あらすじ
冷戦、高度経済成長、持家社会、革新自治体、バブル経済、アジア戦後賠償、農地の宅地化、東日本大震災……終戦から21世紀の現在まで、戦後の日本の都市・近郊空間はさまざまな出来事を経験し、大きく変容してきた。本書では、その戦後のあゆみを建築や都市の研究者が、社会や世界情勢、歴史的事件を含めて多角的に検討する。変質しながらも生き続ける戦後を思考する画期的試み。
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Posted by ブクログ
(01)
戦後を歴史的に概括するという難題に対し,空間により介錯するという方法が用いられる.構成として,各章にはテーマがあり,おおよそ1950年代,1960年代,1970年代,そして1980-90年代という10年ほどで区分した4章,海外(旧植民地,支援国,旧占領地)への展開,都市化が及ぼした郊外や地方への空間的な影響といった2章の全6章でまとめられている.
人間の空間は,政治的でもあり,経済的でもある.また,活動的でもあり,宗教的でもある.保守と革新,リアルとバーチャル,都心と農地,モダニズムとリアリズム,商品化と工業化といった軸を持ち込み,歴史を試み(*02)ている.反共政策にもなりうる持家の誘導,文学的な運動から派生するサークル活動や建築との関係(第1章),社会的な情勢に応じてぶれていく建物の構造に応じた法定耐用年数(第2章),革新自治体から生まれかけた広場とその欺瞞的な振る舞い(第3章),オウム真理教がお手製で建て込んだサティアンの建築史における布置(第4章),国際的援助の展開に伴う企業と政府の結託(第5章),土地の私有制と公共的規範との不調和(第6章)など,切り口は鋭く,戦後の新たな断面が切り出されていると感じる.
(02)
戦後80年を迎えようとする今が問題にもなる.いわゆるまちづくり,自然災害からの復興,都心部の高度化と規制緩和がもたらす空間の質,綴り方など良心的な教育がもたらした運動が漏らした言葉たち,鉄筋コンクリート,鉄骨,木造のそれぞれの営繕(修繕)から見た可能性などは,歴史的観点から現在的にも援用し,転用できる題材が多くあるようにも思う.
丹下,磯崎,黒川,石山といった実作をものにした建築家たちの仕事もまた別の角度で見えている.