あらすじ
視覚でひらめく驚きの思考力 『自閉症の脳を読み解く』著者の集大成
アインシュタイン、イーロン・マスク、スピルバーグ……
視覚思考タイプの成功例に見る才能の活かし方
写真のように精緻な記憶、細部まで正確に再現するシミュレーション、視覚イメージを駆使した推測――特異な能力をもつ視覚思考者の脳はどのようにはたらくのか。一般的な言語思考者とどのように違うのか。多様な思考タイプが協力しあうことの大切さとは?
自身も視覚思考者の著者が多くの実例や最新研究をもとに、ものづくり、ビジネス、教育に革新をもたらす新たな才能の世界を示す。
【内容】
はじめに 「視覚思考」とは何か
第1章 視覚思考者の世界――頭の中の「絵」で考える人びと
第2章 ふるい落とされる子どもたち――テストではわからない才能
第3章 優れた技術者はどこに?――視覚思考を社会に活かす
第4章 補い合う脳――コラボレーションから生まれる独創性
第5章 天才と脳の多様性――視覚思考と特異な才能が結びつくとき
第6章 視覚思考で災害を防ぐ――インフラ管理から飛行機事故の防止まで
第7章 動物も思考する――視覚思考との共通点
おわりに 視覚思考者の能力を伸ばすために
感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
【脳の多様性を考える】
動物科学者として活躍する著者が、自身の体験も基に、脳の多様性を伝える本。
著者自身は、4歳まで言葉が出ない子どもだったという。今では自閉スペクトラム症(ASD)と診断されるけれど、それが脳のしくみとして何を意味しているのか、
とても興味深い視点でした。
ノーム・チョムスキーは、言語は、とくに文法は、人間に生まれつき備わっている、としたが、
生後数年間言葉を話せなかった著者には、そうとは思えない。
今日の人間社会の主要コミュニケーションツールは言語であるけれども、
実はそれ以外もあるということに迫ります。
・脳の多様性、Neurodiveristyについて。
著者は、思考時の脳の使い方を、言語思考、視覚思考、と大きく分類し、
資格志向についてさらに、
物質視覚、と空間視覚、二分類しています。
これらは白黒別れるというよりもグラデーションです。
イメージで考える右脳タイプ、言葉で考える左脳タイプ、という話はよくありますが、
イメージ思考の中も分類できる、という視点は初でした。
そして皆、もともと言語を習得する5歳ぐらいまでは、言語思考よりも視覚思考が強いと考えられ、成長の過程で、言葉がイメージを覆い隠していく、ともいえると。
一般的な質問や抽象的な考え方が得意な空間視覚思考者に対し、
具体的なもののイメージを思い浮かべて考える物体思考。
前者は 音楽、数学、プログラミング系に長ける人が多いそうですが、
後者はデザイナーや工学士、職人などモノづくり派。
前者がトップダウンの演繹的なとらえ方が得意である一方、
後者はボトムダウンで、具体例から帰納的に理解する。
読者自身も、読んでいて自分の思考の仕方をあらためて考えさせられるかと思います。
言語思考に秀でている人は
ビジネス、売込みなどに長けている人ともいえます。
動物科学者の著者は、
動物の思考についても触れています。
言語は使わなくても、お互いにコミュニケーションをとっている動物も多くいます。
非言語思考の脳を持つ人間は、非言語思考の動物界について理解を深めることにも長けています。
・時代・社会について
言語化能力がかなり重要視される時代・社会で、非言語的思考の人が、障害、としてレッテルを貼られる社会。
国境や領域を超えたつながりの中で個々人が自分をどう伝えていくかが自分の存在意義にもかかわるような社会で、
言語はとても強いと改めて思いました。
著者はまず、教育の場においても物体視覚思考者の居場所がなくなっている点を指摘します。
多重知能理論を唱えたハワード・ガートナーは、
今日の教育制度は、強みがテストの方法に合わない人にとって不利になる、と論じていて、
より複雑な代数の理解を求められる高校数学でつまずき、ふるい落とされてしまう若者が多くいる現状から、アンドリュー・ハッカーは2012年に「代数は必要か」という論稿を出しました。
