【感想・ネタバレ】怪談六道 ねむり地獄のレビュー

あらすじ

「ベッドの下から出るわ出るわ……」
歯。歯。歯。歯。歯。歯。
―――「噛夢」より

現実と非現実の境目が溶ける瞬間の恐怖。
急上昇の若手、待望の初単著!

夢と現実が奇妙にリンクし、曖昧になった刹那を掬い上げる…実話怪談界の新鋭・蛙坂須美が放つ待望の初単著。・疲れ果て眠りに落ちそうになった瞬間に感じた無気味な異変…「噛夢」
・自分だけが身に覚えのない、記憶の亡霊のごとく不鮮明な映像とは…「蛇素麺」
・突然居酒屋に入ってきた男との不条理な会話…「犬目耳郎」
・引き籠もりの兄の部屋から聞こえてくる少女の声…「まゆちゃん」
・地方紙の記者が取材先の寺で見かけた女は全体のバランスがちぐはぐで…「泣きぼくろ」
他、32話収録!
淡水と海水が混ざり合うのが汽水域ならば、ここは怪奇と眠りの狭間=奇睡域。
さぁ、地獄の扉が開く。

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Posted by ブクログ

お気に入りの竹書房の白背、実話怪談を読み返す。実話怪談にはすぐに軽く読めて楽しめる即効性のエンタメを求めていたり、その怖さという強い感情で少しの間思い悩みや雑事を忘れる恐怖セラピー的な読み方をしていたからあまり読み返すようなことはなかったのだけれど、この本何度か読み返しているし、そうしているうちに実話怪談の読み方も変わってきた気もしている。

「怪談」は未知の理解の及ばない事象に名前や「オチ」をつけ、既知の理解の及ぶ世界の理にはめることで理解した気になって安心したり、憑いたものを「オトす」ための語りだったりもすると思うのだけれど、そこに「実話」とい言葉が改めて加えられる、体験者が突然殆ど因果もなく襲われる怪異を聞き取り書かれた「実話怪談」には理解の取っ掛りもなく未知は未知のまま理解も出来ず、あるいはしようともしない、普段は意識しないけれど、世界に確実にある、あった「わからなさ」が語られている、と思って読んでいる。その理解や解釈、消化も昇華も出来ずに残り続ける「わからなさ」は語られる怪異自体と同じか、それ以上にわたしの世界に怖さを残す。

小説は世界をわかりやすく描くものではなく、世界のわからなさを描くものだ、と言い切れるほどの自信はないのだけれど、わたしが読みたいのはそんな小説で。「実話怪談」は小説とは似て非なるもの、ということは前提としつつも世界のわからなさだけを取り出して提示するような、理解や解釈をある意味で必要としない、させない、そこにある「わからなさ」をそのまま受け取るしかない。そんな物語がわたしは読みたいのだ、とこの本を読んで気がついたのだった。怖いのは結構苦手だったのだけれど。

「他人の物語を自分の言葉で語るわけだ」というのは翻訳についての言葉だけれど、これは実話怪談にも当てはまる。この本の前に幾つか読んでいた実話怪談ではそこにある文体や語りを意識することはなかったのだけれど、ここには様々な語り方が、作家の言葉があると思えた。体験した怪異が様々なようにきっとその語りも様々だ。その他人の物語を聞き取り語るときに作家は自分のなかにある言葉を語りを適切に当てはめ改めて読んだり怖がったり出来るものにしていく。

ストレートな聞き書きから怪異にあった場面を書き起こす。付合しそうでしない怪異を並べた上で、その解釈をあえて手放す。あるいは二人称でこちらにも語りかけてくる。様々な文体やフロー、語りがある。そのなかでもわたしが好きなのは、取材中の体験者の言葉を交えながら、怪異にあって変わってしまった、変わりつつある体験者の世界、姿まで書き出すもので。その語りは他人の物語を語っているようで、同時に ーこの本の冒頭でも繰り返されるー 「こんな話を聞いた」私の物語にも思えてくる(というのは作家側からは不本意かもしれないけれど)。それも小説でわたしが読みたい物語だ。実話怪談のリアリティは体験者が体験した怪異を話した、というところにあると思っていたのだけれど、実はその体験を体験者から作家が聞いた、という部分で担保されているのかもしれない。そこにあるのはやはりフィクション、小説でも感じる「私の物語」のリアリティだ。そのリアリティはこれも実話であるポール・オースターの編んだ『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』と同じだったと気がつく。ああ、好きなわけだな、と納得もしたのだった。

この本というか実話怪談についての話になっているけれど、この本を読むことでインスタントではない実話怪談の魅力に気がつけたのだった。

わたしのお気に入りの話をあげておくと、怪異の放つ匂いやアレルギー源にこれは現実かもしれないと思いはじめる、『影猫』、パラレルワールドに迷い込んだような体験のあと、それとは関係あるのかないのか不明のまま、肉体に変化が訪れる『K鍼灸院』、「繋がるようで繋がらない、考える程に気持ち悪い符号」をそのまま描いた『ひとだま』、書かれるはずのない絵葉書についての怪異が、予想しなかったところに着地することで、グロテスクさも感じてしまう『別居中の絵葉書』、二人称で語りかけてくる『病膏盲』、世界が反転する『犬目耳郎』…..とキリがない名作揃いの、『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』と同じ理由でおすすめしたいと思える一冊。

実話怪談についてはいつも考えが及んでない気がしてきてしまうから、引き続き読んだり考えたり怖がったりしていこうと思う。

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2025年02月03日

Posted by ブクログ

職場の同僚が「怖くないんですけど、すごく、気持ち悪いんですよ」と貸してくれました。実話怪談もの。最初に収録されている『噛夢』がまさに「怖くないんですけど、すごく、気持ち悪い」話で、うーん続き読むべきかどうか、と躊躇しましたが。あとはそれほどグロな話はなく、しかし絶妙な気持ち悪さで、毎晩寝る前に数篇ずつ読んで楽しい幾日かを過ごさせていただきました。普通に素敵な話の『何かが空を⋯⋯』が一番好きかな。

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2023年11月17日

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