あらすじ
日本にも忍び寄る「非科学主義信仰」という異常現象
2024年アメリカ大統領選挙の有力候補がトランプ前大統領だ。
トランプの岩盤支持層は保守派だけでない。
自分たちにとって都合のよい“ファクト”をつまみ食いする「非科学主義信仰」を有する人々からの支持も集めている。
Qアノン、極右組織など所属は様々だが、単なるカルト集団ではなく、彼らは既得権益層への怒りと独特の正義感を持った実効力をともなう集団だ。
反ワクチン・反マスク論争、移民受け入れの是非、銃規制問題など、NHKロサンゼルス支局長として全米各地で取材を続けてきた記者の緊急レポート。
日本にも忍び寄る「非科学主義信仰」という異常現象をあぶりだす。
【主な内容】
・ワクチン接種に反対する人々
・気候変動と非科学主義
・Qアノンの素顔
・ウクライナ侵攻で生じた「ルッソフォビア」
・「トランプの幻影」におびえる民主党
・幽霊銃をめぐる政治対立
・学校・図書館向けの「禁書リスト」発出も
・トランプ前大統領の復権
・トーク・ラジオにのめり込む運転手
・信者を五倍に増やしたカリスマ牧師
・教育現場の危機感
・「真実」を求めてさまよう人々
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Posted by ブクログ
分断するアメリカを「非科学主義信仰」という切り口で捉えたルポ。時期的には、2019〜2022年と第一次トランプ政権の後半、コロナ、大統領選でのバイデンの勝利とトランプ支持者の国会への乱入、そして中間選挙に向けた動きあたりまでがカバーされている。
第二次トランプ政権が成立した今の時点で見ても、古くないというとうか、アメリカ社会の状況の理解は進んだ。
ルポというのは、やはり取材する範囲などの制限もあり、どうしても全体像は見えにくいし、取材する人の問題意識によって、誰の話を聞くかということは決まってくるので、必然的にニュートラルなものではあり得ない。
この本では、著者はわりとストレートに自分の前提となっている考えを出しながら、現場の状況を報告してくれているので、読む側は、自然に著者の価値観を考慮しながら読むことができて良いと思う。
と保留をつけた上で、さまざまなエピソードを読むと、アメリカの状況、トランプを支持する人たちの姿が浮かび上がってくる感じがした。そういうところにこうしたルポの良さがあると思う。
私としてやや疑問に思うのは、「非科学主義信仰」という切り口で、ここには「科学は正しい」、この人たちの言っていることは「非科学的」で、そうしたことを信仰の領域にまで徹底しているというフレームがあること。もちろん、ニュートラルなフレームはないのだが、それにしても問題をかえって分かりにくくしているのではないかという気がする。
例えば、「宗教」とか、「福音派」とか、「反エリート主義」とか、「マスメディア不信」とか、そういう切り口の方がいいんじゃないかと思うのだが。。。もちろん、そういうのは当たり前の切り口なんだけど。
Posted by ブクログ
現在のアメリカが陥っている、東の市場関係者等と西のIT関係者というエリート層と、主に中西部に住む工場等に勤める中間層の“(収入の)格差”によって生じている、いわゆる「分断」をわかりやすくまとめた本。
ただ、その手の本を何冊も読んだり、もしくはニュースやネット等で情報を見聞きしている人にとってはやや既知のことが多いような?(^^ゞ
そういえば、著者はNHKのLA支局長だとかで。
確かに、テレビのニュース等で見た記憶があることが多かった気がする。
そういう理由で、自分はたまたま★3つにした。
でも、例えば今年のアメリカ大統領選挙のニュースを見て興味を感じてこの本を手に取った人等、特に今までアメリカ社会に興味を持っていなかった人が読むのであれば★は4つ、あるいは5つになってもいいと思う。
いさかか「非科学主義信仰」ということに寄りすぎちゃった面はあるものの、今のアメリカ社会の状況がコンパクトにわかりやすく書いてあるし。
何より「終章」にある、アメリカのその状況が、アメリカの(特に中西部の中間層の)白人層にある“白人がアメリカという国の主人公だ”という価値観の固執は、近い将来、我々日本人も直面することになるであろうという意味で一読の価値があるんじゃないだろうか?
