あらすじ
女のもとへ通う夫に傷つき、山あいの別荘へ隠れすんだ「わたし」。深い森の工房でチェンバロ職人とその女弟子と知り合い、くつろいだ気持ちをとり戻すが、しだいに湧きあがる情熱が三人の関係に入りこみ──。おごそかに楽器製作にうちこむ職人のまなざし、若い女弟子が奏でる『やさしい訴え』、カリグラフィーを専門とする「わたし」の器用な手先。繊細なうごきの奥にひそむ酷い記憶と情欲。三者の不思議な関係が織りなす、かぎりなくやさしく、ときに残酷な愛の物語。
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Posted by ブクログ
小川洋子さんの静かで芯があって冷たい印象なのにどこか温かい文章が好き。
薫さんと新田氏の不思議な関係、惹かれました。
そこに隙間を探し、入り込もうと躍起になる主人公の気持ちにも共感できる。
別荘の時間の流れ、現実から切り離された雰囲気。
Posted by ブクログ
「僕は君を、本当にかくまうことができただろうか」
かくまう、という言葉に、一時性を感じるのは私だけだろうか。
求める永遠の形が違う男女は、あまりにも切ない。
遥か昔からそこにあるであろう池が抱く悠久と、木々を揺さぶる激しい嵐の刹那が、林の中の営みで共存していた。
Posted by ブクログ
3人が三様、抱えているモノがあり、それをお互いで癒していくお話だと思いきや、2人と1人という構図に。しかし、空間は違えど、最後は3人でまとまる事の美しさ。
Posted by ブクログ
花巻空港が出てきたので、
主人公が逃げ込んだ別荘は
春子谷地や安比高原あたりの別荘地やペンション街を勝手に思い浮かべて読んだ。
でも物語を読んでいる最中は
外国にいるような不思議な空気感に包まれる。
チェンバロ、
カリグラフィー、
なんとも幻想的な湖や森。
夫に裏切られたり、暴力を振るわれたわけだから
本来なら暗くなりそうな内容なのに、
その世界が癒やしてくれるような気がした。
Posted by ブクログ
『やさしい訴え』
ラモー作曲のチェンバロの曲だ。
『やさしい訴え』は新田氏と薫さんを静かに結びつける。瑠璃子さんがいくら新田氏と物理的に近づいたとしても。
三人とも傷を負っていた。演奏恐怖に陥ってしまったピアニスト。婚約者を結婚直前に亡くした女性。夫の不倫で居場所をなくした女性。
瑠璃子さんの発する嫉妬にまみれた言葉が、宙を舞う。その訴えは当たり前の感情だと思うけど、発すれば発するほど新田氏との距離が遠ざかっていくように思える。
やはりきっぱりと瑠璃子さんは失恋した。
瑠璃子さんに居場所は見つかるのだろうか。
薫さんの純粋な真っ直ぐさがドロドロを消していく。
かなわないんだな。
瑠璃子さんが切ない。
小川洋子さんの世界に浸って
もの悲しい幸福感と
透明感を味わった。
これから
ラモーのチェンバロ曲を聴こう。
『やさしい訴え』
Posted by ブクログ
「音が溶けて蒸発していく」
いくつもの三角関係
嫉妬からの破壊活動、クラッシャー行動。感情的な行動のあとにいくら修復を望んでもどうしても気まずさが消えず。
新田氏には最高の離婚の綾野剛の役を思い出した。
淡々とそして意外にもドロドロしていくが、最後は静かに終わる。
林の中で暮らしを続ける描写がすばらしかった。