あらすじ
アジア・太平洋戦争において、後景に退きがちな大陸や東南アジアでの戦闘。激戦や苛酷な統治が繰り広げられたその場所で暮らす人びとは、当時をどう語り継いでいるのか。そもそも私たちは、かつて日本軍がしたことをどれだけ知っているだろうか。シンガポールにおける大検証と粛清、「戦場にかける橋」で出会った元英兵捕虜、バターン死の行進、帰国できなかった中国残留孤児……。長年アジアに残る戦争の記憶に耳を傾けてきた地理学者が、日本人がけっして忘れてはいけないことを明らかにする。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
非常に勉強になった。
アジア・太平洋戦争において、日本軍が何をしてきたかに焦点を当てた本。あまり冷静には読めないというか、日本軍の残虐非道な行いによって、数えきれないほどの人が命を落としたという事実に打ちのめされる。人を人とも思わない態度、軽んじている様子が伝わってきた。国として二度と同じ過ちを繰り返さないよう、この事実を受け止めて反省し、努力し続けなければならないと思う。
戦争が起こるということは戦場があり、そこには日々の暮らしを送る民間人がいるという視点が私には少し欠けていたかもしれない。戦争を知らない世代には、いまこの場が戦場になるかもしれないと想像することすら難しい。こうやって記録や体験記をもとに学んでいくしかないのだと思う。
著者自身の海外での見聞が興味深かった。戦争はある意味ではずっと続いているように思えると語られていたのが印象に残る。歴史は地続きであることを意識せずにはいられない。こんな本が出版されたことに感謝したい。
Posted by ブクログ
良書。
親日と思っていたが、シンガポール、マレーシアは、先の戦争で今でも日本に遺憾だと知った。ましてや、中国、韓国は。
台湾も戦後の国民党の反感から親日になっているとのこと。
確かにもっと知るべき。だが、卑屈になることは無いと思う。未来をお互い良いものにすべき。時代は変わっていくのだから。
Posted by ブクログ
今年2025年は日本がアジア太平洋地域を主戦場として始めた戦争、太平洋戦争(今は一般的にアジア・太平洋戦争と呼ぶ)が終わった1945年から数えて、戦後80年を迎える年となる。世界を見渡せばウクライナ戦争やイスラエルによるパレスチナへの軍事攻撃、それだけではなく、内戦なども数多くの国や地域で今なお行われている。日本は平和だ安全だと言われるが、それは沖縄に駐留するアメリカ軍の庇護にある事が大きく影響しているのは間違いない。日米安全保障条約により、日本が攻撃を受ければアメリカ軍が動く。この牽制効果は絶大であり、それが無ければ中国やロシアが自国から見た太平洋の玄関口である日本を攻撃する可能性は無いとは言えない。アメリカではトランプ大統領が各国に派遣しているアメリカ軍を撤退させる様な動きも見せているから、再び世界の軍事バランスが崩壊して、これ見よがしにロシアや中国は日本の近海を軍艦や航空機で行き来し、プレッシャーをかけてくる。日本には自衛隊が居るし、まさか今時の国家が他国を侵略するなんて無いだろうと思う方もいるとは思うが、現にロシアやイスラエルの様な先進国、大国が他国を侵略している。更にはそれら軍事行動に反対する国々の経済的・外交的な圧力があっても、戦争を継続できているし、止められない。経済的に依存する国々を従え、自国の天然資源が豊富なロシアや中国の様な大国は問題なく戦争を続けられるだろう。いずれにしろ他国を侵略する理由なんて幾らでも作れるし、それが捏造されたものであっても強者はいとも簡単に戦争を始める。それがこれまでの歴史であり、今もそれは変わらない。
日本はかつて日露戦争に勝利し、中国や東南アジアに権益を求め侵略を行った。様々な要因が複雑に絡み合う状況で「そうせざるを得なかった」「世界の大きな力に動かされた」という見方もあるかもしれないが、そうした見方は現代でも発生している侵略国家の言い分に変わりはない。その侵略国家の勝手な言い分によって侵略された国には必ず人的被害が及び、それは武器を持たない民間人も例外ではない。今時の歴史の授業で日本がアジア太平洋地域でどの程度の人的被害をもたらしたか、数字の上では理解する機会はあるだろうが、その実態にどこまで迫っているかはわからない。因みに私の高校時代の歴史の授業では、大学入試試験対策に置き換わり、近現代史を一日で説明された事を記憶している。自身で戦争に関連する書籍や映像を見なければ、中々その惨禍は理解できない。真実もわからない。
本書は筆者がアジアへの留学経験などから、日本がかつて侵略した国々が、今の日本と日本が起こした戦争をどの様に教えているか、加えてそれら侵略された側の人々が持つ感情などを中心に描いている。その対象は満州国を設立した中国に始まり、緒戦で南北を蹂躙したマレーシア、シンガポール、アメリカが支配していたフィリピンなどである。読み進めるにつれ、戦後に戦争裁判として裁かれる原因となった軍事行動だけでなく、現地の人々に対する犯罪を目の当たりにする。支配者である日本が被支配国の住民に対し、スパイ容疑や反日思想を無くすための処刑などで与えた恐怖は文字だけでは伝えきれない。だが人々の心に刻まれた深い傷と痛みは、未だ消えずに残っている。ロシアがウクライナ侵攻当初に行ったブチャでの殺戮などは日本も過去にしてきた事だ。
戦争により痛みを受けるのは闘う兵士だけではない。罪の無い平和に暮らしていた人々から安寧を奪い、築き上げた家や土地を奪い、そして家族や友人を奪う。
我々は今、こうした過去の事実もしっかりと学び認識し、未来に向けてどの様にして再発を防ぐか、そして今起こる戦争をどの様に終わらせるか、真剣に考えなければならない瞬間に遭遇している。他国からの侵略により日常の平和が一瞬で無くなる事など、可能性としては充分にあり得る。あり得ないと逃げて仕舞う事は、自分以外の人々が無知でいる事も防げない。やがては深く考えずに簡単に軍事行動を始める国家に組したり、そうした国家からの侵略にも耐えるだけの力は備わらないだろう。日々のほんの少しの時間を戦争や平和について考える方に向ければ、やがて小さな力が合わさり大きな力になるかもしれない。平和はそうした全員の小さな努力の上に成り立っている事を忘れてはならない。本書は侵略された側の立ち位置から学べる機会になると思う。