【感想・ネタバレ】鹿狩りの季節のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

更年期を迎え、様々な症状に苦しんでいるアルマ。
夫クライルの親の介護のため、数年前にシカゴからネブラスカ州の田舎町ガンスラムに移り住んできた。

いわゆるシティガールのアルマ、越してきた当初はこのスモールコミュニティに馴染もうと努力するが、元来の歯に衣着せぬ物言いや、生産性のない物事はすぱっと断ずる性格から、どちらかというと次第に周囲から浮く存在に。

クライルとアルマの間には子どもはいないが、もうほとんど彼らの息子同然という関係を築いているのが、クライルの営む農場で雇っている知的障がいを抱えるハル。
ハルの両親は毒親で、父親は服役後離婚し行方知れず、母親は2歳のとき、ハルがビーチで水難事故に合う傍らで酒に酔いうかれてた。
ハルはその時の事故の影響で、外見は一般的な基準からするとハンサンムな顔立ち、180cmを越える長身の28歳だが、12歳の少年のような言動をとってしまう。
アルマはあるとき、ハルの生みの母親から引き剥がすようにハルを引き取り、ハルが一人立ちできるよう、愛情を注ぎ何かと面倒を見ている。

物語はある週末の晩、彼らの暮らす田舎町に住む女子高生ペギーが失踪する事件から始まる。
当初は家出と思われていたが、時間が経つに連れ事件性の臭いを誰もが感じ始める。
事件の夜、ハルは友人らと鹿狩りに出ていた。
週明けに農場にやってきたハルのトラックの荷台は血まみれで、前部には何かにぶつかったようなへこみが。
ハルは鹿を仕留め、処理しようと乗せてきたが、上手く出来ずに捨てたと言う。
クライルとアルマはハルの話を聞き、彼は何かを隠していると思う。そもそも彼に鹿を仕留めることなんてできるのか!?。。。

ハルが少女失踪の事件に関係しているのかどうなのかが牽引するサスペンス。

その裏で繰り広げられる、クライルとアルマ夫婦のやりとりが印象的。
冷静で、温厚、それでいて芯がある、善良さの象徴にも見えてくるクライル(実は後ろめたいこともあるのだが)。
かつてはそれに惹かれると感じていたアルマの尖った個性が次第に痛い程の鋭さを見せてくる。
とにかくアルマの毒がすごすぎて、おいおい何もそこまで言う?って思ってしまう。
それでも、アルマはちょっとした瞬間に言い過ぎたことを後悔したり、クライルがかつてを懐かしむような場面に根底の絆を感じもどかしい。
失踪事件の真相究明もさることながら、この辺の今やマンネリ化した夫婦関係の機微の匙加減が絶妙で胸が苦しくなるのだ。

読書をして、正しさのヒントとなるような生き様を見て感動したり、考えを改めさせられたりすると、自分も真っ当に生きようと志すのだが、ついどうしてもこう出来ればと思うのと違う行動、言動をしてしまう。
ヒステリックな妻と、ともするとめそめそしているようにも映る覇気の薄い夫。
わかっていても直せない噛み合わせの悪くなった歯車、彼らにもそんなジレンマを見て、リアリティを感じる。

さらに事件から試されているかのような、ハルを思う心。
ハルを心配し、助けようとする気持ちは間違いないのだが、果たして本当にやっていないと信じられているのだろうか。
知的障がいがあることに、どこか色眼鏡で見てはいないだろうか。
そうは言ってもの部分もあるし、この辺の尊厳を損なわない接し方というのも答えがない問題でもやもやした。

結末はほろ苦くもあるが爽やかさもあり、良き幕引きだった。

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2023年09月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 レビューが意外に辛口なんですが、私は楽しませてもらいました。

 鹿狩りの季節に一人の女子学生の行方が分からなくなる。単純な家出と思われていたが、時間はどんどん過ぎていく。

 この事件を彼女の弟と知的障害がある青年の保護をしている夫婦が調べていくというのがあらすじ。

 何故、彼女は消えたのか、死んでいるのか、生きているのかとミステリの必要な基本は押さえていると思います。

 小説としても面白かったけどなぁ。感じ方は人それぞれなので。

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2023年03月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

