【感想・ネタバレ】プロトコル・オブ・ヒューマニティのレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

読み終わった日の午後は本の父との踊りから舞台からの最後を思い出しては涙を我慢するという壮絶な午後だった。職場でずっと目を潤ませていた。作者の『人間性とは何か』という問いに対するひたすら真摯な姿勢と、それが現れている護堂森と恒明というキャラクターの生き方在り方に泣けて泣けて仕方がない。作者の方のダンス舞台の表現がすばらしく、音楽や絵画やそれこそダンスなど、視覚聴覚などで楽しむ芸術をあえて文章で表現しなおすことに挑戦している小説が大好きで、鳥肌が立った。
あとこれは本の外側の話だが、あとがきを読んで、カバーに使われている絵がラファエル前派に近い画家による「ペテロの足を洗うキリスト」だったことにまたしても涙腺を刺激された。
19世紀イギリスラファエル前派の絵が好きなのだが、歴史や宗教に出てくる人物を歴史として遠くから描くのではなく、近くから生きた人間として描いている時代の絵をこの本の表紙デザインに持ってきた装丁デザイナーさんのセンスが凄すぎて泣きで脱帽。ペテロの足を洗うキリスト、素直に主題を受け取るとしたらこれは『献身と愛』だから、この表紙の足を掴む手は、恒明の母であり、恒明であり、永遠子であり、恒明が最後に感じた父であり、恒明や森や谷口や、あの舞台に関わった人間が舞台へ持っていた感情であり、色々な意味が込められていると私は受けとって涙涙。
人間が他人へ人間性を伝えるための手続きが「距離」と「速度」というのがすごくすとんと納得があった。わたしも恥ずかしながら趣味で文字を書いたりするのだけど、人と人が親密になっていく様を描く時にぎゅっと濃縮された無言の応酬を書く時は、意識していなかったけれどその人物たちの手の動きや体温の遠近を書いていた。人間が他人からその人間性を受け取るときに、確かに距離と速度はそこを言葉無くして伝えてくるものだ。解体するとそこに行き着くのか…!なるほど…!と納得感が本当にすごい。
そしてそれがまた舞台という広い空間と、永遠子と恒明がテーブル越しに交わすものや森と恒明がリビングでのダンスを通じて交わす無言の言葉という非常に狭い空間の両方に、破綻なく存在している説得力が強くて強くて…。そしてそこに介護が加わることで、さらに人間の外側と内側の「距離」と「速度」が見えてくるのがもうそれこそ脳が気持ちがいい。あまりにも生々しい介護と、人間の認知が失われていく過程が描かれているからこそ、余計に「では人間性とはどこから来てどうして我々はそれを受け取ることができるのか、人間性とはなんぞや…」という問いに答えられたのじゃないかと思う。「人間性」を破壊することで見えてくる何かはある…あの介護には深い意義があったし、それを入れようと思った作者の思考の深さがただただ心地よかった。介護は生々しいでが、だからこそ光る最後があった。

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2024年03月16日

Posted by ブクログ

AIといえば遠からず人類の知性を凌駕するのではないかという怖れについて語られがちだが、本作で追求されるのは肉体(運動)の方である。機械的動作や競技運動を超えた究極の活動とも言えるコンテンポラリーダンスを義足でも満足に踊れるのか、ましてや観客の前でロボットと協演できるのか、という困難な命題に主人公に挑戦させて、著者は見事な文章力により音があり動きの見える感動的な踊りの舞台を描き切ることに成功する。
【付記】表紙絵は、最後の晩餐の前に弟子の足を洗うというキリストの逸話を描いたマドックス・ブラウンの作品の一部を拡大したもの。

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2023年04月06日

Posted by ブクログ

 時代設定が2050年代でAI技術が発達していることを除くと、SF要素はあまりない。
 
 事故で右足を失った若いコンテンポラリーダンサーが主人公。彼はAI制御の義足を身につけることになる。彼の父は高名はダンサーであり、彼も父を追って身体表現の高みを目指していた。

 その父親が交通事故を起こし頚椎を痛め、同乗していた母は亡くなってしまう。さらに父親は認知症が出始め、一人で介護せざるを得なくなる。なにやら重苦しい展開になり、読み続つけるのがしんどくなった。自分も親の介護の経験があるので、主人公の気持ちが痛いほどわかるのだ。あとがきを読むと、作者も親の介護を経験したとのこと。

 主人公は親の介護に苦悩すると同時に、人のダンスとロボットのダンスを隔てる「人間性の手続き/プロトコル」を表現しようと苦悩する。SFというよりは、純文学の香りがする。
 
 ☆はあくまでSFとして読んだ評価です。第54回星雲賞、第44回SF大賞受賞作。

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2024年04月10日

Posted by ブクログ

一番好きな作家というのはいないけど
一番好きな本はあって
それ書いた人なので
見つけて嬉しがって買ったはいいけど
なかなかに手強かった

SFの定義をいまいちわかってないので
期待してたSFではなかった
なんかもっと未来感が満々なのかと
そういうんじゃなかったけど
とても、とっても胸にくるお話だった

技術的な説明が苦手な人は
そもそも読まないとは思うけど
その部分がちょっと多めかなと感じる
ただ個人的にわからないからこその
やみくもな憧れがあるので
そういう部分については
必死で読んだ

