あらすじ
遺伝とはくじ引きのようなもの――だが、生まれつきの違いを最先端の遺伝統計学で武器に換えれば、人生は変えられる。〈遺伝と学歴〉〈双子〉の研究をしてきた気鋭の米研究者が、科学と社会をビッグデータでつなぎ「新しい平等」を指向する、全米で話題の書。サイエンス翻訳の名手、青木薫さんも絶賛する、時代を変える一冊だ。
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Posted by ブクログ
優生学は、理論的根拠として遺伝学を取り込み、間違った考えや歴史を生み出した。いまだに私たちの無意識にも、そのような悪しき優生思想の片鱗が存在しているかもしれない。
自己責任という言葉もそう言った優生学の考えが下敷きにあるからこそ、出てきて、物事の本質を見ないで責任をその人自身の責任にすり替える言葉だと思う。
この本は、遺伝学をニセ科学の優生学から取り戻すための、挑戦の書である。
親ガチャの呪いから我々は脱却することができるのだろうか?そのヒントがこの書には丁寧に記述されていました。
人はこの世に誕生する時、2種類のくじを引かされる。「社会くじ」と「遺伝くじ」だ。
社会くじは、格差や不平等に結びついている。一方、遺伝くじが、優劣や格差と結びついている根拠を丁寧に紐解く。遺伝子の違いは、能力の優劣ではなくて、能力の違いにすぎない。能力が違うからこそ、それらを受け入れ、包括的思考で公平な世界を作る提案をしているように思った。
この本では、遺伝的な違いを活用して人生を変える可能性について述べている。具体的には、遺伝学の成果を利用して個人の生まれつきの特性を理解し、それを武器にすることで、教育や社会的機会を最大限に活用できるとしています。これにより、遺伝がもたらす不平等を是正し、「新しい平等」を目指すことが可能になると主張しています。
読んでよかった。
Posted by ブクログ
子どもが育つ社会的環境的条件と、子どもの人生には関係があることは前提=社会くじ。
遺伝子の偶然も子どもに影響するか。遺伝子の影響も子どもは選べない=遺伝くじ。
遺伝子の影響を議論すると優生学的とみなされる。
人種間に遺伝的な違いは無い=人種とは、人類が分類したモノに過ぎず、遺伝子的には広汎な選択肢がある。
遺伝子は多様正がある。ふたりの親から生まれる子どもの遺伝型は70兆以上の組み合わせがある。一つの特徴的な遺伝情報は、プールの中の一滴のインクのようなもの。エンドウ豆のように単純ではない。
遺伝子はたんぱく質をつくるレシピ=レシピが同じでも同じ料理はできない。GWAS(ジーワス)=ゲノムワイド関連解析で遺伝子を調べても、遺伝的多様性のほんの一部しか分からない=ポリジェニック性がある。身長を決める可能性のある遺伝子だけでも10万以上ある。
人間の特性が遺伝的な人種間の違いがある、というのはあり得ない。
祖先は、遡ると広がる。しかし、数千年も遡ると全員は同じ祖先になる。その祖先の遺伝子が紛れ込んでいる可能性は低い。
人種は、政治的に差別するために人為的に作られたもの=血の一滴ルールなど。
アフリカの住民の祖先はアフリカ系遺伝子を持っているが、ヨーロッパ系の祖先も持っている。遺伝子はそれぞれがいろいろな祖先を持っていることを示している。
統計学の生態学的誤謬=平均としての違いをグループの平均と捉えること。遺伝子の違いを人種の違いと考えることは間違い。
人種に生物学的な根拠はない。しかし人種集団ごとに遺伝子が違うことは確か。
ルーマニアの里子実験。ルーマニアの孤児たちを里親に出すか、出さないかで後のIQを調べた実験。30ヶ月を超えると変わらないが、30ヶ月まででは、早い時期に里親に出した方がIQが高かった。
里親は、IQの原因か?原因と断定するには「反事実」性が必要=第1の対象がおこらなかったとしたら、第2の現象は起こらないこと、が必要=科学的思考の基礎。
