あらすじ
皎々たる満月の光が、琵琶湖の面に照り渡る――七年前、会社社長の架山はこの湖で娘みはるを失った。遺体はあがらないまま、架山にとってみはるは永遠に「生と死」のはざまにいる。娘とともに死んだ青年の父親に誘われ、琵琶湖の古寺を訪れた架山は、十一面観音に出会い、その不思議な安らぎに魅了されるのだった。そんな日々のなか、ヒマラヤでの月見に誘われ、架山はそこでみはると二人だけの対話をもとうと決心する――。
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Posted by ブクログ
本書によって、2つのことを知った。『殯』と『十一面観音』。
『殯』。本書では、事故で亡くなった娘の死体があがらず、鬼籍に入るまでの期間を指している。あたかも、東日本震災で、死体があがらず行方不明のままになっている状態に似ているといってよいのでしょうか?死んだことを認めることができない状態でしょうか?
事故から7年、事故現場を避け、湖を避けてきたが、琵琶湖を訪ねることとなり、湖畔の秘仏・十一面観音巡りを始めてゆく。
渡岸寺、石道寺、福林寺、赤後寺(人間の苦しみを自分の体一つで引き受けて下さっていたので、あの仏さまはあのような姿になってしまったんだ)、盛安寺、宗正寺と。順番にWebサイトでお寺と十一面観音様を見ながら、巡礼の旅に出たような気分になる。 (下巻へ)
印象的なフレーズは:
★年歳をとると、女もできないし、仕事にも夢がなくなる。寿命も大部分費い果たして先が見えてくる。こうなった時、人間はロマンティックになる。贅沢なことをしたくなる。
★人間の誠意と努力で、運命というものの持つ意味を変える。ちゃんと運命というものに対する人間の働きかけ方をお話になっている
★挽歌というものが、”もがり”の期間に詠まれた追悼歌である
★人間というものは、幸福になるために生まれて来たんではないだろう。不幸になっていいということはないが、幸福というものの予約はない
★そりゃ、君が幸福だからだよ。人間という者は、不幸にぶつかると、いろいろなことを考える。観音様にも、そういう時に出会うんだろうね。