アメリカの作家、エリン・フラナガンのデビュー作。

ネブラスカ州ガンスラムに暮らす女子高生ペギーが行方不明になる。家出か事件か。一方、障害を持つ男性、ハルを我が子のように思う中年夫婦は、ハルが運転するトラックに血の跡と凹みを見つける。

所謂、スモールタウンもの。非常に息苦しさを感じる作品。
視点は三つで、中年夫婦のアルマとクライフ、ペギーの弟のマイロ。特にアルマの視点が多いのだが、このアルマの性格が悪すぎて受け付けない人がいるかも。我が子のように思うハルに対する差別に颯爽と立ち向かう母、なんだろうけどあんまりにも意地悪おばさんすぎてちょっと。。。マイロの成長譚として見ると非常に良いのだが。。。

事件そのものというより、スモールタウンの閉塞感を味わう作品。ミステリ要素は弱め。

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2023年11月25日

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小さな街で発生した少女の失踪事件。人間関係を静かに丁寧に重く書き綴ったミステリー #鹿狩りの季節

■あらすじ
アメリカの田舎町、鹿狩りの季節に女子高校生の失踪事件が起きた。当初家族たちはすぐに帰ってくるだろうと高を括っていたが、いつもいがみ合ってた弟が心配し始める。
一方近くに住む家畜農業を行っている夫婦は、発達障害のある青年と同居をしていた。夫婦は彼のトラックに鹿狩りの血が付いているのを見つけ、不審に思いながらも掃除をするのだった。

■きっと読みたくなるレビュー
80年代アメリカの田舎町。近所の人たちはみんな知り合いで、気心も、誰が誰と付き合っているかも、何もかも知れ渡っている。
そんな小さな小さな村で発生してしまった失踪事件を背景に、いびつで不快なやり取りが繰り広げられる人間模様。

まったく派手な展開はないですが、読めば読むほどじわっじわっ…と胸が苦しくなっていく作品です。

本書の登場人物たちが渋すぎる。
超推しなのがコスタガン夫妻。特に妻アルマの胸のうちは、読めば読むほど苦しい思いがこみ上げる。どんな覚悟をもって田舎町である夫の故郷についてきたか、そしてその後の夫婦関係、青年とその母への想い…
しみじみと書かれると、そんじょそこらのイヤミスなんかよりも強烈です。

また失踪した女子高生の弟、マイロがいじらしい。
家族や仲間たちからいつも子ども扱いされ、小馬鹿にされている。しかし彼の静かなる叫びや葛藤が丁寧に書かれ、こちらも胸が締め付けられるんです。
ただ自身で決めた彼の行動は、きっと少年から大人に成長していく第一歩目に違いありません。

そして事件の真相や背景も、本書のテーマをまるっと包み込むようにエグイです。
最後の最後まで地味で寒々しい内容ではありますが、愛や勇気も力強く感じることができる作品でした。

■絶賛推しポイント
津山事件をご存じでしょうか。日本の戦前に起こった凄惨な事件です。
犯人の凶行は許されるものではありませんが、家族や人間関係、当時の村社会を背景に発生してしまった悲しい事件です。

どこの場所でも、いつの時代でも、恵まれない身体や環境に生を受けてしまう人たちは存在します。さらにそこが狭い世界で、マジョリティが正当化されてしまったら、弱い者たちはどうなってしまうのか…

彼らを愛して支え続けることは、きれいごとはいくらでも言えるがとても難しい。何故なら支える側もひとりの人間でしかなく、強く正しく豊かであるとは限らないからです。

ただ本書のラストシーンに登場する二人を見ていると、少しだけ救われる気がしたのです。

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2023年03月15日

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ネブラスカ州の片田舎が舞台のミステリー。女子高生の失踪で始まる。知的障害をもつ青年が疑われるが、彼を庇う雇主夫婦、姉の行方を追う弟。町の人々の抑圧された保守的な側面が浮かび上がる。

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2023年02月04日

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16歳の少女ペギーが突然姿を消した。自ら家を出たのか、事件に巻き込まれたのか。知的障害のあるハルが疑われる。町の住人のほとんどが顔見知りという地域での犯人探し。ハルの無実を信じている保護者代わりのコスタガン夫妻。疑う人たちと信じる人たちの諍いや狭い地域であるが故の及ぼす影響の大きさ。ミステリーではあるけどその要素よりも人間関係などの丁寧な描写で読ませる。

