あらすじ
不妊治療クリニックで胚培養士として働く長谷川幸。子供の頃から虫メガネにはまり、小さな世界、そこに息づく命に魅了されてきた。受精卵と向き合い、命の誕生を願うこの仕事は天職だと思っているが、実は幸自身も出生に秘密を抱えていた。4組に1組が不妊治療をし、14人に1人が体外受精で生まれる世界の中にある、報われない挑戦、人生の選択、それぞれの幸せ。生殖医療にかかわる人間たちの葛藤と希望を描く書き下ろし長編。
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Posted by ブクログ
長崎の女は高校卒業したら働き、結婚して、子供を産むことが幸せと考える社会で生まれた幸が、東京に出て、胚培養士として不妊治療に関わるようになる。
自らも精子提供で生まれてきた幸は過去にもとらわれ、自分の仕事、生き方に自信を持てずに生きている。幸の地元出身の友人、不妊外来にくる患者たち、同僚たち、みんなそれぞれに悩みやつらい過去をもちながら自分と折り合いをつけていて、彼らとの関わりの中から自分の生き方を見つけていく。
バツ2子持ちの地元友人網子が生き生きとしていて、クリニック外の話に華を添えていて、重くなりがちなクリニック内の話を重くなり過ぎないようにしている。
出産、育児は女性の負荷が多くなりがちだと思うが、不妊治療はさらに肉体的にも精神的にも女性の負担が大きいんだと感じた。
子供が元気に育っていることに感謝しつつ、妊娠、子育てにサポートの厚い社会がくることが大事だと感じた。
Posted by ブクログ
期待値低めで読み始めましたが、かなりよかったです。重いテーマですが、暗くなりすぎず、軽くなりすぎず、じっくりと読み進められました。
保険適用になり、少子化の観点からも話題となっている不妊治療。ただ、その実態を正確にイメージできるひとは、かなり限られるのではないかと思います。まったく関わる機会がなく、無関係だと思うひともいるでしょう。
でも、自分がどうかということではなく、身近にもひっそりと希望と絶望のはざまで揺れているひとがいるかもしれません。そう思うと、読んでおきたい、読んでおいてよかった一冊です。
Posted by ブクログ
「胚培養士」、
この本を手に取るまでは職業として
そういった仕事があることすら知らなかった。
ヒトの胚(受精卵)を扱い、医師の指導の下、人工授精、体外受精、顕微授精などの生殖補助医療を行う仕事。
つまり、受精卵を育て、お母さんの子宮に戻すまで育て、未来に繫ぐ仕事。
胚培養士として働く長谷川幸が、
自分の出生の秘密を抱えつつ、
妊娠を望む女性たちと
ぞれぞれの人生の選択と幸せとは何かを見つめていく。
望んだ人たちみんなに授かってほしいと思っても、
どんなに医療の技術が進歩しても、
妊娠は努力したことが必ず報われるわけではない。
「治療で一番苦しいのは授からないことではなく、
やめどきがわからないことなのかもしれない」という言葉。
まるでゴールが見えないマラソンを走っているようで、
高い治療費、精神的な負担がのしかかり、
女性たちの行き場のない嘆きや悲しさに、
なんともやるせない気持ちになった。
女性たちの言葉、
胚培養士や医師の立場からの言葉、
そのどれもが心に刺さるものが多かった。
本山さん、乳がん患者さんのお話「おっぱいエール」以来でしたが、
胚培養士さんや妊娠を望む女性たちの
とてもリアルな心情が描かれており、
きっとたくさん取材されたんだろうなと思うし、
受精卵を「地球」
胚培養士さんを「世界でいちばん小さな命の保育士さん」と表現されていて、
とても素敵な作家さんだなぁと感じました。
Posted by ブクログ
不妊治療って想像以上に大変で、妊娠して出産することがいかに奇跡かということを改めて思い知らされた。それだけではなく、家族の繋がり、血、愛情。顕微鏡で見るミクロの世界。のめり込みすぎて一気読みでした。網子さん、いい友達じゃん。読めて良かった一冊です。
Posted by ブクログ
【330冊目】とても面白かった!
