あらすじ
地雷探知除去ロボットをつくるとき,アフガニスタンの現場でつい地雷原に入りこんでしまった! そんな危険な体験をしながら,つくりあげた実用ロボットはどんなものになったか? さまざまな用途のヘビ型や四足歩行ロボットを開発してきた著者が,それぞれどのようにつくったかを解説し,ロボットの形や心の未来も語る.
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Posted by ブクログ
著者はヘビ型ロボット、蜘蛛型地震探査ロボットなど我が国のロボット開発の第一人者。しかし鉄腕アトムのような人型ロボットは愛玩用を除いて必要ないと言い切る。「ロボットは縁の下の力持ち的な単純業務を代行し、人が人でしかできない大切な仕事に専念する環境を作ることに貢献すべき」だと説く。私も今までアトムのイメージに引きずられていたが、なるほど納得!
ところで後書きの中で「東北大震災でどうしてロボット大国日本のロボットが活躍しなかったのか?」について事情が暴露されている。
そもそも日本の原発は絶対事故を起こさないという建前があったため国が全く本気でなかった。スリーマイル島事故の後、政府主導で一時盛り上がった開発もいつの間にか立ち消え。また次に99年東海原発事故の後、30億の補正予算で急遽6つのメーカーに開発を競わせたが、これも2年で立ち消え。せっかく開発したロボットも廃棄されるところ、著者がもったいないと駐車場に保管していたそうな....。「大災害を契機にこれからこそ本格的な開発を推進すべき。日本はそれが出来る力がある」との著者の力強い提言、全く共感。
Posted by ブクログ
広瀬茂男(1947年~)氏は、横浜国大工学部卒、東工大大学院博士課程修了、東工大大学院助教授・教授等を経て、同大学院名誉教授。多くの独創的なロボットやロボット技術を開発している世界的権威で、ヘビ型ロボット、四足歩行ロボット、惑星探査ロボット、地雷探査ロボット、全方向移動ロボットなどで多くの業績がある。エンゲルバーガー賞受賞。紫綬褒章、瑞宝中綬章を受章。
本書は2011年出版のジュニア向け新書だが(現在絶版)、成毛眞の『本棚にもルールがある』(2014年)の中で必読と書かれており、今般、新古書店で偶々見つけて入手した。
目次は、1.地雷探知除去ロボットをつくろう、2.いろいろなロボットをつくる、3.創造的思考法、4.未来のロボットの形はどうなるか、5.未来のロボットの心はどうなるか、6.ロボット・クリエイターになるには、となっており、1章、2章では、地雷探知ロボット、ヘビ型ロボット、四足歩行ロボットについて、具体的な開発のプロセスが書かれている。また、3章では創造的な問題解決手法(①情報の収集、②目的と制約条件の明確化、③発散的思考による問題解決法の展開、④収束的思考による問題解決法の選択)、6章ではロボットの作り方(駆動機構系、センサー系、制御系、全体)という、主に、ロボット工学を志すジュニア向けに相応しい内容が含まれている。
ただ、本書において一般の大人が読んで目から鱗が落ちるのは、4章と5章の「未来のロボットの形・心」のくだりであろう。
未来のロボットの形については、我々は、SF映画などから、人間に近い形をしたもの(ヒューマノイド)を想像するし、研究者たちの多くも、ロボットはいずれ人間の形にするべきと考えているが、著者はそれを否定する。というのは、技術というものは、何かを模倣しようとして始まったとしても、その過程で、新しい技術や使える要素技術の制約などから、その目的とする機能を達成する最適な形態にその形を臨機応変に変えて進化するのが普通だからだという。そして、それを踏まえると、未来のロボットは、人間の行っていることを代替するヒューマノイドではなく、現在ある機械がその本来の機能を拡張するために、知能性や運動性を獲得してロボット的なもの(それが人間に近い形である可能性は限りなく低い)になっているのが自然であるという。著者が描く未来の姿は、子守役ヒューマノイド、野球やゴルフを教えるインストラクター・ヒューマノイド、案内嬢ヒューマノイド達が人間社会の中に割り込むものではなく、人間社会の中の子守役、インストラクター、案内嬢は引き続き人間が行い、ロボットは人間社会を支えるインフラや環境管理などの作業を黙々とこなすものなのである。
