【感想・ネタバレ】ターミナルから荒れ地へ 「アメリカ」なき時代のアメリカ文学のレビュー

あらすじ

アメリカ文学は、ようやく「アメリカ」を語らない、ただの文学になった――気鋭の翻訳家が紹介する一番あたらしく刺激的な読書案内。

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Posted by ブクログ

 軽妙洒脱にアメリカ文学を語り、紹介していく。僕は、まるでラジオDJを聞いているような感覚を覚えた。

 奇想、大陸横断、戦争文学における父性の不在や英語を母語としない者による英語による創作。テーマごとに比較や比喩を織り交ぜ、本屋の書棚から抜き取り、手にもってみたくなるように読み解かれていく。

 僕が今まで読んだ本のうち、最も良かったと思う一冊『すべての見えない光』を翻訳されたのが、本書の著者でいらっしゃる。原作の持つ面白さはもちろんだが、翻訳者の藤井光さんの翻訳があってこその感動だったんだなと、強く思った。

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2022年05月21日

Posted by ブクログ

「アメリカ」が変化していること、がわかった。ヒスパニックやメキシカン、カリビアン(だったかな、カリビアンっていうのをわたしはドラマ「オレンジ・イズ・ザ・ニュー・ブラック」で知った)など移民が増えて、「白人」が少数になってきている、っていうのはきいていたけれども、そういう流れで「アメリカ文学」も変わってきているという。(ざっくりしすぎで、ちょっと違うかもしれないわたしなりのまとめですみません。)
そういう新しいアメリカ文学の紹介。
クラシックな流れをくむいわゆる普通の小説ではなくて、現代小説っていうのか、変わってる、奇想、とか、実験的なものが多い。
わたしはそういうのが苦手で、ほとんど読んでいないのだけれど。これからのアメリカ文学を知るには少しは読まないと、とか思った。
エッセイというか、創作っぽいエッセイ?もおもしろかった。著者の藤井光さんて、柴田元幸さんとか岸本佐知子さんとかみたいに、自分で書ける人なんだなあと。1980年生まれてって若い。。。

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2016年10月13日

Posted by ブクログ

そういえば、近頃確かに「アメリカとは何か」という主題の小説にあまりお目にかからない。ロードノベルも激減しているように思う。
アメリカで書いている作家たちの出身も多彩になった。

読んだばかりのカレン・ラッセル「お国のための糸繰り」やダニエル・アラルコン、つい最近肉声で朗読を聞いたセス・フリードなどが登場してくるので、とても身近に感じる。「国境なき物語団 日米編」が面白かった。

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2016年03月17日

Posted by ブクログ

理想的で立派な「アメリカ文学」を追い求める時代は終わり、移民作家の台頭によって変化しつつあるアメリカの小説たち。〈ターミナル化〉と〈荒れ地化〉をキーワードに、翻訳者が新しい時代の小説の地図を描く文学ガイド。


グローバル化によって「テクノロジーと移動が生み出す世界、かたやそれと同時に進行していく不毛化という両極」に身を置きながら書かれた世界文学(アメリカに限らない)の特徴を、著者は〈ターミナル化〉+〈荒れ地化〉と呼んでいる。ターミナルが多様性のポジティヴな面を指しているとすれば(その分ビジネスライクでもある)、荒れ地はポストアポカリプスSFが現実化したかのような混沌であり、従来の価値観では育たなかった新しい芽が生えてくる自由さの象徴にもなっている。グローバル化をこのように言い換えるのは文学以外にも有効だと思い、三品輝起『雑貨の終わり』の感想にも援用させてもらった。
第Ⅲ部の「伯父さんと戦争」にまとめられているように、〈マッチョなアメリカとの別れ〉というテーマが全体に通底しており、2016年当時の空気が思いだされる。女性作家も取り上げられているけれど、フェミニズムやクィアな小説としてまっすぐ語ることはなく、多様化によってメインストリームに浮上してきたカウンターというくらいの扱い。〈荒れ地化〉した文学界でむしろ生き生きと芽を伸ばしている人たち、とは見なされているか。
そして藤井さんに限った話ではないのだが、個人的にユージェニデスの『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』について話すとき、語り手「ぼくら」の有害さに触れない評者が気になって仕方がない。全てが「ぼくら」の妄想かもしれない、とすることで彼らの暴力性に言及しているつもりなのかもしれないけれど、その妄想こそが現実の「姉妹たち」を傷つけ、犯したということを描いた小説だと私は思っている。あの小説に書かれたことをある時代特有の「切なさ」に還元されるなんて堪ったもんじゃない。

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2023年04月30日

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