あらすじ
家族だからさびしい。他人だからせつない──禁断の恋に悩む兄妹、他人の男ばかり好きになる末っ子、居場所を探す団塊世代の長兄と、いじめの過去から脱却できないその娘。厳格な父は戦争の傷痕を抱いて──平凡な家庭像を保ちながらも、突然訪れる残酷な破綻。性別、世代、価値観のちがう人間同士が、夜空の星々のようにそれぞれ瞬き、輝きながら「家」というひとつの舟に乗り、時の海を渡っていく。愛とは、家族とはなにか。03年直木賞受賞の、心ふるえる感動の物語。
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あなたにとっての家族とは何か?
「おいしいコーヒーの入れ方」シリーズの村山由佳さんが、とある家族を描く短編集です。「おいしい~」シリーズのようなさわやかな恋愛とは異なり、描かれる話は、近親相姦、レイプ、不倫、いじめ、戦争体験と、どれも重く、苦しい。短編は家族の一人を主人公としていて、それぞれリンクしており、全体として一つの物語という構成です。
特に長女・沙恵の視点で描かれる「ひとりしずか」では、忘れられない人(長男のことだが)との、甘く切なく苦しい恋模様は、過去の村山作品を想起させます。内容は重いですが…。
家族という一番身近にいるのに、どこまでいっても孤独なのだと、それでも前に進むしかないのだと、家族を乗せた小さな舟に例えています。読む年代によって捉え方が異なると思います。きっとこの先も読み返すだろう一冊です。第129回直木賞受賞作。
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Posted by ブクログ
「幸福とは呼べぬ幸せもあるのかもしれない」
衝撃。
人に幸せねって言ってもらえる人生でなくていいし
だからって幸せじゃないわけじゃない。
言葉にすると強がって見えるし心もとないけど
読めばストンと落ちてくる。
好きで好きでやめられない、仕方ない人がいる。
その人が生きている同じ世界で自分も生きていて、
だからこそ心を通わせ合い、なんなら触れ合い、
添い遂げられなくてもいつも心を満たす。
その人にも自分だけ。そうお互いになんとなくわかっている。
それだけでそこに存在する価値がある。生きる価値がある。
片割れだからお互いに。生きないと。
そりゃそんな二人が一緒にいられるともっと幸せに違いない。
でも、一緒にいられなくても、触れられなくてもいい。
だから私を消さないで。私からその人を消さないで。
それ以上何も望まないから。
ところで、私は人生において結婚や子育ては情熱を、命を燃やすための必要アイテムなのではないかと思うときがある。
妬みやひがみなのかもしれないけど、「結婚」や「子育て」は、「暇な人生」への解決策、「人生を全うできないような手持無沙汰感」を紛らわすための手っ取り早い方法にすぎないのではないかと。
人は生まれたときからライフポイントを持っていて、生きることにともなう精力の使用量でそれは減り、使い切ることが使命なのだとすると、打ち込む仕事や趣味がない多くの一般的な人はなかなかそのライフポイントが減らない。だからどうしたって神経や精神力、体力をすり減らす結婚や子育てをしようとする。それはライフポイントの半分以上を稼ぐとこができるボーナスタイムだから。
恋愛においてひとりの人を愛すると決めて貫くことは、同じくらいのポイントになると私は思う。自らをひとり孤独に耐え、守り、大事にするということ、そして愛す一人をどんな形であれ守り抜くということがどれだけライフポイントを削るか。
そんな相手に出会えた幸運は奇跡で尊く、辛く、幸せだ。
どちらかと言えばむしろそういう唯一無二の人に出会うということはむしろ、「人生の全う」を約束された勝ち組の人生なのかもしれない。そうであればいいと思う。
Posted by ブクログ
死後5分後くらいに「生きるとは何か?」と聞かれている感じ。壮大な読後感。
あらすじを読んで、直木賞受賞作が兄妹愛だけで書き切れることある?と思ってたけど、とんでもなかった。言葉に溺れた。
恋愛を含む、人生。もはや恋愛を死と並ぶほど、大きなものとして捉えられていた。恋愛小説というか、人生本というか、歴史書。
村山さんは戦争小説ではないと言っていたけれど、どうしてもその印象は強い。自分が生まれるのが少しずれていたら、と考えさせられた。
この時代でできることできないこと、メリットデメリット、たくさん享受してたくさん味わって死にたいな。
・言葉なんかにこだわるより心が大事だろうという者もいるが、言葉ってのは案外正確に、使う人間の内面を映し出すものだよ。いわば心の鏡みたいなものだ。
Posted by ブクログ
