あらすじ
新天地を目指して家族とともに恒星間植民船に乗り込んだ少女ペトラ。眠っているあいだに目的地に到着するはずだったが、380年後に目覚めてみると船内で革命がおき、ペトラ以外の乗客は地球の記憶をすべて消去されてしまっていた。ただひとり、地球の記憶を持っているペトラは、故郷のおばあちゃんが語ってくれた昔話、そして人類の歴史の中で生み出されてきた膨大な物語を武器に、恐ろしい計画を実行しようとする大人たちに戦いを挑む。ニューベリー賞、プーラ・ベルプレ賞を受賞。物語の力で世界を変えようとする少女の姿を描く傑作。
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Posted by ブクログ
地球の記憶をもつ唯一の少女ペトラが、恐ろしい計画を実行しようとする大人たちを相手に静かな戦いを挑む。物語の力を信じる「最後の語り部」としてーー。
おばあちゃんから語ってもらった物語に力をもらい、リスクを背負って行動し続けるペトラの姿に胸を打たれました。ペトラ自身も物語を語ることを通して、子どもたちを救おうとします。
読んでいると喉の奥のほうから熱いものが込み上げてくるような場面が何度かあり、本を一度閉じて、しばらくその気持ちをゆっくり味わっている自分がいました。読み終わったときも同じことをしました。こんな体験をさせてくれる本が先生は好きです。大好きな本として心に浮かぶのは、先生の場合、こういう本です。
ペトラは地球の記憶を忘れているように振る舞いながら秘密裏に動く必要があります。バレてしまうと記憶を消されるか、亡きものにされるからです。しかし、その秘密が見破られそうなピンチも何度も訪れるので、ものすごくハラハラします。
実をいうと、先生は怖がりなので、ピンチに差し掛かったときも本を一度閉じて、気持ちを落ち着かせてからまた読み始めました。この本を読むときは、基本的にずっとハラハラしながらどんどんページをめくっていました。でも、喜びが溢れることも、勇気をもらうことも、感動で胸が熱くなることもありました。クライマックスは特に。
物語がもつ力、それを語るすばらしさを感じられるお話です。「物語」が主題の物語なので、司書としてはなおさらみんなに読んでほしいです!
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すばらしかった。感動した。喉の奥のほうから熱いものが込み上げてきた。ペトラが物語の力を信じて語り部たろうとする意志の強さ、リスクを負って子どもたちを救おうとする勇気と覚悟が心を打った。
そして何より、物語のすばらしさを力強く描いているのがこの本の大好きなところだった。ペトラ自身がおばあちゃんの語りからどれだけ力をもらっているか…。大事な決断の場面で、ペトラの心にはいつもおばあちゃんのお話が浮かんでいる。そして、ペトラ自身も「最後の語り部」として宇宙船の子どもたちを励まし、慰め、そして本当の彼らを呼び戻している。
ペトラの語りを聞きながら引き込まれていく子どもたちの様子がいいなあ。語りの途中に子どもたちの言葉やペトラの思考が挟まれる描写があってすごく臨場感がある。地球の記憶を唯一もつペトラの語りによって、子どもたちが奪われた記憶を取り戻していくのかもしれないという期待感にページを読む手に力が入った。
地球にいた頃の記憶を取り戻す場面は、本当に感動的。ついにペトラの願いが届いた喜びや、真実や思い出を分かち合えない孤独なペトラに心強い味方ができた喜びも溢れて、胸がじんじん響いた。
ペトラは、記憶をもつと絶対悟られないように、組織に絶対忠実であると思われるように振る舞う必要がある。だから、それが見破られそうなときはすごくドキドキする。ペトラはピンチを何度も切り抜けていくのだけれど、そうした場面はひどくハラハラして、何度か意識的に本を閉じて没入感を解かないと耐えられなかった。自分が怖がりだからだけど、ちょっと怖い話が好きな子にはいいかも。基本的には宇宙船に乗り込んでからずっとスリル感がある。
ハビエルの手のほくろが、ああいう形で生きてくるんだなあー。その人物特有の特徴を描写して、はっきり書かずとも読者に確信させる「作家の技」は、子どもたちと共有できるといいかも。
Posted by ブクログ
タイトルと表紙からのイメージと違ってSFだった。彗星の衝突を避けて宇宙に飛び出した少女。将来は語り部になりたいと思っていたのに、慌ただしい出発の中で、希望していた神話のインストールに失敗する。380年後に目覚めた時、予定とは違いディストピア的な状況。物語の力を頼りに戦う少女。面白かった。でも、まだまだ続編がありそうな気がする。
