あらすじ
17歳の篤は高校を中退し、親との関係が悪化する中、現実から逃げ出すように叔父の勧めで相撲部屋に呼出見習いとして入門。関取はいないし弟子も少ない弱小部屋の朝霧部屋で力士たちと暮らすことになる。ベテラン呼出の進さんに教えを乞うが、引っ込み思案の篤は本番で四股名を間違えて呼ぶなど、しくじってばかり。焦りや葛藤を覚えながらも、日々土俵で声を張り、少しずつ成長していく。第33回小説すばる新人賞受賞作。選考委員を唸らせた、知られざる角界の裏方「呼出」に光を当てる、新しい相撲小説!
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Posted by ブクログ
これがデビュー作とは信じられないくらい、面白かった。
相撲の新米「呼び出し」が主人公という、お仕事小説。しかし、「相撲」、しかも「呼び出し」、まあまあレアな職業だ。相撲に詳しく無い人でも、知らない世界を知るという楽しみを、あまり専門的にならない程度に、いい塩梅で満たしてくれている。私のように、うっすら知識のあるユルイ相撲ファンでも、もちろん楽しく読めた。
物語は、残暑厳しい9月に国技館で行われる秋場所から始まり、翌年の7月、名古屋場所で幕を閉じる。
主人公である新米呼び出し、篤の成長。目標とする先輩や他の部屋の力士との友情。篤の両親との確執と雪解け。篤が属する相撲部屋の毎日の暮らしは、男だらけのワチャワチャ感が楽しそうで、でも実力主義の世界ゆえの葛藤もある。篤にいじわるしていた先輩呼び出しは、終盤でちょっとだけ改心してる。また、篤には、応援してくれる女子大生のファンがいて、篤の頑張りを見て、自分も目標ができたと、嬉しい事を言ってくれる。
内容は盛りだくさんだ。でも駆け足感はなく、篤の一年を丁寧に描いている。
そしてクライマックスは、怪我から復帰した同じ部屋の力士の優勝決定戦の呼び出しを、篤が務める場面。読んでいるこちらも、国技館で直に見ている時のように、力が入ってしまった。
まさに王道といえる話運び。大きな事件や出来事はなくても、とても読み応えのある物語だった。
作者さんの次回作は、力士の髪を結う、床山が主人公だとか。楽しみである。しかし、篤たちの続きの物語も読んでみたい。