久々にこれ、と思える作家に出会えたかもしれない。1つの家族のメンバーそれぞれを主人公にして書かれた6つの短編は、どれも不幸に満ち満ちているようで、希望の光を感じずにはいられない。そんな雰囲気を感じた。文体も硬すぎず、柔らかすぎずの絶妙なバランス。人の世って基本的に不幸の割合が多めだけど、希望も確実に日常に転がっているよね、そんなふうに思わせてくれる一冊。
Posted by ブクログ
禁断の恋に悩む兄妹、他人の恋人ばかりを好きになってしまう末妹、自身の居場所に悩む長兄、幼馴染への恋慕、親友に対しての劣情を抱えていた孫、戦争の傷を抱える父、それぞれの視点から語られる彼らのこれまでの人生を通して星々を繋ぐように見えてくるひとつの家族の形、彼らの在り方。
「足を踏んだほうはすぐ忘れるけど、踏まれたほうはそう簡単に忘れられないもの」
家族間で互いに様々な感情を向けていたけど、彼ら、特に子供たちの劣情は作中のこの言葉に尽きるなと思った。
読み進めてそれぞれの見てきた世界を知れば知るほど、登場人物の見方が変わる。表面的な情報、断片的な状況で捉えられるものなんてない。わたし達は自分のことすら完全にわかることはできない。だからこそ語り合うこと、自分自身で触れ、確かめていくことが大切なのだと漠然と思った。
途中読み進めるのが辛くなってしまう描写もあったが筆者のあとがきにもあるように、一筋の光があるような構成ではあったのでそこは救いだったなと思う。
印象的だったというか良いなと思ったのは最後まで志津子の語りがなかったこと。後悔も思い出も、これまでの人生に意味を持たせるのも、抱えている気持ちを語るのもあくまで生者だなと思った。
Posted by ブクログ
戦争時代の心の傷を引きずり家族に怒鳴り散らす父、生真面目ながら流されて不倫する長兄、血がつながっていると知らず恋に落ちてしまった兄と妹、不倫でしか恋愛できない末妹、そして彼らを優しく見守り亡くなった母。彼ら一人一人の明るく寂しい日常を順に描いた短編集。
作者にしては珍しく青少年以外が主人公で、テーマも「叶わぬ恋」と少し重い。本筋以外にもどす黒く生々しい描写が多く、文体や作品の雰囲気からはかけ離れて暗い。読んでいてどうしても沈んだ気分になるが、なんとなく気になって最後まで読めてしまい、読後感はほんわかして意外に悪くない不思議な作品。
Posted by ブクログ
−幸福とは呼べぬ幸せも、あるのかもしれない
全てはこの言葉に凝縮される物語
自分にはまだ理解が及ばない
いつかわかる日が来るのだろうか
Posted by ブクログ
雪虫
水島暁
産みの母は幼い頃に亡くなった。育ての母がくも膜下出血で亡くなる。小樽港に近い古い倉庫を利用した西洋骨董の店の経営を任されている。
涼子
志津子
暁の育ての母。後妻。
水島重之
暁の父。大工。
晴代
暁の産みの母。暁を産んだ翌々年に亡くなった。
貢
暁の兄。
沙恵
志津子の娘。
美希
重之と志津子の子。暁の妹。
奈緒子
暁の妻。
堂本
奈緒子の父。暁の義父。
和夫
昌子
西洋骨董店の学生アルバイト。
頼子
貢の妻。
政和
清太郎
暁と同い年。
清水
電気屋。
河村
酒屋。
寺沢
タイル屋。
加代子
寺沢の妻。
子どもの神様
美希
相原
美希と不倫関係。
岡田
営業。
沙恵
貢
ひとりしずか
沙恵
チョウさん
年輩の大工。沙恵に性的虐待をしていた。
重之
志津子
田辺孝一
沙恵が一日付き合った浪人生。
清太郎
聡美
青葉闇
貢
北村真奈美
貢が課長補佐を務める広報課に移ってきた。貢と不倫関係。
頼子
政和
聡美
貢の娘。高校生。
久保田
貢の部下。
重田
課長。
樋口
雲の澪
聡美
祖父・重之の家で沙恵と住んでいる。
深津健介
聡美の幼馴染。
頼子
中学校の教頭。
楡崎可奈子
高二の二学期に転入。三年にわたるアメリカ生活に加え、絵に描いたような美少女。
重之
政和
美希
横田珠代
小学生時代から聡美をいじめていた。
名の木散る
重之
沙恵
曾根原光夫
重之とは徴兵の同期の中で一番親しくなった男。
頼子
聡美
晴代
志津子
ヤエ子
慰安婦。姜美珠。
Posted by ブクログ
家族の一人ひとりに焦点をあてた連作。
義母兄妹の恋愛や部下との浮気や不倫、慰安婦への想い…叶わないのに焦がれる心情とか、それぞれ内に荒々しく激しい情動をもちながらも、刻々と過ぎていく時の流れにたゆたうような、深く静かな話だった。
胸に秘めた鮮やかな感情を、歳を重ねて静かに奥深く沈ませながら、送る日常。じれったくもどかしいような、でもそれがリアルで、読んでて苦しくなった。
一人の章だけでもいいくらい、どの章も恋愛部分だけではなく、何に葛藤を抱えて、その想いをどう昇華させるのか、変化の過程を丁寧に描いていて、読み応えがあった。