ただ、思ったのは、今のアメリカにある、いわゆる「分断」のように。
その状況や出来事をわかりやすい用語や慣用句のように使われている言葉で言い表すことは、今が高度情報化社会という、誰もが情報を容易に集められ、かつ情報を容易に発信できる社会だからこそ厳に慎むべきであるように思う。
なぜなら、ひと口に「分断」といっても、その言葉を受け取った側が、その言葉によって思い浮かべる状況、あるいは思い浮かべられる状況は一人一人異なるからだ。
さらに言えば、様々な状況が合わさることで生まれた「分断」という状態を、様々な状況やそれによって新たに生じた状況を加味しないまま、その人の中でたんに「今は分断なんだ」と短絡的な理解をしてしまうのも大きな問題だ。
今のアメリカにある、いわゆる「分断」は、たんに「分断」という言葉で言い表せるほど単純な状況ではないからだ。
そういう意味で、この本のタイトルを『非科学主義信仰』としたのは、どうなんだろう?と思った。
この本を読めばわかるが、“非科学主義への信仰”というのは、今のアメリカにある「分断」の一方の側である人たちの“たんなる言い訳”にすぎない。
ついでに言えば、「分断」のもう一方の側の人たちが信望する“拝金主義”や“身勝手なアメリカン・ドリーム(リバタリアニズム?)”も理解しなければ、なぜもう一方の側が非科学主義が信仰されるようになったかも理解出来ないはずだ。
過度な“非科学主義への信仰”というのは、おそらくは70年代の半ばくらいから続く状況によって徐々に進んでいった「分断」によって生じた新たな現象なのだ。
ま、確かに。
今どき、サブタイトルにある「揺れるアメリカ社会の現場から」では、数あるアメリカ社会の分断状況を書いた本の中から読者に選んでもらえないんだろうが(^^ゞ
タイトルの『非科学主義信仰』というのは、タイトルだけが独り歩きすることで、“アメリカ人が非科学主義信仰だから分断が生じた”という誤解を招きかねないように思う。
今のアメリカにある、いわゆる「分断」という状況は、“非科学主義信仰”をしている側の人たちだけに原因があるわけではない。
“非科学主義信仰”をしている側の人たちが、自らの生活を守るために“非科学主義信仰”で自らの考えや行動を正当化しなければならないところに原因の根本があるのだ。
この本を読んでいて、ふと思い出したのは、今年の初めに読んだ村上春樹の『1Q84』だ。
『1Q84』の文庫版「BOOK2前編」にある新興宗教のリーダーが言っていたこと、それがそっくりそのまま、今のアメリカで“非科学主義への信仰”をせざるを得ない人たちの心の内やその行動にあてはまると思ったのだ。
「世間のたいがいの人々は、実証可能な真実など求めていない。真実というのは大方の場合(中略)強い痛みを伴うものだ。(中略)人々が必要としているのは、(中略)美しく心地良いお話なんだ。だからこそ宗教が成立する」
「Aという説が、彼らなり彼女なりの存在を意味深く見せてくれるなら、それは彼らにとって真実だし。Bという説が、彼らなり彼女なりの存在を矮小化して見せるものであれば、それは偽物ということになる。(中略)もしBという説が真実だと主張するものがいたら、人々はおそらくその人物を憎み、黙殺し、ある場合には攻撃することだろう。」
「論理が通っているとか実証可能だとか、そんなことは彼らにとって何の意味も持たない。多くの人々は、自分たちが非力で矮小な存在であるというイメージを否定し、排除することでかろうじて正気を保っている」 ーー『1Q84/BOOK2前編(新潮文庫)より」
上記のそれは『1Q84』という小説に出てくる新興宗教のリーダーの言葉だが。
それは、数年前にヨーロッパ等で起きていた、イスラム系移民による一連の無差別テロの根拠(自己を正当化するための言い訳)とも重なる。
誤解している人が多いようだが、数年前にヨーロッパ等で起きていたイスラム系移民によるテロは、彼ら彼女らがイスラム教徒でイスラム教の教えに従って起こしたものではない。
