あらすじ
髙樹のぶ子さんが2020年の新型コロナ禍による緊急事態宣言中に刊行し、5万部を超えるヒット作となった『小説伊勢物語 業平』。泉鏡花文学賞と毎日芸術賞をW受賞した「日本の美の源流をたどる」小説として、次に紡がれたのは、同じく平安時代の「六歌仙」のひとり、優れた歌の才に加えて、絶世の美女としても数々の伝説が残る小野小町の一代記である。本作も『業平』に続き、日本画家・大野俊明氏のカラー挿絵が「みやび」の世界に色を添える。
能楽の演目でも重くあつかわれる観阿弥作「卒塔婆小町」が元にしたとされる伝説「百夜(ももよ)通い」。小町を恋する男に、百夜通ってくれば共寝してもいいと無理難題をつきつける。男は通いつづけ、百夜目に悲劇的な死に見舞われる。思いが叶わなかった男の恨みはやがて小町の身の上に残され、惨めに老いさらばえる――小町はなぜこのような姿に描かれ後世に伝えられねばならなかったのか。古今和歌集と後撰集に残された数少ない小野小町の実作とされる和歌をより深く翫味すれば、そこに隠された本当の小町の姿が立ち現れてくる。
小町の歌の世界はけして甘美ではない。しかし、「日本の美の源流」が「もののあはれ」、哀れから来るとなぜ言われてきたのか。五感を研ぎ澄まして、この小説の音律に身を委ね、時に声に出して読んでいけば、読後にかつて経験したことのない深い感動が待っている。「もののあはれ」が体感できる小説と言っても過言ではないだろう。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
紫式部や清少納言が取り上げられているが、あえての小野小町。1000年前からの美貌と才能の象徴として、現代でも〇〇小町という呼び名が使われるほどの人物。残された和歌のうち、本当に小町が詠んだのは20にも満たないという。当時の和歌は、恋心だけでなく、親への愛情や友への友情、尊敬、拒絶など、あらゆる意思疎通を図るコミュニケーションの主要な手段。古い和歌を引用しつつ、いまの気持ちを伝えることができる才能が、コミュ力の高さの証明だった。何という奥深さ。五七五七七という限られた字数の中に、幾つもの感情を読み込む技法。和歌と古典の素晴らしさを再認識させてくれる。小野小町の伝説にも一石を投じ、新たな小町像を見せてくれる一冊でもある。それにしても、昔から男女のすることは一緒なんだなあと妙にハラ落ち。
Posted by ブクログ
前作「業平」を読んだら本作も読まざるを得ないであろう、何しろ遠い昔のことであり資料さえなく、業平以上に困難な作業だったと想像される、後の世に悪女のように扱い最後は乞食にまで身をやつしたと悪い評判を流したのは観阿弥であったのか、けしからん奴だ、この物語の大半は著者の創造であろうが、平安時代の雅な世界を映し出した著者に感謝したい、この頃西欧では醜い殺し合いをしていたと思えば、日本はなんと文化薫る国であったことかと誇りたくなる。
Posted by ブクログ
小野小町の生涯を、古今和歌集と後撰集に残された数少ない彼女の和歌から、描いた物語。
有名な小野小町といえど、残されている史実はないに等しい。
悪名高い?「百夜通い」も伝説で、実際はどうであったか。
100日彼女に元に通ったら、共寝してもいいと言われたが、100日目の夜に悲劇的な死に見舞われ、その恨みが小町の降りかかる…
という、なんとも悲しい伝説。
こんな伝説があるほどに、彼女は美しく賢く、とても魅力的だったのでしょう。
この本は、小町の研究書等を参考に書かれたノンフィクションですが、彼女がどんな生涯を送ったのか想像しながら読むのは楽しくもあり、勉強にもなりました。
文体がやや難しいので慣れるまでは時間がかかりましたが、慣れると読むスピーも早くなり、頭にスラスラと入ってくるように。
「小説伊勢物語、業平」も読んでみたくなりました。
Posted by ブクログ
名前は知っているし、京都のあちこちに伝承が残る小野小町。この作品を読んで初めて人物像がおぼろげながらも形を成した。和歌の要約も分かりやすく心に響いた。所々で胸が熱くなる。
Posted by ブクログ
小野小町について、これまで名前でしか知らなかったが、生きた女性として感じた。平安時代の雰囲気も感じることができた。挿入された和歌の読み解きも面白くぐいぐいと引き込まれた。
Posted by ブクログ
謎の人物とされる小野小町
最後は美貌も衰え
各地を乞食になって放浪し
行き倒れのように亡くなった
かのように聞いていたが
この作品はちょっと頷ける感じ
時代に翻弄される人達が
どこか悲しい
Posted by ブクログ
平安初期、六歌仙の一人、絶世の美女とされた小野小町については、どのような人であったかは不明だという。この本は文字通り著者による「小説」以外の何物でもないと思う。
出羽国で中央貴族・文人の小野篁の庶子として産まれ、10歳で母と別れ、父の篁ともに宮廷に出入り、優秀な歌人として評判になり、幾人かの男性との深い関係も。当時の恋愛は和歌・文の交換だったと聞いているが、正にそのようなやり取りが…。僧正遍昭、在原業平、文屋康秀らが登場する。重要人物として篁の義弟・良実が、京への案内者、運命的な夜の当事者、そして笛を聴きつつ雪の中で最期を迎える人として登場する。そして後の日の僧正遍昭もまた…。独特の雅文調が美しく源氏物語を思わせるような夢の世界を現出させ、2度の男女の契りの場面の描写が幻想的、雅びでありながら、それが更に艶めかしさを増して印象に残る描写である。最後は年老いた小町の出羽国への旅路で締めくくり、壮大な一代記である。
Posted by ブクログ
前作の業平を懐かしく思い出しながら雅文調を楽しんだ。理解するのではなく感じるのがもののあわれという事なんだろう。挿入される短歌も想像力を刺激してくれる。フィクションだろうと思いながらも百人一首でお馴染みの名前の人達がストーリーで絡み合ってくるのはワクワクしますね。