あらすじ
新内節を語れる友禅差しの模様師・脇田は、旅先で三味線弾きの芸者・彩子と出会う。脇田は彼女に惹かれるが、彩子と、酒と女で身を持ちくずした彼女の師匠の名新内語りが、以前ある殺人事件に巻き込まれたことを知る、「忍火山恋唄」。縫箔の職人・田毎は、自分の名前を騙る人物が温泉宿に宿泊し、デパートの館内放送で呼び出されるという奇妙な出来事に見舞われていた。そんな折、パーティで元恋人の鶴子と再会した時の出来事を思い出し……。ふたりの再会が悲劇に繋がる「折鶴」など全4編。ミステリの技巧を凝らした第16回泉鏡花文学賞受賞作。/【目次】忍火山恋唄/駈落/角館にて/折鶴/解説=末國善己
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Posted by ブクログ
「忍火山恋唄」
洒落ている
冬の温泉地と芸者たち、三味線の音色と江戸浄瑠璃の語りが纏う情緒
昭和の文豪たちが愛した“旅情 恋慕”の香りが漂う文章で、さらりと情念を映す
いま読むとしっとりとして、良い
それだけ自分も歳ということ……
川端康成の『雪国』が読みたくなる
「駆け落ち」
“駆け落ち”という言葉はすでに死語だ
似たような場合は今でもあるだろうが、覚悟の重さが全く違う
明治の小説黎明期よりもさらに古いテーマだが、職人と花街にはよく似合う。
「角館」
東北と東京は切っても切れない関係にある
華やかな都会の装いには、土と雪で暮らす人たちの裏地がある
背中合わせのもどかしさが、物語となる
「折鶴」
一連の職人話の終わりは表題作の“折鶴”
時代とともに廃れゆく生業、あがき方は人それぞれ
何を思い何を求めたのかは、当人のみが知ること
“洒落た”物語かと思ったが、締めは隙間がない
Posted by ブクログ
短編集。古書、新内、染物というアイテムと、金沢の温泉街という場所が絶妙な効果をあげている「忍火山恋唄」。恩人の死をきっかけに、かつて共に逃避行した女性と再会し、若い頃の思い違いを知らされる「駆落」。めぐまれた境遇にいるものの今の暮らしから逃れようとしている女性との心理劇が繰り広げられる「角館にて」。自分の名前を騙る者がどうやらいるようだ、という不安のなか、着物業界の衰退と内輪揉めを気に留めず淡々と仕事を続ける縫箔屋が、自分の本当の思いに気づいていく表題作。どの作品も、深い味わい。