【感想・ネタバレ】大泉黒石 わが故郷は世界文学のレビュー

あらすじ

「俺は国際的の居候」と嘯く大正時代の作家,大泉黒石.ロシア人を父に持ち,複数語に堪能なコスモポリタンだった.『中央公論』連載の『俺の自叙伝』で一世を風靡するが,才能を妬まれ,虚言家だと罵られ文壇追放,忘れられた作家となる.国家も民族も飛び越え,人間性の普遍へと向かおうとした異端の文学者が,今,蘇る.

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Posted by ブクログ

黒石の『俺の自叙伝』(岩波文庫)が同時発売。これがないと本書が成り立たない。
大泉黒石(1893-1957)、ロシア人外交官を父にもつハーフ。長崎、モスクワ、パリ、ペトログラードなどで少年期を過ごした。日本に戻った後は、三高や一高に入学するも、すぐに退学。その後ジャーナリストとして活躍。『俺の自叙伝』を出版し、作家として華々しい活躍をみせるが、30代半ば以降は鳴かず飛ばず。旅のエッセイなどを書いて糊口をしのぐ。戦後は進駐軍で通訳の仕事もした。本書は、その奔放で数奇なコスモポリタンの生涯(どこか平野威馬雄を思わせる)に光をあてる。
著者四方田犬彦の師は、黒石に大きな関心を寄せ、その全集刊行に関わった由良君美。が、刊行途中で由良は急逝。本書はその師の衣鉢を継いだものとも言える。もちろん、コスモポリタン的なところのある四方田だからこそ書けた評伝。
ただ、『俺の自叙伝』には、脚色や虚構と思える部分が随所にあり、そこが気になる。たとえば、パリの寄宿舎で会ったドーデのことを書いているが、ドーデはその10年前に亡くなっているので、これはフィクション。だとすると、11歳の時にトルストイに会ったというエピソードもほんとうなのか。パリやロシアでは放蕩な生活を送ったのに、そうした帰国子女が最難関の旧制高校、一高や三高の入試に合格できるものなのか。

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2025年05月09日

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