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2023年01月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

今年1冊目のハヤカワ・ポケミス。2022年アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞受賞作という事で、否が応でも期待値が増します。どなたかも書評されていたように、ミステリー作品としての趣きは少なく、アメリカの田舎町を描いた優れた小説を読んだ印象です。ただ、アメリカ人は、こういう作品を好みそうなので、受賞も頷けるし、個人的にも嫌いでは有りませんでした。
舞台は、ネブラスカ州リンスラム。鹿狩りが、解禁となった週末に、16歳のペギーが姿を消してしまう。始めは、ただの家出と思われていたが、行方も摑めず、失踪する理由も無い。事故か、はたまた事件に巻き込まれてしまったのか?話は、ペギーの弟マイロの視点、事件への関与を疑われているハルの親代わりで有るアルマとクライルのコスタガン夫婦の視点から描かれている。
マイロのパートは、さながら映画「スタンド・バイ・ミー」のように、マイロの子供から少年への成長の物語とも見て取れます。マイロのパートは、とても素晴らしいです。そして、全てが明らかになり、これまでの人生の重しが取れたと思えるアルマとマイロとの最後の場面は、とても印象的で余韻の残るエンディングとなっています。☆4.6

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2023年01月13日

Posted by ブクログ

マイロの姉、ペギーがいなくなった。夜にこっそり家を出て帰ってこない。家出か、事故か?
やがて、近くに住む障害のあるハルが殺したのでは、という噂が町中に広まっていく。母親に見放され一人暮らすハルを気にかけている農場主の妻・アルマとマイロの視点でストーリーは進んでいく。

田舎の町特有の秘密の作れない環境や、障害があるだけで疑われがちなことなどなど、国が変われど同じなんだなぁと感じた。姉を失ったマイロのこれからに、ちょっと希望が持てる。

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2023年07月09日

Posted by ブクログ

1985年11月ネブラスカ州ガンスラム。鹿狩りの季節を迎えた田舎町で女子高生ペギーが失踪。ペギーに好意を抱いていた知的障害のある青年ハルは同じ頃鹿狩りの帰りに血がついたトラックに乗っていて……。→

ミステリ色は薄め。ペギーの弟マイロとハルの雇用主であり保護者代わりでもあるアルマとクライルのさん人の視点で描かれる物語。
マイロがいい子なんだよなぁ。終盤の母親とのやりとりとか、もう、ね。幸せになってほしい。→

アルマはなんというか、読んでいてしんどかった。シカゴから来た愛想のない妻。子供はいなくてコミュニティに馴染まない。ああツライ。
ハルへの対応やクライルとの関係も途中辛くて、マジ読めるのか私?となったけど、ラストは私的にはスッキリ。読後が爽やかなんで良かった……!

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2023年06月04日

Posted by ブクログ

女子高生の失踪という事件を描いているのですが、ミステリー色はあまりなかったように思う。小さな田舎町の閉塞感が心に残る。濃厚な地域のコミュニティに馴染めないアルマ(私もやっていけないと思います)。子供を持つことの出来ない苦悩も強く伝わってきてこちらまで苦しくなった。クライル(旦那)、あんなに良い人物なのに不倫してしまうところが人間の(男の)弱さなのでしょうか。知的障害者がこういう偏見の強い地域社会で暮らしていくことの難しさとか真相究明以外のことがメインだったように感じました。

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2023年03月04日

Posted by ブクログ

1985年11月、鹿狩りの季節を迎えたネブラスカ州ガンスラムで、1人の少女が行方不明となった……。以上。
たったこれだけで、なんの手がかりもなく3/4ほどを読ませてしまう豪腕である。田舎町ゆえの、開放的なのか閉鎖的なのかよくわからない空気感や、疑心暗鬼に陥る人々の心理描写が巧みだった。ただ、おもしろかったかというと、微妙な感じである。少なくとも期待していた“ミステリー”としてのおもしろさではなかった。
2022年度アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞受賞作。

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2023年01月24日

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