感情タグBEST3
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空っぽになったチョコレート工場で町の人の想いがひとつになった。クジラの骨格標本、鯨オーケストラ、8ミリフィルムの投影、ピアノとヴァイオリンの演奏‥
読み終わりが心地良かった。
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住んでいる街に鯨が眠っている。なんてステキなことだろう。。そういえば、「アスファルトの下には森が広がっている」と教えてくれたのも著者だったか。
自分の足元に広がる世界に思いをはせる。
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吉田篤弘さんの作品を読むのはまだ3作目なのだけど、
いつも始めの1行が素晴らしい。
「この世界は、いつでも冬に向かっている。」
グッと引き込まれて、まだどのような内容かも分からない私を、ストンとその世界に着地させてくれる。
クラフトエヴィング商會としての装幀も、吉田さんのイラストも可愛らしくて、創造力が掻き立てられる。
それに読み始めて直ぐ、他の作品に繋がる欠片を見つけた。
「それからはスープのことばかり…」の街や空気感…。
「天使も怪物も…」の未来予測、鯨、作家、眠り…。
そしてどちらにもあった映画上映シーン。
きっと吉田さんの中には別の世界が存在していて、そこはどこか懐かしく、ちょっぴり私達の住む現実とは違っているけれど、
魅力的な人々が毎日を営み暮らしている。
彼らの暮らす世界は、遠いようで実はすぐ傍なのかもしれない。
吉田さんは…というより「太郎君」は、世界はいつでも冬に向かっており、我々一人一人もまた冬に向かいつづけていると言う。
いま、自分が四つの季節のどのあたりまで来ているかは分からないけれど、神様がそのように世界をつくったからと。
唐突だが、私は暗渠という言葉をNHKのブラタモリで知った。
かつては川だったが、今は水面が見えないように蓋をされた水路だ。
本作では暗渠が最も重要なキーワードだ。
暗渠がイメージ出来れば、『「むかし」や「かつて」はそう簡単には消滅しない』で、『「いま」と隣り合わせ』で『息づいている』との作者のメッセージをしっかり受け取ることができる。
暗渠がまだ川だった頃、迷い込んできた鯨がいたと椋本さんが話し始める。
人々の生活区域に鯨が入り込むエピソードは「天使も怪物も…」でも語られた。
鯨オーケストラも「天使も怪物も…」のエピソードと響き合う。
2023年2月28日に角川から吉田さんの単行本「鯨オーケストラ」も発刊されるらしい。
そうやって象徴的な何かを作品の共通事項としながら、世界観と時間軸が少しずつずれたストーリーを、吉田さんは紡ぎ続けているのかな。
切り取り方、時間軸、キャストを変えながら、吉田さんは変わらぬメッセージを私達に送り続けてくれている。
全ての吉田作品が音叉のように響きあっているように感じて、不思議な思いだ。
吉田さんが作品に散りばめている欠片は、まだまだ沢山ある。
吉田さんお馴染みの懐かしい街並みや欠片達に導かれ、私もその世界に入り込んでゆく。
それがとても心地いい。
鯨塚の云われも、流星新聞の由来も、コウモリ傘が降ってきた日に帰ってくるミユキさんも、其々のエピソードが素敵で、
それらも吉田篤弘ファンとしてうっとりするところ。
それから、他の吉田作品みられるスープやパンのように、
私達がその言葉を聞いたときに思い浮かべる、共通の温かさや匂いやホッとする美味しさを、
小説の中に上手に織り込むのも魅力のひとつ。
今回はオキナワステーキでありバイカルカレーであった。
同様に吉田さんは天気や季節が持つ、私達の共通のイメージを取り込むのも巧みだ。
2章で初めて語り手である太郎君のフルネームも明かされる。
2章以降も吉田さんの作り出す不思議で素敵なエピソードが続くけれど、紹介し出すとキリがない。
うっかり落としてしまったメアリーの「ア」、「ひろげたシーツが風に飛ばされないよう、要所要所に置かれた、重しのようなものだった」というアルフレッドの「ア」など。
