【感想・ネタバレ】場所のレビュー

あらすじ

父は労働者階級出身だった。

十二歳で学校を辞めさせられてから、農場で雇われ、その後は工場に勤務、母と結婚してからは小さな町で店をもった。フランス語の綴りもままならず、ずっと知識階級に引け目を感じていた人生だった。一人娘が学校で優秀な成績を収め、特に国語に秀でていることが分かってからも、娘が図書館に行ったり、家で本を読むのを嫌がった。そんな父も、娘がエリート出身の男と結婚して孫が産まれてからは、少しずつ娘が仲間入りを果たした知識階級へのコンプレックスとうまく折り合いをつけていったが――。

フランス人女性として初めてノーベル文学賞を受賞した著者が、自分よりも上の階級に行こうとする娘へのわだかまりを抱える父を見つめる自伝的小説。1984年、ルノードー賞受賞。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

アニー・エルノーの本は、2冊目となるが、彼女の書く文章がやはりどこか好きである。

この一冊は、彼女の父が亡くなった出来事から始まり、彼が生きていた時代、つまり作者である彼女の幼い頃を小説を通して"書く"ことで、思い返す、そんな話である。

私が1番面白いと感じた点は、過去の回想シーンと、彼女の書くという行為によって思い出される記憶と、時間が進むにつれて、これらが交錯していく点である。

また、物語全体を通して、階級の違いが描かれ、とても納得できる部分が多く、客観的に読むことができたように感じる。

0
2023年04月01日

Posted by ブクログ

フランスの階層をまたがった親子の話。まず、フランスが階層社会だということに驚いた。しかし、日本とは違い、文化や教養面で階層の差がつく。親のいる下の階層から勉学によって上の階層に上がった娘は、親(主に父親、下の階層の人々)との間にある時から溝を感じつつも、突き放すでもなく取り入るでもなく客観的に見ている。
自分も、子供の頃は親や先生が絶対的存在だったが、自分が大人になってみると、もっと広い視野を持ち、親世代、老人世代の考え方や行動に疑問を感じることが増えてくる。そういうことと似た側面がある。

0
2022年12月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

2022年 ノーベル文学賞受賞者アニーエルノーの1984年発行でルノードー賞受賞作。
シンプルな情熱は1991年発行。
物語は著者の父親の生涯を描いたようなもの。しかし、編年体で何をした何がおこったということよりも、フランス社会の階層、貧困、そのなかでの幸せ、人間関係、暮らしをその地域特有の問題としてではなく、人間の普遍的な問題として捉えている。そして著者であるエルノーは大学にすすみ、文学で大学に職を得ることで、父親との精神的距離が遠くなる。父の操る言葉は決して上流階級のそれでも、文学的レベルが高級なものでもないが、それがなんだというのだろうか。生活にねざした言葉であり、劣等感に起因するおかしな言い回しでさえ愛おしくなる。
 著者は冷静に父をみながらも、父の視点でものを見ている。
 このような視点の多重性がこの作品の良さなのかもしれない。
小品なので2時間もあれば読めてしまいます。

0
2022年10月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

場所

著者:アニー・エルノー
訳者:堀茂樹
発行:1993年4月15日
早川書房

2022年ノーベル文学賞を受賞した作家。その年に、日本での翻訳出版1冊目である『シンプルな情熱』を読んだ。この『場所』は、日本における翻訳出版としては2冊目。フランスでは、『シンプルな情熱』が1992年出版され、『場所』はその8年も前の1984年に出ている。シンプルな情熱がベストセラーになって注目を集めたが、それまでの代表作は場所だったようである。場所はロングセラーだと訳者はあとがきで言っている。

アニー・エルノーは自分のことを書く小説ばかりだが、ノンフィクションではなく、あくまで小説、訳者は「テクスト」という表現を使う。この作品は、私(作者)が死んだばかりの父親について小説を書くというテイで語られていく。名前は私も父親も母親も出てこないが、登場人物はほとんどこの3人のみ。

父親の父親、すなわち作者にとっての父方の祖父は、フランスのノルマンディー地方の田舎出身。村で暮らし、8歳から死ぬまで、大きな農家で馬方をしていた。土地を持たず「体を貸す」仕事。結婚しても、週給は妻に渡し、妻は日曜日に夫がドミノの勝負や酒が飲めるように小遣いを渡す。夫は日曜日に帰ってきては機嫌悪そうにし、何でもないことに対して子供をひっぱたいたりした。読み書きは出来ない。

その子である著者の父親は、2キロ先の学校へ歩いて通う。しかし、欠席しがち。収穫を手伝わされる。鉄の定規を持った厳しい先生は、「お前たちの親は、お前達も貧乏人になればいいと思っているんだな」と厭味を言う。しかし、幸いにして父親は読み書きが出来る程度には勉強をした。

父親もやがて親から離れ、農場で働き始める。朝と夕の乳搾り、馬の手入れ。藁の布団で寝る毎日。それでも少しは暮らしが向上。第一次世界大戦時には男手が不足し、父親のような少年は大切にされた。

やがて兵役につく。帰ってくると、もう農場に戻る気はなくなった。工場で働く。たくさん働かされ、搾取はされているが、少しずつは暮らしがましになっていく。そして、独立し、小さな食料品店を夫婦で営むことに。横から横に流すだけで食べていける。こんなことでいいのか?と最初は疑問に思うほど楽に。だが、掛け売りをし始めて苦しくなり、店を手放す。次は、食料品店とカフェを経営。夫婦で切り盛りし、父親が死んでも暫くは母親が続ける・・・そんな話だった。

祖父は読み書きができない。暮らしにそんなものは不要。父親は読み書きができるが、勉強など必要がない、と考える。しかし、たまたま娘(作者)は勉強が出来る。密かなる誇り、表面的にはそうは言わないが。年を取り、生活に余裕ができると、父親もゆっくり新聞を読む毎日に。

著者と父親には溝がある。著者はブルジョア階層の男と結婚し、子を産む。父親と祖父にも溝があった。訳者はあとがきで、フランスは大変な階層社会だということを念頭に置いて読むのが重要だと書いている。

そういう、父と子の断絶というか、溝は多くの家族にありがちなこと。それをこの小説は客観的に、ある意味で淡々と書いている。でも、訳者は触れていないが、それは単なる階層とか、親子とか、そういった間に存在する溝ではなく、時代の溝でもある。字なんて読み書きできなくてもいい。そんなもの仕事の役に立たない、という考え自体は階層間や世代間のギャップだけではなく、時代のギャップでもある。昔はそう考える人が多かった。少しずつ、暮らしは良くなる、少しずつ、時代は前向きになる。そうあってほしいと思う。人は進化するのである。無理をする必要はないが、進化するのである。

0
2024年11月22日

「小説」ランキング