長崎出身、32歳女性の胚培養士が主人公。恋人はおらず、結婚願望も、出産願望もない。だけど、顕微鏡が好きで、誘われるままに胚培養士になるため上京した。長崎の実家とも色々抱えていて…というお話。
物語自体も面白かったのですが、妊娠出産や不妊治療にまつわる論点や課題の多くが、話の筋に無理なくカバーされており、不妊治療の入門的に読むのもアリじゃないかなぁと思いました!
女性のしんどい思いはもちろんのこと、ある種の不妊治療に臨む男性の苦しい思いも書いてあったりして、公共交通機関の中で涙目になりながら読みました!
当たり前だけど不妊治療を考えるということは、すなわち家族を考えるということ。親との関係、子との関係だけでなく、夫/妻との関係や子どもがいる友人との関係をどう考えるか。作家さんの丁寧な取材のおかげで、それぞれがうまぁい塩梅で書いてあります。つらい現実をごまかさず、でも優しい眼差しで見つめる作家さんだなと思いました!
Posted by ブクログ
一気に読み進めてしまう程、テンポ良くストーリーが進みます。主人公が生命の誕生や死、アイデンティティに迷いながらも、周囲と交わりながら一歩一歩踏み出していく様に目を見張りながら読みました。
Posted by ブクログ
デビュー作『おっぱいエール』に続き二作目となる本作もとても良かった。
主人公は不妊治療専門クリニックで胚培養士として働く長谷川幸。
不妊に悩む患者や生殖医療に関わる医師、胚培養士達の葛藤が伝わり何度も涙が込み上げた。
日々、受精卵と向き合い命の誕生を祈る幸自身も出生に秘密があり自身の存在意義を模索している。
様々な場面で共感し、その度に感情が揺さぶられた。
結婚も妊娠も決して当たり前ではなく血縁が絶対でもない。
幸せの形を決めるのは、無責任な第三者ではなく自分自身だ。
今、生きている奇跡に感謝し命の尊さに想いを馳せる。
Posted by ブクログ
現在、不妊治療をしていて、ゴールの見えない治療や、周囲からの「子どもはまだ?」という発言、子どものいる夫婦のどうしても届かない幸せを聞いたり見たりし悩んでいましたが、この本を読み、治療をしてくださっている方も同様に悩んでいるのかもしれないと思いました。
と、同時に、人は子どもを持つことでしか幸せになれないことはない、父親母親になることだけにこだわって生きなくてもいいと思わせてくれる本でした。
もし、死んだ後、天国で映画を観るのであれば、子どもがいようといまいと、夫と笑って見れればいいなと思いました。
Posted by ブクログ
題名がインパクト強すぎたので手に取り読みました。
胚培養士という職業は知ってましたが、詳しい内容までは知らず、こんなにも神経を使う仕事なのか…と初めて知りました。
あと網子がいい人過ぎる。こんな友人に出会えたことがもう幸の幸せの1つなんだよと伝えたい。
Posted by ブクログ
ちょうど妊活をしていて、病院に通い始めたからこそ身近に感じる場面もあった。授かることへの難しさと毎月期待する気持ちがあって、分かっていても心が折れそうになる。そんな時に私たち夫婦以外のいわゆる他人なのに赤ちゃんの誕生を強く祈ってくれる存在がいるのだと知った。
主人公のお兄ちゃんが幸せに暮らしていますようにと願いたくなる。親友の網子が思いっきり言葉にしてくれて、気持ちよかった。きっと主人公もその勢いで殻を破れたのかなと思う。
いつか、たくさんの奇跡の旅を経て私たちのもとに来てくれますように。
Posted by ブクログ
小野寺史宜サークル仲間にオススメ頂きました(^^)
主人公は胚培養士で、不妊治療のクリニックが舞台。
本当に新しい命が誕生するってとても尊いことだと思わされるし、だからこそ自分の人生も人の人生もありのままで素敵なんだと思いたいなと(^^)
花岡さんが校長先生の代わりに医者になった話は泣けたし、網子が公園で一気にまくしたてるシーンも良い。
