あらすじ
思想的対立を機に、夫である辻との関係は空疎になっていく。『青鞜』の出版も行き詰まる中で、大杉栄――異性の親友であり、共に闘う同志でもある男の存在が、日々大きくなっていくが……。吹き荒れる嵐のような日々、やがて訪れる束の間の炉辺の幸福……。生涯で三人の男と〈結婚〉、七人の子を産み、関東大震災後に憲兵隊の甘粕正彦らの手により虐殺された伊藤野枝。女として、アナキストとして、明治大正を駆け抜けた、短くも鮮烈な生涯を描き出す圧巻の評伝小説。第55回吉川英治文学賞受賞作。
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Posted by ブクログ
初版は文鎮本というほどのボリュームだそうだが、文庫でも合計700ページ余り。一気読みはできないがグイグイと引き込まれた。ジェンダー視点から知った本書であるが、伊藤野枝と平塚らいてふとの関係や、明治大正のジェンダー問題がフィクションではあるがリアルに感じられる。本書は伊藤野枝伝ではあるが、大杉栄をはじめ、彼らを取り巻く人物像の視点より多角的に描かれており、またその周囲の人たちも生き生きと描き切っており、その上で彼らとの関係もリアルに感じられる。大杉栄はアナーキストということで一歩引いてみていたが、フィクションではあるもののある程度史実に沿った流れでもあり、この時代の活動家の生き方を学べた。時代は変わっても現代に生きる視点もあると感じた。
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最後で涙が出そうになりました。
自然と村の共同体から無政府主義の理想形を学んでいた伊藤野枝。彼女の人生は関東大震災での流言蜚語によって無惨にも終わらせられてしまいます。プロローグの前に書かれていた「声が、出ない」という語りと最後が繋がって、胸が押し潰されたように苦しくなりました。
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私と伊藤野枝を出会わせてくれたこの原作本に感謝。
最期に見たのか見てないのかわからないけど、井戸の中からの風景が描かれているのがなんとも印象的です。
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彼女らの思想を受け入れられない人がいるのはしょうがないと思う。考え方を強制するものでは無いと思うから。嫌いな人がいるのもしょうがない。万人に好かれる人などいるわけがない。でも命を奪うのは違う。話せばわかる、とは言い切れない面があるとは思うけれど、やっぱり命を奪ってはいけないと思う。
Posted by ブクログ
伊藤野枝、大杉栄、その他の二人に関わる登場人物が、まるで目の前に迫ってくるように、生き生きと描かれていた。映像で迫ってくる感じがした。
「自由恋愛」が描かれている場面は、信じられない気持ちになった。
野枝が虐殺されるときの描写は、身に迫るものがあった。
作者の力量、ハンパない!
Posted by ブクログ
【2024年172冊目】
大杉栄と伊藤野枝。二人は夫婦であり、友人であり、同志であり、共に国を変えんと闘う革命家だった。関東大震災からスタートする物語は、終焉をを迎えるまで野枝の幼少期から順番に語られる。彼らは如何様に生きていたのか、ノンフィクション小説。
上巻は結構停滞しながら読んでましたが、下巻でどんどん引き込まれていきました。甘粕事件は名称を覚えていたものの、詳細は全く覚えておらず(習っただろうか)あまりの理不尽さに日本の暗い歴史を見たような心地に。
しかし、大杉も野枝も本当に不自由な時代ておいて、あんなに自由に生きていたのかと。咎められる所業もないわけではないのですが、村山さんの手腕で二人も周りの人たちもかなり魅力的に描かれているのがずるい。
歴史の授業ではきっとさらっと触れられてしまう事柄ですが、本書を通じて未来永劫語られていくのだろうと思いました。
Posted by ブクログ
P306
〈人は死ぬ〉
P307
〈どのみち死ぬのなら、それまでにやれるだけのことはやってやる〉
大杉栄の言葉。
なぜそれほどまでに強く生きることができたのだろう。
読めば読むほどわからなくなってくる。
それが正直な気持ち。
野枝に呼ばれ用事を済ませる見張り役の巡査のほうがわかりやすい。
関東大震災で起きた悲劇。
いま、それに関連する著書を読んでいる。
そのとき何が起こったのか。
知るきっかけを村山由佳さんに作ってもらった。
Posted by ブクログ
野枝が生きた時代が行間に溢れ、息苦しさを覚えながら読み進む。
それだけ野枝が生き生きと描かれていることの証左でもあるだろう。
己の信じる道をがむしゃらに生きる野枝。それゆえに非業の死を迎えなければならなかった。
彼女は、大杉栄に同志的結合を見出し、共に生きる道を選ぶ。しかし、三角関係どころか五角関係にさえなろうという自由恋愛について、滔々とまくし立てる彼に無政府主義者の面影は無く、ただのすけこまし(失礼笑)にしか見えない。後半に子煩悩な面が描かれ、少し救いになる。