太郎君の思いとして『自分の手で土の中から「おとぎ話」のかけらを見つけ出すのは、骨そのものが見つかるだけでなく、より深い奥行きをもった神話に指先で触れる思いだった』との文章があるのだけど、
これって、素敵なエピソードをご自身の中から見つけ出した時の、吉田さんご本人の感覚なのではないかと思った。
そしてアルフレッドの言葉として、
「小さなかけらを拾い集めて、大きな輪郭を見つけ出すこと」
カナさんの台詞として、
「だって、たいていのものはかけらなのよ。分かりにくいだけでね、すべてが何かの一部なの」
と続く。
小説1つ分の心地良さは、読み終えても暫く私の中に留まってくれる。
その余韻が去ったあと、また新たな1冊を手にしたくなってしまうのだ。
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僕は屋根裏のチェリーから読み始めたので、こちらが別視点という印象でした。
ひとつの物語を2つの視点から読むのは楽しいですね。登場人物一人一人が素敵で特にカナさんが好きです。
不思議な魅力です、流星シネマから漏れでる音を聞きながら煙草を吸ったり、野良猫の頭を撫でてやったりといった描写は美しいなと思いました。
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詩のような一節がたくさんあって、文章が美しい作品でした。登場人物たちの性格や心境を書きすぎず、読者が想像する余地を残してもらえているようにも感じます。ゆったり進んでいた物語が、終盤にかけて大きく動き出し、エンタメ的な楽しみも味わえます。
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入りたい世界ランキング1位
穏やかに流れる日常の中で素敵な個性をもつ登場人物とひっそりゆっくり暮らしたい。
かつて鯨がいた町。
いろんな「むかし」が眠る町。
流れる時間に身を任せながら、「もういちど、最初から始めてみよう」
安心させてくれる優しい文体がとてもいい。
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「屋根裏のチェリー」を買おうと思っていたが、その前の話があると分かり、こちらから読むことにした。
都会のへりの窪んだところにあるガケ下の町で、「流星新聞」を発行する手伝いをしている太郎君と、その周りの人たちの話。
自分が創刊した「流星新聞」を太郎君に託して故郷に帰ったアルフレッド。
「メアリー・ポピンズ」を愛読しジュリー・アンドリュースにあこがれるミユキさん。
編集室に置いてあるピアノを弾きに来るバジ君。
詩集屋を営む“煙草をくわえた女神”カナさん。
幼馴染で〈オキナワ・ステーキ〉の店主・ゴー君と、流し目が素敵な看板娘のハルミさん。
個性的なコーヒーとカレーのお店〈バイカル〉の店主・椋本さん(兄)と、クジラが眠ると言われる町の研究をする椋本さん(弟)。
転校生のアキヤマ君。
黒い革のケースを抱えて〈オキナワ・ステーキ〉に通ってくる丹後さん。
〈鯨オーケストラ〉のオーボエ奏者・岡さん(サユリさん)。
人の記憶とそこからにじみ出る心情について何度も語られる物語だが、出来れば忘れてしまいたいけれど決して忘れてはならない記憶になったアキヤマ君のエピソードが強烈。
人間が手に入れた「忘却」という能力の中で、忘れてはいけないことなのに日々の生活の中で薄れていく記憶との付き合い方が切ない。
ガケ崩れによって突如現れた鯨の骨や本のタイトルにつながる8ミリフィルムのエピソードも印象的。
『小さなかけらを拾い集めて、大きな輪郭を見つけ出す』と語られた編集者の仕事さながら、散り散りになってしまったものとかみんなが忘れてしまったもののかけらを集めて、忘れていた出来事や懐かしい人を浮き彫りにする。
個性的な町の人々と、彼らが暮らす静かで穏やかで不思議で意味深な世界が、心地良かった。
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久々の吉田篤弘さんのお話。どこを切りとっても吉田メロディが流れています。
