あらすじ
長身、美形の水乃サトルは旅行会社課長代理。だが、度を越した多趣味と奇行から社内では変人の烙印を押されている。部下の新人OLと共に出張した岡山の村で、横溝正史の名作を模した殺人事件に巻き込まれる「『本陣殺人事件』の殺人」他、ミステリー初心者からディープなファンまで楽しめる本格推理小説集。
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Posted by ブクログ
〇 概要
旅行会社の課長代理職を務める長身で美形のオタク,水乃サトルが探偵役を務める短編ミステリ集。「ビールの家の冒険」,「「本陣殺人事件」の殺人」など,過去のミステリのパロディ的な作品も含まれる。ややミステリマニア向けの作品集である。
〇 総合評価 ★★★☆☆
ミステリマニア向けと思われる短編集。「ビールの家の冒険」と「「本陣殺人事件」の殺人」は,パロディ元を知っていないとあまり楽しめないだろうし,「ヘルマフロディトス」と「空より来たる怪物」も,ある程度ミステリを読んでいないと「何これ?」と思ってしまうだろう。逆に,ミステリマニアであれば,読みやすい文章も相まって,軽く読めるし,十分楽しめた。傑作と言えるような作品ではないが,「ヘルマフロディトス」は,「かとり」を「かをり」に偽装するというなかなか面白いプロットの作品だった。読む前の期待値が低かったこともあって,思った以上に楽しめた。★3で。
〇 ビールの家の冒険 ★★★☆☆
西澤保彦の「麦酒の家の冒険」をモチーフとした作品。トイレを借りるために不法侵入した家に,多量のビールが隠されていたのはなぜかという謎が示される。真相は,隠されていた缶ビールの缶は全て金であり,偽のビールだったというもの。銀行強盗が盗んだ金の延べ棒を溶かし,ビールの缶に偽装して隠していたのだ。荒唐無稽なシナリオのバカミス。謎はそこそこ面白いが真相は陳腐。ただ,文章は読みやすく,軽いミステリとしては十分楽しめた。
〇 ヘルマフロディトス ★★★★☆
「かとりさん」と「かをりさん」が,女子高生の書く手書きの文字だと偽装しやすく,「かとりさん」を「かをりさん」と偽装することで,自分の犯行を隠そうとした「鹿取ユリア」という女子高生の話。水野サトルのところに,大学の先輩で,刑事の馬田が相談をしたという設定。話全体が軽くて読みやすく,プロットも面白い。この短編集ではベストの作品かな。★4で。
〇 「本陣殺人事件」の殺人 ★★★☆☆
本院殺人事件のパロディ。本文庫の解説でも書いてあるが,単なるパロディというより,「本陣殺人事件」の金田一耕助の推理の矛盾を指摘し,別の推理を紹介している。これは,「本陣殺人事件」に思い入れがある人ほど面白く感じると思われる作品である。「本陣殺人事件」は読んだことがあるが,そこまで思入れがないので,この作品を読んでも「ふーん」としか思えなかった。「本陣殺人事件」をベースとした推理部分のデキはともかく,短編小説のデキとしては,やや冗長に感じてしまう。そこそこのデキか。★3で。
〇 空より来たる怪物 ★★★☆☆
UFOの襲撃により殺人がされたと思わせるような記述があるミステリ。警察は,水乃サトルの大学の先輩である「宇宙人侵略対策地球評議会」というサークルに入っていた二茂滋という人物を容疑者として捜査をする。真相は,「セキセイ院固教」という新興宗教が,皆神山の洞窟の兵器貯蔵庫から兵器を探し出し,その秘密を守るために火炎放射器で殺人をしていたというもの。密室のトリックは,コテージそのものががけ崩れで転がり,天井の窓を利用して外に出ることができたというバカミス的トリック。UFOについてのうんちくもあり,それなりに面白い作品。ばかばかしい作風が好きなら楽しめる。結構好き。★3かな。