あらすじ
新内節を語れる友禅差しの模様師・脇田は、旅先で三味線弾きの芸者・彩子と出会う。脇田は彼女に惹かれるが、彩子と、酒と女で身を持ちくずした彼女の師匠の名新内語りが、以前ある殺人事件に巻き込まれたことを知る、「忍火山恋唄」。縫箔の職人・田毎は、自分の名前を騙る人物が温泉宿に宿泊し、デパートの館内放送で呼び出されるという奇妙な出来事に見舞われていた。そんな折、パーティで元恋人の鶴子と再会した時の出来事を思い出し……。ふたりの再会が悲劇に繋がる「折鶴」など全4編。ミステリの技巧を凝らした第16回泉鏡花文学賞受賞作。/【目次】忍火山恋唄/駈落/角館にて/折鶴/解説=末國善己
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Posted by ブクログ
短編集。古書、新内、染物というアイテムと、金沢の温泉街という場所が絶妙な効果をあげている「忍火山恋唄」。恩人の死をきっかけに、かつて共に逃避行した女性と再会し、若い頃の思い違いを知らされる「駆落」。めぐまれた境遇にいるものの今の暮らしから逃れようとしている女性との心理劇が繰り広げられる「角館にて」。自分の名前を騙る者がどうやらいるようだ、という不安のなか、着物業界の衰退と内輪揉めを気に留めず淡々と仕事を続ける縫箔屋が、自分の本当の思いに気づいていく表題作。どの作品も、深い味わい。