Posted by ブクログ
ペトラ達家族と他選ばれ者は、彗星が地球に追突するため、宇宙船に乗って新しい土地を探しに行く。その間長い眠りにつき、目覚めたのは380年後。しかし、目覚めた時すべてが変わり果てていた。SF読み物。ペトラに起こる悲劇と支えてくれる物語の力に圧倒される。ぐいぐい引き込むストーリー展開が面白い。今年1の本に出会ったかも。
Posted by ブクログ
★5 彗星衝突のため地球を脱出した少女。睡眠から目覚めると画一的で理想的な社会で… #最後の語り部
■あらすじ
地球にハレー彗星が衝突してしまう西暦2061年の近未来。限られた一部の人間だけが宇宙船で地球を脱出をすることができた。
宇宙船に乗り込んだ主人公の少女ペトラとその家族は、新しい住処である星へ移動するため、380年間の長時間睡眠をしていた。
そして長時間の移動を経てペトラが目覚める。目の前には家族の笑顔があるはずだったのだが…
■きっと読みたくなるレビュー
おもしろいっ
本作、設定自体は地球脱出もので、よくありそうではあります。しかし次々と主人公ペトラに襲い掛かる難題が、読み手を惹きつけてやまないんすよ!エンタメ性が抜群で熱中して、あっという間に読んでしまいました。
何と言ってもペトラが愛おしすぎる。
まだ13歳の少女が、誰も経験したことないような環境に晒され、不安の中で生き抜いていく。完全に親目線で感情移入しまくってしまいました。
誰も助けてくれない宇宙の彼方で、ひとり脳みそをしぼって立ち向かう姿が泣ける。少女の生き抜く術が、おばあちゃんから引き継いだ『物語』というところが、あまりにも慈愛に満ちてる。しかも彼女が物語を語らうシーンは、まるで魔法をかけているかのように幻想的で美しい。
また本書は現代の差別社会の問題が強烈に描かれています。
本書引用、父の言葉「平等は素晴らしい。しかし平等と画一は違う。」
見た目、ルール、価値観を画一的に統一にすれば、過ちは発生しない…どこかの地域にありそうな主義主張。難題にひとり彼女が立ち向かっていく愛と勇気は、新しい大地のように広く、満天の星空のごとく綺麗でした。
■ぜっさん推しポイント
生き残るために知恵を絞るペトラが、おばあちゃんの物語から「強さ」の本当の意味を知る。女の子だった少女から、一人前の人間に成長する姿があまりにも痺れる…
そして物語の後半、ペトラとある人物と対峙するシーン。
心が通じ合う瞬間なんて、なにも語れなくなるんですよね。こんな胸が詰まるシーンは久しぶりです。
これだから読書はやめられない。素晴らしい一冊でした。
Posted by ブクログ
タイトルからは想像出来ない内容だった。
「過去の間違いや過ちを忘れずにいて、子どもや孫たちの未来がより良いものになるようにするのが、われわれの務めだ。」
過去を消去するのがいいのではなく、反省し改善に努めていくべきというのが印象に残った。
ただ忙しく立ち働くだけ。……一糸乱れぬ流れ作業には、彩りも面白味もない。
効率だけで心を動かさない世界に足を踏み入れたくないないと感じた。
Posted by ブクログ
物語の力の物語。地球滅亡前にエリート達が人口冬眠による宇宙船により脱出を図る。少女が目覚めると宇宙船内は全体主義・同一人格国家が確立されていて。
読み始めて既読に気が付く。
Posted by ブクログ
面白かった。コールドスリープに入る時から、ひやひやさせる。
目が覚めたらさらに、ひやりとする状態だし。十三歳の少女が体験するには、過酷すぎるのでは。
でも、物語を命綱のように抱いて、敵ばかりの中を知恵を絞って切り抜けていくのは本当にすごい。
ハビエルとの再会は、泣けた。あんなに残酷な再会って……。想像を絶する。
個人的には、スーマと和解して、少しでも盟友になれたらと思う。
そして、どうか先発隊の人々と和やかな邂逅でありますように。
Posted by ブクログ
作中でも語られる通り、創作は現実ではありませんし、フィクションの物語も実際の人間の過ごす物語(人生)も、その全てがハッピーエンドというわけでもありません。
地球を離れて、恒星間植民船に乗り込んだ主人公は、コールドスリープの間に目的地に着くはずでしたが、目覚めた時には両親もおらず、周りの仲間も地球での記憶を消されていました。そして、「それぞれの違いが争いを生んだ原因で、全員が感情や私欲を捨てることが理想」とする「コレクティブ」という集団が船を牛耳っていたのです。
