【感想・ネタバレ】日本語の勝利/アイデンティティーズのレビュー

あらすじ

「日本語の勝利」は著者が『星条旗の聞こえない部屋』で野間文芸新人賞受賞決定直後、世に問われた最初のエッセイ集。
日本語という言語や「新宿」という場所との関わり、文学との向き合いが様々な切り口で描かれており、興味深い。
それから4年半を経て2冊目のエッセイ集「アイデンティティーズ」が刊行される。そこでは日本とアメリカとの往還だけでなく、中国というもうひとつの大陸への探訪が始まったことが記される。そこで目にする中国人や中国語はこれまでになかった姿であり、読者の固定観念を揺るがす。
文学をそして人間の営みをつねに複眼的に捉え、生き生きとした日本語で描写する著者、リービ英雄のエッセイ群は東西冷戦後の世界の枠組みがさらに大きな変化を生じ始めていると見られる2020年代の今こそ、深く受け取ることのできる貴重な文学の表現なのである。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

1992年にでた日本語の勝利、1997年のアイデンティティーズ、という2冊を一つの文庫にまとめた本。文庫にして2400円也。。

1992年というと私は大学2年。自分が生きた時代を30年ほどの時間を経て振り返るような独特な読書で、興味深かった。

日本社会の中で日本語で創作活動をしながらもどうしても「外国人」として扱われる著者の葛藤から、日本社会の実像が見える。

アメリカとの対比よりも、著者が馴染みのある他の東アジアの国々、中国や韓国、台湾との対比における日本の在り方の描写がより面白い。

日本で流通する「国際化」には大体二つのニュアンスがあるという(p117)

一つは経済大国の言い分を「NO」を交えながら、うまく外国に通じさせること。もう一つは、
逆に、外国のルールに合わせて日本文化の都合の悪い面を「改善」させること。

p118 “表現者にとって、「国際化」は、日本語の中にしかない感性を限りなく肯定しながら、その感性から人種という条件を取り外すことを意味するのである。ちょうどイシグロやラシュディが、「英文学」というものから金髪という条件を取り外すのに成功したように。

あれから時間が経ち、当時芥川賞を受賞した李良枝以外にも、李琴峰もまた海外ルーツの作家として芥川賞を受賞したけれど、アンチやヘイトからの攻撃が酷かった聞いた。

選挙では「外国人問題」なる論点が取り沙汰され、今の日本語空間は、30年前より著者の望む「国際化」が進んだとは到底いえない状況なのではないか、後退してさえいるのでは、と読みながらため息がでた。

著者に初めて「お前も日本語で書け」と声をかけたのは中上健次だったという。李良枝との出会いもあったそう。疎外されたり、よそ者とされるもの、移民や外国出身者などが日本の内側からかく「在日者」の声、その複雑さと豊かさが日本語の勝利なのだと著者はいう。

その在日者の声、内側から発せられる違った視点を持つものの声を受けとめて、それも自分たちの声だと認識する時に、日本社会は初めて、真の国際化を果たしていくのではないかと思った。


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2026年03月01日

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