あらすじ
生誕100年に紡ぐ、「理論物理学の巨人」の初めての本格的伝記!
――南部理論の前では、2012年に発見され「質量の起源」として喝采を浴びた
ヒッグス粒子も、巨象にひれ伏す小さなアリでしかない。――(本書より)
日本が生んだこの途方もなく大きな才能は、常人には理解しがたく、そのため、彼の生涯最高傑作
「自発的対称性の破れ」にノーベル物理学賞が授けられたのは発表後50年近くがたってからだった。
いつしか彼は、人々から「魔法使い」とも「予言者」とも呼ばれるようになった。
これまで語られなかった天才の実像を浮き彫りにし、「南部マジック」と呼ばれる数々の新理論は
どのように生まれたのか、そこに彼の「人間」はどう関わったのか、彼はなぜ米国に移ったのか、
などを解き明かす。
〔成功と失敗が交錯する南部陽一郎の生涯〕
・素粒子物理を志していたのに、物性物理の講座しかない東大にうっかり入学してしまったことが、
のちの「マジック」の種になった。
・留学したプリンストン高等研究所では成果が出せず絶望状態に陥り、日本では教授職にあったのに、
「ポスドク」扱いでシカゴ大学に移った。
・シカゴ大学で出会った物性物理の新理論が気に入らず、いらだち、しかしやがて恋に落ちたことで
生まれたのが「自発的対称性の破れ」の理論だった。
・発表前に新理論の内容を明かしてしまい、ほかの研究者に先に論文に書かれるという痛恨のミスを
犯した。
・90歳になっても、宇宙を記述する理論として流体力学に関心を寄せ、その研究に情熱を傾けていた。
「自発的対称性の破れ」「量子色力学」「ひも理論」などの新理論のなりたちを理解しながら、
生涯、現役の科学者を貫いた生き方に心打たれる、「科学」を忘れつつある日本人必読の書!
(目次)
第1章 福井の神童
第2章 東大理学部305号室の住人
第3章 天国か地獄か、米プリンストン
第4章 自発的対称性の破れ
第5章 南部理論が生んだヒッグス粒子と電弱統一理論
第6章 クォークめぐるゲルマンとの対決
第7章 ひも理論VS量子色力学
第8章 「予言者」南部とノーベル賞
第9章 福井新聞記者が見た南部の素顔
第10章 生涯、現役の科学者
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Posted by ブクログ
理論の話も面白かったけど、南部先生の研究者としての歩み、挫折とか不遇の日々とか奥さんとの生活や他の研究者との交流とか、そんな人間の姿が見えて、歴史上の教科書に載る偉人じゃなくて、人間南部陽一郎が感じられる。
天才物理学者南部先生の生涯
個人的な意見だが、日本歴史上一番偉大な科学者は南部陽一郎先生だと思う。
日本人なら誇りに思うべき偉人。
この本は誕生から東大時代、プリンストン高級研究所時代、そしてシカゴ大時代、と先生の人生の詳しく書かれている。
東大時代のハイライトは南部先生が約10人の朝永グループとラム・シフトの計算で競争し、善戦したことだった。
ラム・シフトは世紀の大天才と言われたアメリカのファイマンとシュウインガ―も一人で計算した
込み入った計算なのだが、南部先生の実力はこの世紀の大天才と同じレベルにあったと言うことである。
この下りは感動ものだ。
この他にも南部先生の大きな業績、自発的対称の破れ、紐の理論などに到達した経過が詳しく書かれているだけでなく、
他の学者の業績と一般に思われている理論にも南部先生が大きくかかわっていたことが分かる。
日本人なら大和民族最高の頭脳の持ち主南部先生の伝記は是非読むべき。
Posted by ブクログ
雑誌、Newton(ニュートン)2024年2月号「永久保存版、科学の名著」に紹介されていたのをきっかけに手に取りました。素粒子や、クォークという名はよく聞きますがその概要はよく分からないまま何となく知ったかぶりをしていたが、やっとその本質を理解できた。また、南部陽一郎氏という稀代の物理学者の人生を垣間見ることができ、ますます物理学への興味をそそられる至極の一冊であった。
Posted by ブクログ
早すぎた男 南部陽一郎物語 時代は彼に追いついたか。中嶋 彰先生の著書。才能あふれた天才研究者は時代の先の先をいくから周囲から理解されにくい。才能あふれた天才研究者は時代の先の先をいくから周囲から変人扱いされてしまうこともある。でも才能あふれた天才研究者は本当に優れた研究成果を出すためには周囲の理解も周囲の偏見も気にしない。凡人にできることは才能あふれた天才研究者の邪魔をせずに見守ること。
Posted by ブクログ
尊敬してやまない南部先生の一生について深く知ることが出来た。今までは南部先生の研究成果ばかりを見ていて、南部先生ご自身のことについては深く知らなかったし、研究成果か凄すぎて本当に同じ人間なのかと疑いたくなっていたが、この本を読むことでごく普通の人としての側面が見えてとても良かった。
研究内容については一般向けに簡単に書かれていたので、これから専門書でより詳しく調べていこうと思う。特に場の量子論を勉強していく上でとてもやる気が湧いてくる内容だった。
この本に出会えてよかった。
Posted by ブクログ
南部陽一郎の半生を彼の研究成果と共に追っていく。
素粒子物理学についての入門書を見ると、いかに南部が凄いかが書いてあることが多く、元々興味があったので、ワクワクしながら読んだのだが、なんせ難しい。彼の研究内容に関してはちゃんと理解しきれなかった。
彼が、素粒子物理学の世界の発展に多大な影響を与えたことが、様々なエピソードでわかる。中身わからなくても面白い。
