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Posted by ブクログ 2023年07月03日
お酒を呑む人にはもちろんお薦めですが、いろんなモノとのキッカケが欲しいような人にもお薦めです。本作品では本以外にもお酒の銘柄、舞台となる土地や実際に存在する飲食店、過去の流行など魅力的なモノが沢山紹介されていて数珠繋ぎに触れていけるような気がします。
Posted by ブクログ 2023年06月21日
文学は『不健康』、落語は『スカタン(粗忽)』と相性が良い。
中でも純文学は、出自・不遇・無学・犯罪・薬物…を赤裸々に綴る私小説というジャンルが確立されており、明治の田山花袋から令和の西村賢太までその松明は絶やすことなく受け継がれている。
書き手自身の経験だけに、そら克明に、時に酸鼻極まりないシー...続きを読むンもありありと書け、少々文章に粗さがあろうが、荒々しい文体と好意的に解釈され、『個性』という融通無碍の言葉に併呑され、ダンマリを決め込むしかない。
無頼派作家 町田康は『面白い文章を書く秘伝は、本当のことを書くこと』と喝破。自著『しらふで生きる』では、30年間名うての酒飲みとして鳴らすも、2015年より断酒。そこに至る経緯とビフォーアフターを縷々語る。
その本も含め、本書には32の作品を通じて『酒と対峙する』様々なシーンが紹介される。〈色恋・依存・経済・戦後・酒場・鯨飲・酒肴・断酒・下戸・闇酒…〉。
そこに通底するのは『酒のある風景は時代を映す』ということ。
内田百閒は『百鬼園戦後日記』では、終戦の翌年新潮社と〈原稿料と酒1合〉を物々交換する約束するほど酒の入手は困難を極めており、開高健は『続・食べる』で、日本酒のベタベタした甘さは許されないと当時出回っていた三倍醸造酒の人工的な甘さに辟易し、武田百合子は『富士日記』に、夫の泰淳が故障中の車の助手席で缶ビールをあけたと記したのは昭和41年のことで、金原ひとみの『ストロングゼロ』の主人公である若き女性編集者はアルコール度9%のストロングゼロをのべつ幕なしに飲みまくる。目覚めに飲み、出社時にはコンビニのアイスコーヒー用の氷入りカップにストロングを入れれば、炭酸水に見えるから社内ても堂々と飲めると画期的アイデアを思いついた自分を褒め讃え…。
そうそう、この本の巻末には〈お酒と文学の100年〉と題する、酒にまつわるトピックと本書で紹介された本が舞台となった年代もプロットされ、この年表だけでお酒が飲める。
アテか活字だなんて、いよいよ私もかなりの依存性ですな。ビール会社に勤務する友人は語る。『これからどのビール会社も目指すところはノンアルコール飲料でシェアをいかに獲るか』。
ノンアルコール飲料にお酒の味わいを求めること自体が、やがて健康上の都合でフェイドアウトしていく酒飲みのセーフティネットであり、メーカーも必死であり、のんべえに依存してまっせ!というのは暴論か…
表紙だけを見れば、酒精に翻弄された文豪たちのかくもマヌケな泥酔譚かと思う方が多いかも。でも、それは早合点。一編一編が中々読ませる内容のブックガイドとなっており、脱稿後のお酒はさぞかし甘露だったことでしょうにと思うぐらいの力作です。