あらすじ
東京で大学生活を満喫していた川尻笙は突然父から、かつて失踪した伯母・松子の存在を聞かされる。しかも彼女は数日前、小さなアパートで何者かに殺されていた。松子は三十年以上、どこで何をしていたのか。そして警察が容疑者として追う、元殺人犯の男とは何者なのか――。累計120万部を超える感動のベストセラーを、令和新装版として刊行。
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Posted by ブクログ
ほとんどの人は残念ながら生きた軌跡を残せないし、他人の大半は背景である。しかし裏返せば、誰の記憶にも残らないからこそ、何に縛られる必要もない、という奇妙な自由さと表裏一体なのかも。
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映画化やテレビドラマ化もされたベスト・セラーを、いまさらながら読んでみた。読んでみてわたしがまず思い浮かべたのは、じっさいに起きた「湖東記念病院事件」のことである。この事件では勤務していた看護助手が「犯人」として逮捕され、当該人物が智能に障礙を持つ「供述弱者」であったことから、恋愛感情を抱いた刑事の取り調べに対して迎合してしまい、結果として冤罪として有罪判決を受けることになってしまう。その後再審で無罪が確定した実在の人物と、作中で何度も収監されるような人物を重ね合わせることが不適切であると重重承知したうえであえていうならば、わたしは本作の主人公である川尻松子も、同事件の看護助手と同様に、智能に問題を抱えているのではないかと思う。ほんらい教師を務めるような智識や倫理観を有しながら、肝腎なところで適切な対応ができずに泥沼にハマっていったり、交際相手に言われるがまま流されるがままの生活を送ることで結果的に自身の人生にも深刻な影響を与えたりと、とても「健常者」のふるまいとは思えない。作者がほんとうに智能に問題がある人物という設定で書いたかどうかはわからないが、いずれにせよ、そんな人物の最期として無惨に殺されてしまうというのではあまりに救いようがない。有名な映画『フォレスト・ガンプ/一期一会』の主人公は智能に問題を抱えながらも、幸福な人生を過ごすことができているが、本作はまるで「逆『フォレスト・ガンプ』」である。