ちなみに私の古い知り合いのオーボエ担当が「オカさん」だったので、すっごいシンパシーが生まれました。続編にあたるお話はそのオカさんがメインのようなので楽しみです。
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雨が似合う物語だった。
物語を貫くところに水の流れがあり、流れる水のように登場人物たちに淀みがなかった。
文章は詩的だけど難解な言い回しなどはなく、優しく流れる舟のような物語にどんどんと運ばれていく。
個人的には登場人物たちも魅力的だが、アクがなさすぎるのが物足りなくも感じた。清らかな小川の中にもほどよく汚れがあった方が、物語として味わいが深くなるのではないだろうか。
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吉田篤弘さんの本3冊目。
どれも、ゆっくりと何気ない物語が進む、
本の中にも書かれてたけど、
現実が物語の続きなのか、
身近なところで起きてる出来事なのか、
錯覚しそうになる、身近に感じる、優しい雰囲気。
(世界はいつでも冬に向かっている)
冬のひとときの読書にぴったりです。
鯨の伝説が残る街で流星新聞を発行している主人公。
幼少期の出来事が、街のさまざまな人物を通して、
クライマックスの流星シネマに通ずる。
じんわり感動しました。
矛盾と仲良くならなきゃ人生おもしろくない
だったかな、いい台詞です。
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何気ない日常を淡々と綴った小説です。町の喧騒や雑踏からかけ離れ、会話のテンポややり取りも余計な感情が削ぎ落とされた印象なのですが、不思議なことにずっと読んでいたくなる魅力があるのです。これが吉田篤弘さん特有の世界でしょうか。
主人公・太郎の視点で描かれる日々は、優しさと静けさ、寂しさと哀しさが同居し、幻想的な雰囲気さえ醸し出しています。
物語の舞台が、<鯨塚>というガケの下の町で、暗渠(地下埋設の川・水路)があり、かつて、この川に鯨が迷い込んで絶命し、埋葬されたという逸話があるのでした。
「今」と「かつて」を結び付ける、というより、つながっていることを示した浪漫が感じられます。「あとがき」に次の一文が…。
<なぜ物語を読むのか、書くのかといえば、この騒がしい世の中に暮らしながらも、ひととき、書物のかたちになった静寂に立ちかえり、心身を「澄ます」ためではないか>
なるほど納得です。日常にフィルターをかけ、異世界へ連れて行ってもらえるような心地よい読書体験ができました。
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世界のどこか知らない町の物語、ゆったりとした平和な日常、静かに町の歴史に刻まれた悲しい過去。
吉田篤弘さんの文章は、ゆったりと美しくてほんのりと寂しさがあったりしながら心温まる、というイメージ。
ハラハラさせる作品が苦手な私にぴったりだ。
4日くらいで読み切った。
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見えない川が 静かに、静かに、流れるような不思議なお話。
現実の話として語られるのですが、ファンタジーのようです。
それは、「目に見えないもの」について語っているからでしょうか。
昔、海からとんでもないものがやってきたという伝説の川がある町。
伝説の川は、今は埋められて遊歩道になっています。
でも、歩道の下は暗渠になっていて今でも川は流れているのです。
表に見えないだけで…。
ある発見が町を湧きたたせます。
詩人であり、詩集の編集者でもあるカナさんはこう言います。
「たいていのものはかけらなのよ。すべてが何かの一部なの」
かけらを形にしようと 作業を進めるうちに
作業に関わる人々の心に、未来へと向かう明るい変化が生まれます。
未完成なものがあるということは
目標に向かって手を休めない限り
いつか完成する日が来ることを意味するのですから。
静かで心温まる物語でした。
ただ、冒頭に書かれていた文言がずっと引っかかっています。
『この世界は着々と冬に向かい続けていて、
われわれもまた、ひとりひとり冬に向かい続ける。
