくのが、失望されるのが。自分ってなんなんだろう。私も春のように自分のルーツを見直すことで自分の闇の原因を知って変わりたい。
でも今日まで確実にその闇は晴れていってて。それって対話があったから。自分の考えを言葉にどんどんできるようになってきた。
作中でも言及されているように読むこと、話すことが与える影響って大きい。
深すぎて、でも私の深いところに刺さりすぎて読んでいて苦しかった。
でもこの本に出逢えたことって私にとってすごく意味のあることなんだろうな。
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若い頃の不安定な心の描写がリアルだった。ずっと一緒にいたいという彼には躊躇するけど、元カノの話をされると嫉妬したりする。上手いなあ。
銀河鉄道の夜をもっと読み込んでからこの本を読むと、もっと良かったかも。
Posted by ブクログ
修士論文に取り組む春は、彼から結婚を迫られるがどこか躊躇する。子供の頃に、父親が宗教にはまった末に失踪するという過去があるからか、どこか危ういところのある春だが、クラスメートやバイト先の作家と話をすることで、意識の下に埋もれていた自分の本心に気付く。
宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」と、その背後にある賢治の思想、そして、春の過去が緩やかに繋がっていく、不思議なストーリー。
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ファーストラブがよかったのでこの本を読む前からすごくドキドキしていた。
読んでみるとやっぱりいい。宗教とか論文とかテーマが難しかったけど、時々すごくいい文章だなって思う箇所があって。
春が最後には過去と向き合えてよかった。
銀河鉄道の夜、まだ読んだことがないのでまた読んでからこの本を読むとさらに楽しくなるんだろうな。
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何だかとても気になるタイトルで購入したけれども、ずっと積読していてようやく読もうと思った14作目の島本 理生作品。
島本 理生作品にしては珍しく、クズな男性キャラクター(父親は例外です❗️)が登場しないので、思っていた以上にテンポ良くサクサクと読むことができました。お互いに大きく傷つきたくないと、腫れ物に触る様な付き合いをしている春と亜紀君の関係に、少しヒヤヒヤして読んでいましたが、島本作品の中でも決して悪くない読後感です。
一番好きなキャラクターは、作家の吉沢 樹先生です❗️彼の春に対する冷静な観察と対応が、亜紀君との不穏な空気の繋ぎ止めの様に思えて、安心して見ていられます。
あとがきにて、文庫版で春と亜紀君のラストを改稿してあるのを知りましたが、単行本のラストを読んでいないのではっきりとは言えませんが、個人的に改稿は正解だと感じました。
また本書を読んで、宮沢 賢治の『銀河鉄道の夜』と村上 春樹の『ノルウェイの森』を再読したくなりました❗️
Posted by ブクログ
銀河鉄道の夜を通した賢治の宗教観と、小説を書くという振る舞いを通して、自らの内面や、他者との関係性に向き合う話。
2020年が舞台なので、コロナ禍ならではの描写が生々しく、あの日々がこうして文学の中に記録されていくんだな。
主人公は、上品で頭が良くて、頑な。
自分の価値を信じられないと言うけれど、実は自己評価が誰よりも高く、だからこそ世間や他者の視線や評価を求め苦しむ、どこにでもいる女性。
彼女を魅力的に感じて、見守りたいと思えるかどうかで、大分評価が変わるかな…と思った。
個人的には、主人公が他者の言葉で自らの傷に気付かされる場面が多く(というか全てこれで)、そこでようやく「そうだ、そういえば私ってこうだった」と過去の出来事や記憶を初めて提示してくる書き方が、いまいち肌に合わなかった。
トラウマで記憶に蓋をしているので仕方がないのだけど…
妙に観察眼が鋭く、物分かりの良い他者が「あなたはこうです」と結論を出してくれるまで、読み手は主人公の感情を想像できず、寄り添えない。
彼女が突然キレたり、洋服選びが極端だったことを明かされたりするたび、あっそうなの!?と突き放されてしまう気がして、ちょっと辛かった。
ミステリーの文脈なのかもしれないけど、人の内面を描く話で、主人公に感情移入できないのは読みづらいかも。
Posted by ブクログ
自分の気持ちを認めて前に進むためには、やはり何かを介在させる必要があるのかも。
自分一人で考えていてもグルグルと同じ感情や思考が回るだけ。
なんでそう考えるの?
そう思う背景には何かあるの?