働く場、産業においても、偏重があるとのことです。
ユージーン・S・ファーガソンは1977年に、「設計者の創造的思考は、大半が非言語」であると論じ、2002年には「技術が数学的に表現できない知識」からかけ離れてしまったことを述べています。
たしかに、計算機の発展が進む今日。
プログラミング思考、パターン化の思考が、
言語化に加えて重要スキルとされる。
著者は、非言語の創造的思考が、アメリカで軽視されていることこそが、の製造業の危機に警鐘を鳴らしています。
製造の海外外注は、技術屋の能力の空洞化、という人のレベルでも起こっていることなのだと知る。
また、インフラや設備といった、物理的なもののリスクマネジメントにも、
物質視覚思考者が果たす役割は無視できないとします。
なぜなら、物質視覚思考者にとって、災難は抽象的ではないから。
津波で非常用ディーゼル発電機が1台を除き破壊され、冷却装置の機能不全になった福島第一原発にも触れられています。
最近また、いくつかの原発に20年使用延長の承認が下りたようですが、
これは抽象論ではなく、実際の技術専門家が判断していることを祈ります。
サイバー攻撃のリスクについても述べられていて、デジタルや抽象的な議論への依存に警鐘を鳴らしています。
脳の多様性を尊重する社会を作り、技術の空洞化を防ぐにはどうすればいいか。
教育、職業訓練・育成制度の改革、
それに加え、
一流企業が率先して、多様な脳を持つ人材を採用することも推奨していました。
・偉業・天才について。
過去の発明家が視覚思考の脳を持っていたこと。そして、
これまでの偉業が複数の脳のコラボレーションで生まれていることが紹介されていました。
建築物、ヒエログリフの解読、NASAアポロミッションに必須だった開発、などなど、
異なる脳が互いに関わり合い、受け入れあうことで多くの可能性が広がる。
そして企業も組織も多様な脳を集めて取り組むことは強みになる。
天才自身も脳の多様性とかかわる。
とくに、複数の視覚思考に秀でている人はまれで、
物質思考と空間志向の双方に抜きんでていたと考えられる天才たちが紹介されていました。
ミケランジェロ、スピルバーグ ピカソ ディスクレシア、エジソン、ゲイツ、マスク、アインシュタイン…
中退するのにも意味があったのですね。
ちなみにスティーブ・ジョブズは、言語思考にも長けていたようですが、
ちょっと分類が複雑ですね。
生まれ可育ちか、と問うと、主に生まれつき、の話をしているようにも感じますが、
著者は、環境に影響を受けやすい脳の機能もある、と言っています。
脳の動き方は人によりばらつきがあること、各々が自分の脳について理解することで自分に合った役割を果たせる可能性が感じられました。
Posted by ブクログ
論文の参考に。
おそらく論文で直接使えるのは1〜3章、あとは視覚思考と言語思考の理解を深めるためのもの
夏休み中にこの本の中で紹介されてる論文読む
Posted by ブクログ
うーん、明確なことは言えないんだけど、それぞれの思考者は次のような形なのかな。
・言語思考者:文字/論理で考えるのが得意
・物体視覚思考者:絵で考える…というより、写真や2次元での理解を好む
・空間視覚思考者:空間把握、パターン把握が得意。3次元的な考えを好む
自分は「言語思考者」なので他2つはよく分からないけど、筆者が「違いがすぐ分かる」なんて語ったのは、写真として見比べた時に(間違い探しを見つけるように)違和感を見つけられた、ということだろう。まぁ自分も細かく思い出す時は写真のように思い出すから分からなくもないが…。
思考を言葉にすることが難しいというのは理解できるが、もう少し言語化してくれても良いのになぁ。「ビジュアルシンカーはすごい」を色々なものから引用されても、読者が知りたいのはその思考の流れだと思うんだよね。
まぁ自分と違う思考の流れを知るのはいい機会になったかも。
『目の見えない人は世界をどう見ているのか』の中で、盲目の人が坂道を山の一部と(空間的に)捉えたように、僕らが当たり前と思った世界の見方は全く当たり前ではない…のかもしれない。