けれども、今自分がどのあたりまで来ているのか分からない』
そして、中盤では、例のカナさんがある依頼を受けてこう言います。
「できるだけ急いでね。そうじゃないと…」
ちょっと切ない感じが残りました。
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お正月、のんびりまったり癒されました。
著者の作品の登場人物はどの人も、どこでもいるようでいない変わりものたちで。
今回も太郎さんはじめ、いい味だしていました。
こんな街に、お店に、人の中でのんびり長く暮らしたい理想郷のようでした。
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「むかしむかし、この町には大きな川が流れていて、その川へ、鯨が海から迷い込んできた」
そんなおとぎ話のような、ガケ下の町で、魅力的な個性あふれる人たちばかりが登場するお話。
淡々と続いていく清流のような、とても静かな物語です。
音もない断片的な8ミリフィルムを繋げたり、鯨の骨の標本を組み上げたり。
物事はすべてつながっているようです。
遠い昔の記憶、その小さなかけらのひとつひとつが温かく、じんわりと心に沁みてきます。
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鯨の話とアキヤマ君の話とオーケストラの話と…カナさん、バジ君、ハルミさん…全ての話と全ての人が個性的でありながら、主張的ではなくて静かに絡みあっていく様子に引き込まれ、ページを操る手が止まらなかった。
ファンタジーではないけれど、ファンタジーのような心地よい世界に浸りきった気分。
Posted by ブクログ
もともとこの著者の月とコーヒーが好きで追っかけて読み始めた。最初はなかなか流れに乗れず、読むのがゆっくりになり、そんな自分の読むテンポがいやでなかなか読み進められなかったけど、後半いきなり流れてきた!たぶん、話の内容と一緒で、中身も流れ繋がって行ったんやと思う。最後の方はほぼ一気に読んだ。結果面白かった。鯨も追いかけて、人がどんどん繋がって悩みで解決して、幸せになっていく。
しかも、珍しく私の頭の中の映像はセピア色の映像が勝手に構築されてて、それがなんだかノスタルジックで話の内容と合ってた。是非読まれるは、セピア色の世界を思い浮かべながら読んで欲しい。
Posted by ブクログ
吉田篤弘さんの本,という本。アキヤマ君の話はつらかったけど,つらくなく終わるのが有難い。
続きがあるようで読まねば。一つ目のお話から読めて良かった。
Posted by ブクログ
"なんかいい"ものを、一度箇条書きにして、それを並べ替えて一冊の物語にしたかのような、宝箱みたいな小説でした。
せっかく柔らかくて緩いストーリなのに、ちょっと文体がキザで、私はあまり好みませんでしたが、"なんかいいなぁ"と思う要素に出会うたびにときめきがあり、とても心地よい時間でした。
Posted by ブクログ
海から流れ着いた鯨の亡骸が眠る<鯨塚>を臨むガケ下の町に暮らす青年とその周囲の人々を巡る喪失と再生の物語。著者の持ち味である静けさとノスタルジー、そして作品を包み込む穏やかなトーンが心地良く、雨の日にもってこいの読書だった。難点を挙げるなら、今作は全編が主人公の一人称視点で、登場人物が多い割には個々のエピソードを深掘り出来ておらず、従来の作品に比べて些か奥行きに欠ける仕上がり。とりわけ、最終章の畳み方はらしくないほど性急に感じてしまった。尤も、三百頁未満でこれだけの作品を描ける構成力は流石の一言に尽きる。
Posted by ブクログ
都会のヘリのガケ下の町。流星新聞という地方紙を発行するアルフレッドの手伝いをしている太郎。太郎自体は平凡でどこにでもいそうな癖のない人なのに、彼を取り巻く人たちは癖が強い。かつて鯨がたどり着いた。御伽噺のような歴史は、太郎の心にも残っているし、地元の人の心にも残っている。それは事件であったり、ロマンであったり、人それぞれの形になっている。そして、太郎をとりまく人たちは、人は点なのに、太郎が関わることで線になり、円になる。人と人の出会いは縁であることを柔らかく、優しく紡いだ物語だった。