Posted by ブクログ
主人公である南部陽一郎がノーベル賞を受賞したとき、日本人でありながら米国国籍ということが気になったことを覚えている。本書はそんな南部陽一郎の伝記で、彼が米国国籍を取得した理由についても解き明かしている。そして、彼の卓抜した思考力・洞察力を称賛するだけでなく、その穏やかな人柄、苦労したエピソードなども盛り込み、研究者としてだけでなく、人間としての南部陽一郎を描き出している。
素粒子物理は、目に見えないこともあり、理解が難しいが、物理学ことばはじめと称するコラムでの解説を含め、何となく分かったような気にさせてくれる。難しい本かと思ったが、読みやすい伝記であり、面白かった。
Posted by ブクログ
一流の物理学者の伝記を読むのが三度の飯より好きです(笑)。南部陽一郎は最近まで存命だった理論物理学者ですが、彼の人生については初めて知ることばかりでした。シカゴ大学に赴任したときは有名な研究者ではなかったのですね。論文の数も少なかったけど、彼のボスが彼の才能を見抜いてすぐに准教授にしました。世界に知られた大きな仕事をしたのはそのあとです。スタンフォードやMITから声がかかったけど、シカゴ大学に奉職し続けます。シカゴという場所が住みやすかったようです。
奥さんとの馴れ初め、初めての米国留学(プリンストン高等研究所)での挫折、次男の早世などとても興味深く読みました。シカゴ時代の彼の周りに集う綺羅星のような物理学者たち。眩しいです。晩年は阪大(私の母校)に研究室を持っていたとは。
Posted by ブクログ
ノーベル賞まで最短の距離にいると思われながら、どれほど長く待たされたことだろう。
そんな思いを確信させられるドラマのような人生。
自発的対称性の破れ、量子色力学、ひも理論、どれも時代の先を行き過ぎた思考、その難解さに理解が追随されず、孤高の研究を重ねたことだろう。
最先端の素粒子物理学をたどるとともに、南部さんの人間性を感じられる伝記の進め方に、全編をとおして暖かさが感じられた。奥さんとの出会い、家庭の雰囲気、長男との葛藤や次男の不幸が重なりながらも、充実した人生を全うされたことが伺える。
南部チルドレンと呼ばれる弟子たちが、その功績を纏め上げた注力の先に、ノーベル賞受賞の重き扉がようやく開いた。最も印象に残った言葉は、子供たちが横になって休んでいる南部さんに、遊びをねだるが、「いま、お父さんはお休みで忙しい」と断った。南部さんの頭の中では、何もしてないときが全開である。こうした思考モードが偉業につながる、天才の証左だろう。
Posted by ブクログ
読みやすくとても良い本だった。
南部先生というと、天才というイメージだが、怠け癖があって朝家を出て出勤せず映画館で映画を見ていたり、プリンストン研究所時代は成果が出ずうつうつとしていたり、人間味ある一面がわかってよかった。
南部先生というと、私は素粒子論の方というイメージだったが、実は東大の学生時代は東大では当時素粒子の研究室がなく物性物理を学んでおり、当初はイジングモデルの研究などをしており、これが後の成果にも繋がったというのが意外だった。そして物性理論を素粒子論に持ち込み成果をあげたとのこと。そして90を過ぎた晩年は流体力学を研究しているという幅広い分野に興味を持っている方というのが素晴らしい。
また、世界で活躍する日本人物理学者が多数出てきて、改めて物理学における日本人の活躍がわかって誇らしい。
Posted by ブクログ
遊びをせがむ子供に言った言葉、「お父さんはお休みで忙しい」が傑作!寝転がっていても頭の中は高速で数式が展開されているらしい!そんな南部のノーベル賞受賞は本当にギリギリのタイミングだった。現在の物理学の主流になっている数々の概念を創始した南部に、ノーベル賞を与えなければあまりにバランスに欠くとノーベル賞委員会も焦っていたのではないかとの事情も透けて見える。また米国籍を取らざるを得なかった事情も心を打たれた。
Posted by ブクログ
2008年ノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎さんの評伝です。受賞テーマは「自発的対称性の破れ」だったのですが、当時いくらニュースでかみ砕いて説明を聞いても良く分かりませんでした。そのテーマを正面から扱った本を読破する自信がなく、南部先生の評伝なら何とかなるかなと思って読んでみました。
「自発的対称性の破れ」に関しては結論としては理解できなかったのですが、南部先生という人が物理学界でいかに突出した存在であって、本来ならもっと早くノーベル賞を受賞すべき存在であったことが良く分かりました。また、実績を上げるまでに大変苦労をされた経緯や、自らの功績を論文で発表する前に公表してしまい、その功績が他の研究者の功績とされてしまった失敗談など、南部先生の人間臭い一面も描かれています。
南部先生は1960年代~80年代にかけて主に業績を上げられていますが、その間に南部先生が関わりをもたれた研究者として湯川秀樹、朝永振一郎、アインシュタイン、オッペンハイマー、小柴昌俊、益川俊英、小林誠、などなど錚々たる顔ぶれです。
南部先生が取り組まれた素粒子物理学の研究内容を理解するにはいくらブルーバックスでも1冊では無理だと改めて実感。そこの理解は諦めて、日本にこんなにすごい研究者がいたのだ、ということが感じられれば良しとするならば一読の価値はあると思います。
科学ジャーナリスト賞2022 優秀賞 受賞作品です。