口ではそう言ってるけど態度はこうだよね
主観と客観の橋渡しをしてくれるのは他者の存在。
自分と違うものを少しでも受け入れてみようという窓がないと、その橋はかからないのかもしれない。
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春は自分の過去と向き合うため、納得するために大学院の卒論に宮沢賢治の銀河鉄道の夜の研究をする。
恋人の亜紀君との関係はギクシャク
わだかまりは曖昧にしておくのが良いのか、とことん向き合うのがいいのか
向き合うならどんなやり方で?
何にせよ、人のせいにしてはいけない。
タイトルが良い
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どこか陰のある彼女と、そんな彼女を支える彼氏のお話と思いきや。
彼女が不安定だから支えたい。自分が彼女を幸せにしてあげたい。そうやって相手に自分の存在意義を見出すのは、逆に依存していることになるんだなと思った。
春はその不健康さに気づいていたから、自分と混じり合う前のそのままの亜紀くんが好きだった、と過去形で語るのかな。
春と亜紀(あき)。
けして隣り合わない季節を名に持つ二人の未来は、どうなるのだろう。
今まで避けてきた対話を通して、理解し合える関係になれたらいいなと思う。
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心の傷に気付いてない、気付いて必死に生きているあなたに読んでほしい本。
誰もに心の傷がある。大人になって、ひしひしと鮮明になる傷。私自身、日々、表現することで自分を救っている。
世の中、孤独でなく孤高に生きなければと焦っている。その葛藤の中で、人は弱くて脆い。結果、恋愛や酒やタバコなどを求め依存。自分の傷を埋めようと必死な人々がたくさんいる。その気持ちも大いに分かる。しかし、埋めようともがいた結果、何も残らなくて虚しくなる。それが人間。
この小説を読んで、
「自分の傷は自分で治す」
ことがいかに大事か、主人公や取り巻く環境における人々の心の変容を通して感じた。
主人公が、恋愛から抜け出した夏、「今年は自分で自分を一つ一つ拾って大切にしよう」とする結末。人間の強さが垣間見られる。私自身も、人や自分と丁寧に対話して向き合い、互いの中の優しく光る星を見つけるように生きていきたい。
周囲に気を遣い、感情をあまり出さない訓練を無意識にした春はどこか自分と重なる。「かんじょうのままやりたいことをやり、言いたいことを言ったほうがいい」と後押しする吉沢さんの言葉に私も救われる。
余談であるが、私の名前の候補の一つが「はる」だったな。この小説を読み返して、また違った感情になる日を楽しみに本棚に添える。
Posted by ブクログ
恋愛の話だと思ってたら、途中から宗教的な話も絡んで難しくなった
生きること、依存すること、愛すること、誰の影響で今の自分がいるのか、自分は何を指針に生きていけばいいのか。
色々難しかったけどなんか良かった←
Posted by ブクログ
主人公の春が、いろんな人と関わる中で自分のことを振り返る物語。
恋愛、結婚、家族、文学、宗教。いろいろな要素が絡み合っていた。難しい話もあったけど、2020年のコロナ禍の生活についても触れられていて親近感が湧いた。
自分の中にある見たくないものにフタをする感じ、その見たくないものを他人で埋めようとする感じが少し分かる。
自分と混ざる前の単体のあなたが好きだった、みたいなセリフに共感。自分と関わることで、相手の価値が下がる感じがするの分かる。
Posted by ブクログ
普通に生きてこられてた自分は普通だけど、ものすごく幸せなのだと感じた。
主人公の心情を理解出来ない部分が多かったため、銀河鉄道の夜や宮沢賢治について理解を深めた上でもう一度読み直そうと思う。
Posted by ブクログ
今月は、島本理生さんの小説を読ませていただきました。恋愛となるまでの不安定な期間を揺れ動く言動で表現するのが上手い方だなと思いました。
こちらは、コロナ禍に、書かれたようです。小説の中にも窮屈な行動制限の様子が時折出てきます。
大学院生の私は、修士論文に「銀河鉄道の夜」を選びます。妹トシと賢治の宗教観の語らいの予測など、面白いなと。もう少し、踏み込んで島本さんの宮沢賢治論を織り込んでいただいても良かったかな。
主人公の大学院生は、小学校の時父親が失踪。そこに宗教との関わりもある。そのあたりに彼女が自分の過去を受け入れられていない理由と思います。そして、優しい恋人の大きすぎる許容や安直すぎる理解。不満はない、愛情はある。なのに一緒にいると息苦しい。このあたりの心情は、痛い感じですね。贅沢な〜と思っても、その微妙な違和感がだんだん大きくなっていくみたいな。
若さも加わった不安をお互いの傷を理解して、恋人再開できそうです。