そして桐山くんもジワジワ良い。
心優しいお兄ちゃんがハッピーになってくれますように。
Posted by ブクログ
新聞の新刊紹介で知り読んでみた。想像してた以上に面白かった。主人公は胚培養士のお仕事をしてる女性。
胚培養士とは、医師の指導の下で顕微受精や体外受精などの生殖補助医療を行う医療技術者。
生命の源を作り出すお仕事なのに、国家資格ではないと知り、ちょっと残念な気持ちになった。
読んでみて、改めて不妊治療が女性にとっていかに負担が大きいかを再認識させられた。
例え不妊治療代が無料になったとしても、女性の身体への負担は無しにはならない。辛いな…。
不妊治療の話。知らなくてもいいが、出来れば知っておくべきだなと思った。
Posted by ブクログ
自分も1年半くらい不妊治療を続けていて体外受精までしたけれどなかなか思うような結果が出ず…。読んでいてものすごく共感する部分が多くて、思わず泣いてしまう場面もありました。
私も不妊治療してなければ培養士という仕事をされている人たちのことなんて知らないままだったと思います。
妊娠が成立するまでにいくつものハードルがあって、妊娠判定で陽性になったとしても、その後胎嚢の確認、心拍の確認をして、といういくつもクリアしなければならない壁がある。産まれてくるまで何があるか分からないんですよね。
そう思うとそんな数々の難関をクリアして産まれてきたひとりひとりの命ってとても大切だなと感じます。
そんな命のスタート地点に携わる仕事ってきっと大変なことも多いだろうけど、その何倍もやりがいがあるのかな。
不妊治療している・していないに関わらず読んで面白いし勉強になると思います。
特に不妊治療中の旦那さんにはぜひとも読んでもらいたい。
Posted by ブクログ
不妊治療を題材にした小説はいろいろあれど、そのお手伝いをしている胚培養士を主人公にした小説は初めて読むかもしれない。主人公は結婚願望も、出産願望もなくおまけに第三者の精子提供で生まれた子供という出自もありわりとひねくれているというかなんというか……。
Posted by ブクログ
本山聖子さんはデビュー作の『おっぱいエール』がすごく良かったので、新作が出るのをずっと待ってました〜待望の2冊目!
前作では若年性乳がんを患う3人の女性が主人公でしたが、今作の主人公は不妊治療クリニックで胚培養士として働く長谷川幸、32歳。胚培養士とは、産婦人科医などの指導のもと、顕微授精や体外受精などの生殖補助行為を行う医療技術者のことなんだそうです。
少し前に、おかざきまりさんの『胚培養士ミズイロ』という漫画を試し読みして、普段の生活では関わりのない珍しい職業をテーマに描いてるなぁと、びっくりしていたところでした。
現在、4組に1組が不妊治療をし、14人に1人が体外受精で生まれているんだそうです。私が想像していたよりも、かなり多いですね。実際に不妊治療を経験した作者ならではの、とてもリアルな実情が描かれていました。
不妊治療やAID(夫以外の第三者から提供された精子で人工授精を行う技術)だけでなく、大人の引きこもりやシングルマザーや毒親、仕事に対する葛藤や血縁問題、死生観まで、盛りだくさんでした。
私自身も若い頃は結婚したら子どもを産んで育てるのは「普通」だと思ってました。でも今は妊娠や出産って本当に奇跡だなぁと思います。
結婚をするしないも、子どもを持つ持たないも、人それぞれだし他人が口を出すべきものじゃないですよね。普通ってなに?しあわせは人それぞれ、自分が決めることですよね。
主人公の幸がかなりネガティブで『おっぱいエール』のような爽快さがなかったのと、ラストがう〜ん、ちょっと私の好みではなかったのが残念でしたが、でもいろんなことを考えさせられて、時には目頭が熱くなり、読み応えもあってとても良かったです。