【感想・ネタバレ】不定形の思想のレビュー

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Posted by ブクログ 2023年02月15日

 鶴見俊輔の前半期、早いもので1949年発表のものから1960年代の論考が収録されていて、特にコミュニケィション論は読み応えがある。
 今から見れば、コミュニケーションという言葉は当たり前に用いられているが、敗戦後間もない時期から言語とコミュニケーションについて考察を深めていったところに、鶴見の問題...続きを読む意識が感じられる。
 特に、『二人の哲学者ーデューイの場合と菅季治の場合』。菅季治という名前は、共産党のいわゆる徳田要請問題に絡んで自殺してしまった人という程度しか知らなかったので、この論考はとても参考になった。コミュニケーションとディスコミュニケーション、両方を考えなければならないということ。

 また、新渡戸稲造を論じた『日本の折衷主義』。鶴見によれば、新渡戸の折衷主義は、各個人の人格を軸とし、あらゆる種類の思想学説、あらゆる種類の経験から自在に養分を吸収できるように、その人格を準備するすじみちをつくる方法を解く”修養論“と、現実の日本国家の制度を軸とし、あらゆる種類の世界先進国の最新の知恵を取り入れて国民大衆の信用をつなぐにたるような政策として実行にうつす方法を解く“国体論”の2つの部分から成り立っているとされる。
 そしてこの新渡戸の思想は官僚的自由主義のバックボーンとはなったが、日本の戦争政策を押しとどめる方向に働くことはあり得ず、穏健な超国家主義、軍国主義、全体主義が生まれることになる、というのが鶴見の総括となる。

 第Ⅲ章には、学童期や米国留学時期の折々に考えた断片などを戦後に書き直した文章が収められているが、早熟と言ったら良いのか、かなり生きづらい時期を送ったのだろうなあと思わざるを得ない。
 『戦争のくれた字引き』。戦争によって精神の平衡を失っていく上司、心ならずも捕虜殺害の任務をせざるを得なかった同僚。いろいろなことを考えさせられる。






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