【感想・ネタバレ】人間論のレビュー

あらすじ

家族、国家、宗教、政治、人生、文学。かつては日常生活に密着していたはずの素朴な言葉を無化し、巨大な虚無へ堕ちていこうとする現代人に救いはあるのか。著者は自らを「保守主義」たらしめた体験の自己解釈を通じて、「歴史と伝統に裏打ちされたルールなしには生きられない」という人間の存在証明に挑む。理性と感情の均衡へのあくなき意志をもって、その思想的枠組みの全容を初めて明らかにした書。

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Posted by ブクログ

保守主義が依拠するべき人間理解についての哲学的考察をおこなっています。

ウィトゲンシュタインは、言語は慣習の体系だと語りました。これを受けて著者は、言語は底抜けでありながら、いやむしろ底抜けであるからこそ、伝統の体系によってみずからを支えようとする努力を続けなければならないと主張します。伝統とは、何らかの実体ではなく、言語活動によってたえず自分自身を振り返り自分自身を確かめ続ける営みと理解されなければなりません。

こうした観点から著者は、一神教の伝統との緊張関係の中で、文化人類学に代表される価値相対主義的な知見を生み出した西洋の知的営為に対する敬意を表しています。他方日本では、長きにわたる多神教の伝統の結果として多文化に対して寛容な姿勢が確立されていると主張されることがありますが、こうした主張にひそむ自己主張に著者は批判を呈しています。

著者の考える保守主義は、みずからの拠って立つ足場の不確実性を自覚しつつ、みずからを支える知恵を歴史の中に求めていく立場です。こうした立場から、著者は歴史を捨てた戦後を批判し、現代では保守主義はユートピアニズムであるほかないと述べています。著者は、歴史から遊離した大衆の中に埋没してしまうことを拒否し、歴史の知恵を掴み出す言葉の必要性を訴えています。

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2014年03月01日

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