物語としては
激アツで、ここに自分もいたい!
って思えたので
がんばって読んでよかったなぁと思う

憧れ補正が多少ありつつ
星は4つ

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2024年03月22日

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人間性を表すプロトコルとは何か。AIとのダンスを通して描かれる。人と人の繋がり、その先にある生と死を感じさせながらその大きな疑問に迫っていく。

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2024年01月15日

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恐ろしくも真面目な愛の物語。AIとの共生と理解を謳いながら、真実は理解されない人と人とのプロトコルである。父の介護の場面は涙した。

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2023年09月27日

Posted by ブクログ

1人の人間が挫折や困難を乗り越え懸命に生きようとする物語としてとても面白かった。
一方で、「人間性を伝えるプロトコルとは?」といったタイトルにもなっている疑問に対する洞察としては読み終わった今でもなんだかスッキリとせずぼんやりとしたままだ。人がダンスを見て、他の人間を見て、受け取るメッセージや情動が生じるメカニズムは、おそらく端的な言葉で説明可能だろう。そういった説明可能な分かりやすい言語化、洞察をこの小説はしようとしない。それがあえてなのかどうかは分からないけれど。

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2023年01月20日

Posted by ブクログ

共生義足、ダンスロボット、振付AIなど
難しいことは半分もわからなかったけど
ダンスを言葉で表現することに挑戦し
その苦難と熱がひしひしと伝わってきた。
最後に描かれる人間とロボットのコラボを
実際に観てみたいと思った。

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2023年01月07日

Posted by ブクログ

2022-11-17
ダンスに関しては完全に門外漢で、コンテンポラリーの舞台なんて数える程しか見にいったことがない。そんな自分でもダンス空間には魅せられた。
その小説は、その理由の一端を解き明かしてくれたような気がする。それもスペキュレイティブな描き方で。
さらには、リモートでのコミュニケーションの問題を(間接的に)炙り出しているようにも見える。しかし、永遠子とのやり取りの多くはテキストベースであり、イヤでも最初は直接コンタクトか。そちらの問題はこの小説の範囲ではないね。
そして、森との関係-おそらくもう1つのテーマ-については、自分の経験との重なる部分もあり、どうしても思い出してしまう。そして自分に恥じることも。
この感覚を言語化する能力はわたしにはない。そしてもちろん、ダンス化する能力は微塵もない。
傑作です。ダンス版のprotocol of humanity も観なきゃな。

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2022年11月18日

Posted by ブクログ

軽快な藤井太洋に比べると重すぎて、娯楽としての読書的には満点にはせず。
ただ、「文学」としてのインパクトはこちらの方が上ではある。
泉鏡花文学賞とか、あるかな?

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2022年11月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

交通事故で右足を切断、義肢を付けることになったコンテンポラリーダンサーの主人公護堂恒明、AI制御の最新義肢を付けることになった恒明はその脚とともにAI制御のロボットとのダンスを行うことになる。

ダンスが何かよー分かってない俺は、主人公がダンスを突き詰めていくシーンの本領は良く分かっていないと思う。それでも、制御しきれない右足や父親の介護や諸々を抱えつつ、できる工夫と練習と研鑽を重ねていく姿には感動を覚えた。

しかし、介護問題なぁ…。妻や娘に俺ごときの事でこんな苦労をかけることになるんだろうか?だとしたら認知症診断が出た段階で安楽死を選べる選択肢はないものか…。やっかいな人を殺す問題解決方法は非常に危険な思想だと分かっているが、そのやっかいが自分で努力しても改善しない類の時、本当に大切なものを守るためであれば、自爆スイッチを押す自由もあっていいと思うのだ。

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2023年08月10日

Posted by ブクログ

事故で義足になったコンテンポラリーダンサーのお話。2050年くらいのちょっと先の将来の話で、SFにジャンルされてるけど、あくまで現在の延長としての現実的な世界観として受け入れられる。途中ちょいと都合のいい展開に読み進めるのを躊躇したものの、クライマックスに向けてのダンスの描写は素晴らしかった。

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2023年04月28日

Posted by ブクログ

ダンスは踊れなかったが、プロトコルはつながった

ダンスのイメージが理解できずかなり苦戦。速度とか距離とか理解できない。ダンスロボットも理解できない。振り付けAIなんてさっぱりわからない。

ラスト直前の父との踊りを読んでいるころから、ようやくプロトコルを感じられるようになってきた自分に気づく。

そして対をなすロボットと踊る舞台では(あいかわらずダンスはさっぱりだけれども)、プロトコルがびんびん伝わってくる。つまり圧巻だった。

その公演(?)の終わり方にハッとする。そこで屠るか…。

主人公の母や兄や恋人の存在やそのプロトコルはあまり理解できなかったが、父とのプロトコルはあまりに強烈だ。

きっとそれは、意思疎通が困難になってからの別れを経験したものだけに理解できる「共通言語」なんだろうと思う。父を失った息子たちのプロトコルだね。

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2023年02月18日

Posted by ブクログ

面白い!という感じではない。読んでいて楽しくはない。けれど、人間の身体から発せられるメッセージ性について考えさせられる小説。映画化したら、ダンスシーンなども分かりやすく、メッセージも伝わりやすく面白い作品になりそうな気がする。

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2022年12月16日

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