一人ひとりの人生を無視するコレクティブのやり方に反発する主人公のペトラは、おばあちゃんから教わった物語を「語り部」として語ることで、家族と仲間を守ろうと奮闘します。
難しい状況に置かれたときにこそ発揮される、物語の力を感じさせてくれる小説でした。
結末はやや無理やりに「救い」をもたらしたような気もしますし、中盤には読み進めるのがしんどい所とありましたが、読後感は悪くありませんでした。
とはいえ中々に歯応えのある読書経験でしたので、軽い読み口の本が読みたい、という時にはオススメしにくい作品でもあります。
Posted by ブクログ
2061年、地球は彗星が衝突する軌道にあり、ごく一部の人間が宇宙船で380年かけて惑星セーガンに移動しようとしていた。主人公のペトラ12歳は弟のハビエル七歳、科学者の両親とともに乗船する。昔話が得意な祖母は地球に残りペトラはそれが悲しくて仕方ない。宇宙船は船に乗れなかった人との闘争や睡眠を促し保つシェルターに入るときの不穏さを見せ発射する。宇宙船には世話人と呼ばれる眠らない人たちも乗船していて、ペトラの世話人ベンはなにか思うところがあるようだ。人に遅れて眠りについたペトラが目覚めるとそこには一緒に目覚めるはずだった家族はおらず、船はコレクティブという単一で、まるでエビのような透明な肌の人?たちに支配されていて、睡眠中に知識を詰め込んだ地球人のままグループはコレクティブに奉仕する存在となっていた。
杉田七重の訳本!歴史や民族に関わるような児童書かと思いきや、SFとは。でも、訳文が美しく、独特の世界に没頭して読みました。たった一人で、記憶をなくしたふりをしながら自分の良しとする世界を、祖母の物語を支えにして探していく主人公がまっすぐで、応援しながら読みました。家族との再会シーンもありますが、驚愕の出会いです。しかし、現実であと40年後には睡眠で遠くまで行く技術は確立するのでしょうか?睡眠も結構カロリー使うし、子どもは厳しい気がするなぁ。
翻訳もの特有の読みにくさはあるものの、一応小学生から大丈夫。一般的には中学生以上向けです。
Posted by ブクログ
SFとしては設定があるあるなのと、突っ込みどころが多くて勢いで押し切るほどでもないのが気になった。船内クーデター(?)で実権を握った「コレクティブ」も、地球人の記憶を消し、従わないものを「粛清」するほどの冷酷さを持ちながら、なぜかペトラたちのかつての持ち物や本をきちんと分類して保管するなど、なかなか脇の甘いところがあって謎。
とはいえ、中盤はペトラの脱出計画がうまくいくかというハラハラだけで一気読み。こういうドキドキする本てストレス大きいんだよねなどと思いつつ。
なので物語の力……というよりは、エンタメとして読んだかな、という感じでした。
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【この先ネタバレ】
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クライマックスでペトラがつかまって、もう一度記憶を消されるんだけど、結局無事というか、記憶は消えないまま残るのだけど、それはあの夢で描写された記憶の中の司書やおばあちゃんが、記憶のファイルを守ったからなのかな。設定の根幹にかかわるところなので、あそこらへんがいちばん作品としてあいまいに感じるところだったかも。
Posted by ブクログ
滅亡する地球から脱出し、新たな星での民話や伝承を伝える「語り部」なることを夢見るペトラ。だが星へ向かう途中船内で革命が起こり、再び起きた時には「画一化、均一化」を掲げる社会が形成されていた。
説明にあった「物語を武器に立ち向かう」とはどういう事なのか興味を持ったのがきっかけで読み始めました。
新天地で活躍するため、最新の技術により科学の知識を脳にインストールすることができるSF要素と、おばあちゃんから伝説や民話を教わる場面が同居してて味わったことのない読書体験でした。
知識や物語は脳にインストールしただけでは意味がなく、自分のものとして使う(語る)事で意味が生まれる。
誰もが同じ身体、同じ考えに統一された世界で少しずつ自分や仲間の記憶をつないでいく話でした。
毎度のことながら…知識無しで読んだので児童文学という位置付けということを知らず、終盤まで「この大風呂敷畳むの無理では!?」という気持ちでしたが、事件の解決というよりも主人公が語り部として成長するまでを描いているのだと納得し満足。
これは子供にも読ませたいかも(まだ当分先ですが…)
多様性の話、コチラは肯定的ですがちょうど今「正欲」を併読していて合わせて色々考えてしまう。