また、未来のロボットの心については、有名な「アシモフのロボット3原則」に異論を唱える。というのは、同原則においては、ロボットにも生物的な生存欲があることを想定している(『2001年宇宙の旅』に出てくる人工知能HALのように)が、ロボットを知能化することと、ロボットが生物化する(=生存欲を持つ)ことは全く別のことであり、ロボットの存在のあり方が生物と同じになる必然性はないし、寧ろそうならないように注意して開発すべきであるという。つまり、生物型ロボットではなく、高度な知能性を持ちつつも、あくまで機械として働くロボットを指向するのである。
私は、AIの問題を、現在人類が直面する大きな問題の一つとして捉えており(究極の懸念は、人類の知能を超えたAIが人類に敵対するリスクである)、本書もそれを意識して読んだが、(出版から僅か10年しか経っていない)現在のITテクノロジー・AIの進歩は、著者の唱える未来のロボットの形・心を、既に遥かに超えているように思える。
この現状を著者ならどう考えるのか、改めて尋ねてみたい。
(2022年11月了)
Posted by ブクログ
この本を買ったのは、その頃たぶんに
心脳問題というのに興味が湧いていて、
ロボットひいては人工知能が人にだんだん近づいていく昨今なので、
そのあたりの理系的アプローチがあるのではないかな、
と思ってでした。
残念ながら、「心と脳について」にあたるような論考はなかったのですが、
ロボットにプログラムする倫理感覚などについて、
まず人間はどうなのだと考察していくところは、
中高生向けの岩波ジュニア新書だとしても、非常に興味深かったです。
というよりも、中高生でもけっこう頭の切れるタイプの人じゃないと
理解できないのではないかと、その他の章も含めて思ったくらいです。
それでも、知的好奇心をくすぐられるように書かれていて、
記述でも専門的な言葉やらx、y、zを使った数学的記述もあるのですが
くだいた文章なので、わからないところはわからなくても、
おおむねは理解できます。
まず、地雷除去ロボットの製作過程を追いながら、
ロボットってどんな感じかというのを知っていくことになります。
さらに次章で、ヘビ型ロボットの製作過程を追っていき、
ロボット観を深めていくと同時に、
製作者である著者の生活なども垣間見えて、面白い読み物としても
読み進めていくことになります。
その章で言われているのに、こんなのがありました。
__________
大学院のいいところは、十分に時間をかけて考える時間があることだ。
朝研究室に行って机に座り、窓の外の雲を見ながら考える。
図面を書いたり計算したり、実験をしながら考える。
昼になったら、毎日欠かさないようにしている道場での空手の練習をして、
夏ならその後プールに飛び込んでダラーと泳ぐ。泳ぎながら考える。
そして学食でお昼をとり、また机に向かって窓の外の雲を見ながら考える。
あきたら研究室の仲間と雑談をしたりして、また考え続ける。
腹が減って耐えきれなくなったら、家に帰って晩ごはんを食べ、
テレビなど見てリラックスする。
そして、風呂の中や寝床で眠りはじめるまで考える。
もちろん、ときどき飲み会で羽目をはずして大騒ぎしたり、デートもしたけどね。
こんなふうに、時間を十分使ってじっくりと考えつづけられるのが、大学院だ。
最近の大学では、短期間で博士号をとらせようとするような国の政策で、
ゆったりとした余裕をもって研究しにくいような雰囲気があるけれど、
私は昔ながらの大学院のいいところをなくなさないほうがいいと思っている。
__________
すぐに結果を出せ、だとか迅速主義的に事を成せと言われがちな現代で、
とくに顕著なのは民間企業だと思いますけども、上の記述こそが
本当らしいように思いますよね。迅速主義なのは場当たり的だったりもします。
とはいえ、これは研究についてのことですから、
何にでも適用してみようというわけではありません。
でも、こうやってゆったりと一つのことに当たる経験にこそ、
学業や研究の楽しいところがあるのではないかな。
さて、最初のほうに書いた、ロボットの持つべき倫理について。
その章ではまさかの「囚人のジレンマ」についての考察もあります。
また、未来のロボットは倫理などをわきまえた知能を持つようになるとすると、
それが功利主義にのっとった考え方をプログラムするべきだ、
みたいな主張で締めくくられているので違和を感じたのです。