ランダムに振り分けることはその一つの方法。薄い因果関係のモデル。染色体異常でダウン症になることは濃い因果関係。
遺伝子は兄弟間でも共有率にばらつきがある。50%前後。遺伝子が異なれば人生は異なるものになる。
高い方を削って全体を均し、格差を小さくする=最悪の環境をつくると格差は小さくなる。悪い環境より良い環境のほうが遺伝率は高い=遺伝的差異を発揮しやすい。
豊かな環境下での教育は格差が広がる。
遺伝的な運による不平等も憂慮すべき。
機会均等はごまかし、不平等を言い訳する方法。
マタイ効果=マタイの福音書による、持っている人はさらに与えられ、持っていない人は取り上げられる、=介入プログラムはこの傾向にある。最も恩恵を受けるのは中流家庭の子どもたち。
遺伝情報が間違った方向に利用されないか。
遺伝学を正しい方向に使うべき。
遺伝を無視するのは、暗黙の共謀。
遺伝情報を得るコストは下がっている。
犯罪行為に対する遺伝情報は受け入れられないだろうが、うつ病や肥満はどうか。遺伝的性質が元々備わっている、とすると対処を必要とするのではないか。
発話障害の遺伝率は90%以上。
鉛中毒の測定にIQテストが使われた。
SATの特典はIQと0.8の相関がある。
優生学、ゲノムブラインド、アンチ優生学、どの道を選ぶか。遺伝データを活用して適切な介入をすべき。
数学のポリジェニックスコアが低い生徒は高校から数学をドロップアウトする。その時点で救う介入は成り立つだろう。機会の平等だけでは不公平。
アメリカはメリトクラシーの国=メリットとアリストクラシーを合わせた造語。社会のエリートは、メリット故に選ばれた人であるべきという考え方。カースト制よりはいい。
アメリカの絶望死=自殺、薬物過剰摂取、アルコール依存症、による死。
ロールズの無知のヴェールをかぶって考えれば、遺伝的性質を考慮した社会を作るべきと考えるだろう。
優生思想と戦うのは、遺伝的に平等だと考える方法だけではない。遺伝子を無視すると、環境因子を変える努力も無駄になりかねない。
Posted by ブクログ
ヒトゲノムが解読された時に「全ての人間は99.99%同一だ」と言ったクリントン大統領の発言は間違っているし、間違いの上に社会基盤を構築しようとするのも間違っている。遺伝による違いは歴然と存在しており、学業の達成度や社会的な成功に関係している。ただし、それは優劣という比較の対象になるようなものではなく、運良くたまたま受け継がれたにすぎず、次の世代に受け継がれていくという保証もない。
必要なことは機会の均等(全ての人に同じ教育機会を与える)ではなく、個別化、最適化された教育である。ろうやアスペルガーが障害でなく特性だ、というのはやや言い過ぎのように思うが、公平と平等の違いなと、遺伝的な差異と社会制度について考えさせられるとことも多い。
著者には二人の子供がおり、一人は普通でもう一人は発話障害があるという。このことからも行動遺伝学には馴染があったらしい。全般に翻訳が素晴らしく、出版社のサイトにも詳細な脚注が載せられていて出典にも当たりやすい
・過去の優生学への反省から、学業に関する研究は遺伝を一切無視したゲノムブラインドの立場をとる研究者も多いが、ここに遺伝が関与していることは明白で、無視すべきではない。
・GWASの結果、個人のポリジェニックスコアは計算されるし、それが学習の達成度などを説明はできる。ただし、GWASは個人の環境などは一切考慮していない
・遺伝子があるから結果が怒る、など因果というものについて、ヒュームは
1)AがあればBが起きる
2)AがなければBはない
の二点が必要と考えたが、1はともかく、2は通常の科学的な検証には乗りにくい。
・遺伝学は、比較的よく似た環境に生まれ育った人たちが、異なる人生を送ることになるのはなぜかを理解するためには役立つ方法だ。しかし、明らかに異なる出発点にたった人たちが、同じような人生を送らない理由を理解するためには役に立たない。