【感想・ネタバレ】ハウス・オブ・ヤマナカ―東洋の至宝を欧米に売った美術商―のレビュー

あらすじ

19世紀からアメリカに進出し、日本美術品を大量に販売した骨董商・山中商会。20世紀初には清朝崩壊で大量放出された中国美術の大オークションをニューヨークやロンドンで開くが、日米開戦で莫大な資産を失い、所蔵コレクションは全て売り払われる。歴史の荒波に揉まれて消えた、世界的美術商の知られざる六十年。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

アート好きなら読んでみたいドキュメンタリー。
明治から第二次大戦前まで、名の知られた美術商・山中定次郎と山中一族が経営する山中商会。その足跡を丹念にたどる。

導入部の琳派屏風の左右をめぐる記述で、美的感覚にやや違和感を覚えたが(空白のある構図のほうが美しいと思うので)…読み進めると、すばらしい労作であったと感じた。

1890年にNYに出店、以後、英国にも進出。
ロックフェラー財団や名うての蒐集家、エリザベス1世までの御用聞きとなり、日本含む東洋美術の至宝を世界に売りさばいた豪商。義和団事変で中国美術の需要に目をつけ、美術品とは言えないようなインテリア雑貨もまぜつつ、販路拡大。しかし、1920年代後半の金融恐慌、30年代の中華事変、さらには第二次大戦直前の関税法や在米資産凍結令で、解体されてしまう、山中商会。

戦後はもと社員の協力で復活の兆しも見られたが、日本が経済復興しても忘れ去られてしまう。

著者は資料の乏しさにもひるまず、無数のコレクターや美術館、公文書にあたり、膨大な調査によって本書をまとめあげた。財務情報や当時の物価などの引用考察は、並みの美術史家ならば思いもよらない視点で、読み物として面白い。学術書ではないが、研究として価値がある。

日本美術の海外流出を嘆き、高額な競売ばかりがセンセーショナルにとらえられがちな風潮に異議申し立てし、東洋の文化価値を世界へ広めた「民間文化外交官」としての美術商の価値を再認させる狙い。目から鱗が落ちる。

『武士の家計簿』もそうだが、生活や経済感覚と結びつく教養系学問はもっと推奨されるべきであろう。

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2017年09月19日

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