あらすじ
白人の庇護のもと育った娘と、黒人に囲まれて育った青年。カリブ海の島で出会った黒人男女の激しい恋のゆくえ──。名作を文庫化
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Posted by ブクログ
そもそも恋愛とは、異文化のすり合わせとも言える。
生まれた場所も価値観も、培ってきたものも異なる2人が出会い、それをすり合わせる。互いの文化を受け入れてより良い関係になっていくか、それとも受け入れられずに別の道を行くことになるか。それは国や肌の色が同じだろうが違っていようが、必ず起こってくる。
しかし、白人の富豪の庇護のもとソルボンヌ大を卒業してモデルをしている娘ジャディーンと、黒人だけの小さな町で育ったサンとの文化の違いは、乗り越えることが出来るのだろうか。
帯の「別世界で育った男女の、激しい恋のゆくえ」というフレーズに誘われて読むと、手痛いしっぺ返しをくらう。激しく燃える甘々の恋愛小説をイメージしてはいけない。そんな生ぬるいものではない。2人の関係は、そして越えなければならないものは、激しく、強く、切なく、苦しい。
最悪とも言える出会いであったのに、「その男の眼の周りには大きな空間があるような気がした」のが、もしかしたら、ジャディーンのスイッチだったのかもしれない。彼の美しさに気づき、彼に惹かれていく。
しかしジャディーンはあくまで白人の庇護下にあり、白人と食事をし、白人の価値観の中で暮らしている。サンにはそれが迎合のように見えたとしても不思議はない。
互いの大事にしてきたものを認め合えるのか。違う文化に適応出来るのか。それを越える恋愛はあり得るのか。
白人夫婦のヴァレリアンとマーガレットの関係もどこか空虚で孤独であり、後で明かされてくるマーガレットの抱え込んできた秘密にも驚かされる。
ヴァレリアン、マーガレット夫妻と、使用人夫婦のシドニー、オンディーンとの関係も、思惑に齟齬があるように感じられる。信頼しあっているように見える30年にも渡る主従の関係も、強固な勘違いの上に成り立っている、ということなのか。
正直なところ、最初の100ページくらいは入りにくくて難儀した。でもいつの間にか藤本和子の訳文に導かれ、恋のゆくえと激しい人間関係との渦にぐるぐると巻き込まれてしまった。美しい表現もキラリと随所にあって、たまらなく切なくなる。
ビターで濃いこの物語を、最後まで読めてよかったなと思う。