あらすじ
〈「もう、リベラルはうんざりだ」?〉
極右に惹かれる若者たち、移民を不安視する労働者たち、敵視される団塊世代、そして高まるEUへの不信感……。
近年、欧州で広がる「反リベラリズム」感情の底流には、一体何があるのか?
EU本部の置かれるベルギー・ブリュッセルに赴任した著者が、揺れる欧州の現場に取材し、不安の根源に迫る、渾身のルポルタージュ!
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【目次】
■プロローグ……リベラリズムの行方
■第1章…………若者 vs. 団塊世代?──敵視されるリベラル
■第2章…………移民とグローバリゼーション──広がる経済不安
■第3章…………緊縮がもたらした分断──リベラル・パラドックス
■第4章…………ブレグジットの背後にあるもの──取り残された人々の怒り
■第5章…………ポルトガルの奇跡──「反リベラルのメロディー」を越えて
■第6章…………新型コロナとインフレ──問われるリベラリズム
■エピローグ……未来へと一歩を踏み出す
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Posted by ブクログ
「ルポ リベラル嫌い」
著者:津阪直樹
なぜリベラル嫌いか?今までリベラルは経済的弱者、貧困層、労働者、高学歴以外の味方だったのに、グローバル化による経済環境の変化により、それらの人々への味方や支援を減少させ、経済的強者、富裕層、高学歴が入り、その人達への味方や支援が増加したからだ。期待していただけに裏切られた気持ちが大きく、リベラル嫌いになった。だから、保守は最初から相手にされてない。代わりに極右、移民排斥に魅力を感じるようになった。
著者は朝日新聞の記者でヨーロッパを取材している。経済・金融の取材経験が多くロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで公共政策修士号を取得しているだけあって、経済学の裏付けを引用している。頼もしい骨太の本だ。
著者の分析を記すと、
①高度経済成長が続き、今日より明日が良く、自分は親より高い給料や生活水準になる、という幻想は終わった。いくら働いても給料は変わらない。
②高度経済成長に伴う高福祉・高負担、低成長、少子化により、緊縮財政に向かった。とりわけ世界金融危機時にその傾向が強まった。本来ならこの時こそ困窮する人々最も多いにも関わらず。これは保守政党もリベラル政党も同じで、政権につけばどうしてもそうならざるを得なかった。そのため経済弱者への福祉を切り詰め、見捨てることにつながり、絶望へと追いやった。
③豊かになった分、社会全体には必要だが重労働の仕事はしなくなった。求人を出しても同国人は応募しない。2000年ごろからその傾向が始まった。
④グローバル化により、移民が入ってきた。同国人が応募しない重労働仕事に移民が就き、担うようになった。
⑤また同じくグローバル化により海外に仕事が流出した。より低賃金で人が雇える国外の地域に工場が移動した。
⑥移民の数が増えるに連れ、移民が目立ち、自分達の仕事を強奪して自分達を貧しくさせているのは移民だ、という間違った考えを貧困層が持たざるを得なくなった。
⑦グローバル化は90年代後半から始まったが、この頃の政権与党は再配分の税制や社会政策を整えずに規制緩和に走った。そのため貧困層が増えた。
⑧愚かなサッチャーが導入した非人道的な新自由主義は、弱者を切り捨て、その結果国内の購買力を弱体化させた。
⑨ポルトガルは緊縮策により経済が破壊された。そのため半緊縮政党が与党となり、どん底から這い上がった。減税による家計収入の増加。ただし、2015年から世界的好景気だったため、半緊縮がすべてではない。しかし、半緊縮により人々が以前より多くの収入を得るようになったことで貧困関連の社会保障に割く予算が減り財政改善になったことも事実である。
⑩ポルトガルは観光のような脆弱な産業ではなく、投資による技術革新を目指している。投資→技術革新→高利益・高税収→再投資→より高度な技術革新→更に高い利益・税収・・・と発展して行けるからだ。愚かな日本とは正反対の発想である。
つまり⑨⑩が日本の生存する唯一の道である。
Posted by ブクログ
現役の新聞記者が掬い上げた事実や想いを一冊に閉じ込めた記録。新聞紙面に収めきれなかったその記録が丁寧にかつ勢いよく紡ぎ出されている。
自国ファーストか全体主義か。EUの理念である「戦争経験を踏まえた平和のための共同体」「民主主義のシンボル」は素晴らしい。一方で、28カ国にはそれぞれの背景や事情があり経済力が異なり国益を重視することを優先せざるをえない。緊縮を押しつければ国民は動揺し反発するばかりだ。「これはどこかの企業と同じだな」と企業人なら思うし、「これは我が家のことだ」と大家族の主人は思うだろう。「自国ファースト」は仕方ないとの見方もあるが「自国オンリー」になるべからず、国のトップは説明責任と透明性を果たし、国全体で諦めずに知恵と底力を出してば、遠い道の先に薄明かりが見えてくる。それこそ「踏み出すべき第一歩」なのだろう。第5章の「ポルトガルの奇跡」は著者のそんな想いが彷彿している。
そういう意味で本書は「経営書」や「リーダーシップ論」でもあり、その根底を成す「哲学書」でもあるような気がしてきた。そういう意味では、真のジャーナリストを目指す方々、経済や政治を志向する若者たちに是非読んで頂きたいと願う。
1年に50冊程度は読む小生が、こんなに一冊の本を多面的に読んだのは久しぶりだ。それもこれも、本書から醸し出される著者の気迫、ジャーナリスト魂が小生の心の中で渦を巻き、いつまでも彷徨っているからだ。