大多数の幸福のためには少数の犠牲はやむを得ないとする考え方が功利主義です。
この本の例だと、工場が爆発する危険があるときに、
自動走行の車型ロボットが工場内で作業しているとすると、
爆破を止めるボタンを押すためには何人かの人間を轢き殺してでも、
その目標を遂行しなければいけないとしていた。
大多数の救助のための少数の犠牲はやむを得ない、と。
カントの道徳論では否定される考えらしいです、ちょっとググってみた。
たとえば、地球が爆発するときにそれをとめるためには、
少数のあるいは半数の人類の犠牲が必要で、
それは人類の種の存続としても大多数の幸福としても必要という功利主義の考えがでてきたら、
それはしょうがない気がするんです。
危険度の高さだとかどれだけを助けるためだとかで、
やっぱり少数派は犠牲になる。
この本ではアシモフのロボット三原則も否定されていました。
ロボットを人間のようにする、
つまり利己的な生存優先の考え方を植えつけてから、
三原則でしばりあげて奴隷化するのはおかしい、という主張。
合理的にというか、本質的に考えると、それはそうかもしれない。
人間に似せる必要はない。
理系というか工学系というかそういう人って、
こういうところがドライなのかもなぁと思いました。
マイノリティは犠牲になってしょうがないとして、
例えばそう言っている工学系の人が少数派や弱者になって、
犠牲を強いられた場合どうする?と問うたとしても、
犠牲になるよって普通に答えそうですし。
東北の復興にはお金がかかるので、GDPの低い東北の復興は本当に必要か、
なんて言っているブログかツイートかに出くわしたことがあるけれど、
そういう切りすてこそ深みのない功利主義なんだと思う。
原発事故が起こった時に、
政府が情報を小出しにするようにしておきながら
避難範囲の半径10kmとか20kmとかありましたけど、
あれだって政府はパニックを恐れての功利主義的な動きをしているんじゃないか
と疑ぐった人って多かったと思うな。
福島は犠牲になれみたいに考えてないかという疑い。
こんへんでも、功利主義一辺倒だとかにならず道徳論だとかとせめぎ合わせて、
絶えず揺れているような姿勢でいるのが、悩ましいけれど本当なのかもしれない。
考え方でも、一色に染まっていると安泰な気分になるけど、
そもそもそんな真理を突いている考え方ってないんだろうから、揺れているのが良さげ。
それが、まぁ、一つの僕の結論となりました。
本書はこんな僕のような社会学よりの読み手からしてみても、
ロボットそのものの駆動系や制御系なりの記述は、
難しくて理解しがたいところが多いながらも新鮮ですし、
やっぱりこれからの人工知能を考えた時の、
倫理観を考えるというのも、人間そのものを振り返る意味でも
面白かったです。
10代だとか、若い人でね、これから工学系を中心にやっていきたい
とする人は、本書は夢が広がる本の一つになるでしょう。
原発事故が起こって、その廃炉への作業にはロボット技術の革新が必須だ、
などとも言われています。
注目分野ですし、伸びていってほしい分野です。
Posted by ブクログ
説明が「む?ちょっと高度なのでは?」と思うところがいくつかあるけれど、いろんなロボットの登場はそれだけで面白い。ミライのロボット事情についても、まあそうだろうな、とは思う(アシモフファンとしては、反論したくなる部分もいくつかあるけれど)。
蛇足ながらちょこっと入っている行政批判も笑えるし、少々悲しくもなる。ああお役所。。。
Posted by ブクログ
技術的なところはかなりながし読みをしてしまった(特に蛇の滑走部分…)けれど、地雷除去の為のロボット、そしてそのあり方はなるほど、と感じた。それ故、地雷の除去より地雷の探知を。人間と人間のあいだにロボットは入り込まなくていい。お手伝いロボットよりも、子どもと親が一緒にいられる時間を作ってくれるロボットを。あくまで、私たちの生活がより楽しく、良い充実したものになるためのロボット開発を。それから3章の「創造的思考法」もとても良かった。脳の入っている身体のコンディションをまず整えることから。漠然とした憧れに対し優しくも具体的に背中を押してくれるような章なので、将来を考え始める中高生に是非読んでもらいたい。ロボットに関しては課題もあるが、明るい未来を期待しながら読み終わった。