【感想・ネタバレ】星々の舟のレビュー

あなたにとっての家族とは何か?
「おいしいコーヒーの入れ方」シリーズの村山由佳さんが、とある家族を描く短編集です。「おいしい~」シリーズのようなさわやかな恋愛とは異なり、描かれる話は、近親相姦、レイプ、不倫、いじめ、戦争体験と、どれも重く、苦しい。短編は家族の一人を主人公としていて、それぞれリンクしており、全体として一つの物語という構成です。
特に長女・沙恵の視点で描かれる「ひとりしずか」では、忘れられない人(長男のことだが)との、甘く切なく苦しい恋模様は、過去の村山作品を想起させます。内容は重いですが…。
家族という一番身近にいるのに、どこまでいっても孤独なのだと、それでも前に進むしかないのだと、家族を乗せた小さな舟に例えています。読む年代によって捉え方が異なると思います。きっとこの先も読み返すだろう一冊です。第129回直木賞受賞作。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

「幸福とは呼べぬ幸せもあるのかもしれない」
衝撃。
人に幸せねって言ってもらえる人生でなくていいし
だからって幸せじゃないわけじゃない。
言葉にすると強がって見えるし心もとないけど
読めばストンと落ちてくる。
好きで好きでやめられない、仕方ない人がいる。
その人が生きている同じ世界で自分も生きていて
だからこそ心を通わせ合い、なんなら触れ合い、
添い遂げられなくてもいつも心を満たす。
その人にも自分だけ。そうお互いになんとなくわかっている。
それだけでそこに存在する価値がある。生きる価値がある。
片割れだからお互いに。生きないと。
そりゃそんな二人が一緒にいられるともっと幸せに違いない。
でも、一緒にいられなくても、触れられなくてもいい。
だから私を消さないで。私からその人を消さないで。
それ以上何も望まないから。

ところで、私は人生において結婚や子育ては情熱を、命を燃やすための必要アイテムなのではないかと思うときがある。
妬みやひがみなのかもしれないけど、「結婚」や「子育て」は、「暇な人生」への解決策、「人生を全うできないような手持無沙汰感」を紛らわすための手っ取り早い方法にすぎないのではないかと。
人は生まれたときからライフポイントを持っていて、生きることにともなう精力の使用量でそれは減り、使い切ることが使命なのだとすると、打ち込む仕事や趣味がない多くの一般的な人はなかなかそのライフポイントが減らない。だからどうしたって神経や精神力、体力をすり減らす結婚や子育てをしようとする。それはライフポイントの半分以上を稼ぐとこができるボーナスタイムだから。
恋愛においてひとりの人を愛すると決めて貫くことは、同じくらいのポイントになると私は思う。自らをひとり孤独に耐え、守り、大事にするということ、そして愛す一人をどんな形であれ守り抜くということがどれだけライフポイントを削るか。
そんな相手に出会えた幸運は奇跡で尊く、辛く、幸せだ。
どちらかと言えばむしろそういう唯一無二の人に出会うということはむしろ、「人生の全う」を約束された勝ち組の人生なのかもしれない。そうであればいいと思う。

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2023年01月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

家族それぞれの、人に言えない恋愛の話。
たまに母親には元彼がいたのだろうかとか、どんな人だったのだろうかとかを考えることがある。でも、家族のそういう話はゾクゾクするから、考えることをすぐ放棄する。
この本は、そういうのの全容を明らかにしたような、人生覗き見感が強かった。

聡美パートのおじいちゃんとのシーンが涙を誘った。
私は、母親が命をかけて腹を痛めて産んでくれたことをすぐ忘れてしまうが、おじいちゃんの熱いセリフによって思い出され、ドワっと日頃の感謝が湧き出てきた。

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2021年10月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

死後5分後くらいに「生きるとは何か?」と聞かれている感じ。壮大な読後感。

あらすじを読んで、直木賞受賞作が兄妹愛だけで書き切れることある?と思ってたけど、とんでもなかった。言葉に溺れた。

恋愛を含む、人生。もはや恋愛を死と並ぶほど、大きなものとして捉えられていた。恋愛小説というか、人生本というか、歴史書。

村山さんは戦争小説ではないと言っていたけれど、どうしてもその印象は強い。自分が生まれるのが少しずれていたら、と考えさせられた。

この時代でできることできないこと、メリットデメリット、たくさん享受してたくさん味わって死にたいな。

・言葉なんかにこだわるより心が大事だろうという者もいるが、言葉ってのは案外正確に、使う人間の内面を映し出すものだよ。いわば心の鏡みたいなものだ。


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2024年03月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

久々にこれ、と思える作家に出会えたかもしれない。1つの家族のメンバーそれぞれを主人公にして書かれた6つの短編は、どれも不幸に満ち満ちているようで、希望の光を感じずにはいられない。そんな雰囲気を感じた。文体も硬すぎず、柔らかすぎずの絶妙なバランス。人の世って基本的に不幸の割合が多めだけど、希望も確実に日常に転がっているよね、そんなふうに思わせてくれる一冊。

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2024年01月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

禁断の恋に悩む兄妹、他人の恋人ばかりを好きになってしまう末妹、自身の居場所に悩む長兄、幼馴染への恋慕、親友に対しての劣情を抱えていた孫、戦争の傷を抱える父、それぞれの視点から語られる彼らのこれまでの人生を通して星々を繋ぐように見えてくるひとつの家族の形、彼らの在り方。

「足を踏んだほうはすぐ忘れるけど、踏まれたほうはそう簡単に忘れられないもの」
家族間で互いに様々な感情を向けていたけど、彼ら、特に子供たちの劣情は作中のこの言葉に尽きるなと思った。
読み進めてそれぞれの見てきた世界を知れば知るほど、登場人物の見方が変わる。表面的な情報、断片的な状況で捉えられるものなんてない。わたし達は自分のことすら完全にわかることはできない。だからこそ語り合うこと、自分自身で触れ、確かめていくことが大切なのだと漠然と思った。

途中読み進めるのが辛くなってしまう描写もあったが筆者のあとがきにもあるように、一筋の光があるような構成ではあったのでそこは救いだったなと思う。

印象的だったというか良いなと思ったのは最後まで志津子の語りがなかったこと。後悔も思い出も、これまでの人生に意味を持たせるのも、抱えている気持ちを語るのもあくまで生者だなと思った。

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2023年10月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

うむ。
よかったです。
先日この作者の作品を読んで、人からもらえたので続けて2作目。
なんとなく根底に流れる空気感は同じなんだけど、(なんというか暗い事象が「根のいい人」たちの中で繰り広げられる)そしてまた、性的な問題とか事象が中心となって語られていくところも結構似てるんだけど、でも、完全に違う物語だったなぁ。
最後に、戦争経験がガッツリ語られたのも、ちょっと意外だった。
長兄の物語が、終着を見ずに終わった感が若干あるのはちょっと残念だったけど、まぁ、メインじゃないから仕方ないね(結末は、別の章の第三者報告で触れられてたから想像できたけどね)

戦争な...ムツカシイね。
作者はどうやって心情を得たのか、取材したのか?!と思ったけど、ご両親のこととか、シベリア鉄道でのゆるり旅のことなど後書きに書いてあって、ちょっと納得です。

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2022年03月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

連作小説ということで、一気に読んでしまいました。家族それぞれの物語、それも、ダークな部分。
なかなか、重い小説でした。
兄妹の近親相姦、当初、実の兄妹って、知らなかった。これは、親が一番悪いって思ってる。そんなことにならないように、何でできなかったのか、親も後ろめたい気持ちがあったにせよ、妹(沙恵)の章は切なかった。
孫娘の章も、いじめのような、理不尽な描写は
辛かった。
そして、最後に、戦争での慰安婦の話は、初めて読んだので、かなり衝撃的でした。

家族がかかえるそれぞれの影、うまくつなげて、さすが直木賞作品、とは思いましたが、
あまりに重すぎて、2回は読まないな、と思った。

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2021年09月17日

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