あれは、貧困や差別といった当時彼ら彼女らが置かれていた絶望に、それこそISのような反社会的な狂信者たち(組織)が巧みにすり寄ることで、彼ら彼女ら洗脳して無差別テロに向かわせるように利用した、たんなる犯罪だ。
宗教的背景や政治的背景は、事件を正当化する後付けの理由にすぎないのだ。
絶望によって起こされた事件という意味で言うなら、日本で2008年に起こった「秋葉原通り魔事件」と変わらない。
「秋葉原通り魔事件」の犯人には“宗教という言い訳”がなかったから、「通り魔事件」とカテゴライズされる「犯罪」で。数年前のヨーロッパ等であった一連の無差別テロには“宗教という言い訳(背景)”があったから「テロ」と、パッと見のわかりやすさでカテゴライズされているにすぎないのだ。
そういう意味でも、今のアメリカの「分断」の一方の側である、「非科学主義」を自分の主張や行いの言い訳にしている人たちは、それが数年前に頻発していたイスラム教によるテロだと偽装された「犯罪」と同じことをさせられているんだと、いいかげん気づくべきだ。
そして、今、それらの人たちがやっていることは、それらの人にとって何よりのアイデンティティである「アメリカ人」という価値観を辱める行為だと襟を正すべきだろう。
今のアメリカにはびこるエリート層の拝金主義や社会を破壊しかねない身勝手なアメリカン・ドリームを憎む気持ちはわかりすぎるほどわかる。
でも、今のアメリカにおける世界的な地位は、それらの拝金主義や社会を破壊しかねない身勝手なアメリカン・ドリームによって保たれているのも事実だろう。
でも、それらは、いずれ不正義として糾弾され淘汰されるはずだ。
なぜなら、アメリカというのはそういう国だからだ(^^)/
Posted by ブクログ
あくまで自分の場合だが、論理的思考力を養えと人から言われるたびに必ずアメリカを引き合いに出される。
論理的思考力イコールアメリカ。(何故かアメリカなのだ…) だから本書を知った時「論理的思考力を重宝してやまないアメリカ人が、何の根拠もないところから主義主張をするのか?」と目を疑った。
筆者はNHKロサンゼルス支局長を務めるジャーナリスト。
2019-2022年の間、NHKのニュース番組で彼がリポートするために行った取材が本書のベースとなっている。
タイトルの「非科学主義」は筆者が考えた言葉で、ザックリ言えば生活や政治問題を都合良く解釈すること。
「(非科学主義の)狂信者たち」の主な特徴は白人がメインで、共和党、特にトランプ前大統領の支持者だという。
直近の例として、「狂信者たち」は新型コロナウイルスへのワクチン接種やマスク着用を反対していると筆者は述べている。わが国でもそれぞれ拒否する声はあるが、それはアメリカでも同じらしい。
ワクチンに関して妙なのが、彼らが「接種によって体内にマイクロチップが埋め込まれ権力者から監視される」と盲信しているところ。接種を推進するバイデン大統領への不信感であり、トランプが掲げる「独立以来の強きアメリカを取り戻す」という理念にも反しているというのが彼らの言い分だ。
他にも「気候変動は左派が作り出した虚構のロジック」だのとりつく島もない発言が続き、読んでいて些か面倒くさかった笑
銃犯罪についても触れられている。
「幽霊銃(ゴースト・ガン)」(シリアルナンバーを登録される前にガンショップで販売されるタイプの銃。完成前のパーツの段階であるため捜査の目を掻い潜られがち)とやらの存在もショックだったが、政界人による銃犯罪への認識も酷かった。
真相を突き詰めようともせず、銃規制ではなく犯人のメンタルヘルス問題として片付ける…ここにも非科学主義が入り込んでおり、今後も事件が後を絶たないという未来しか見えない。
人種差別発言も顕著だったトランプだが、それは「狂信者たち」も同じこと。近年問題になっているアジア系のヘイトや”Black Lives Matter”も多様な民族に白人が凌駕されるという恐れから来ている。
「アメリカは人種のるつぼだと習ってきたのに何故今更!?」とずっと疑問だったが、本国では白人ファーストの観念がDNAレベルで刻み込まれているのだ…
非科学主義を防ぐための解決手段は教育にあり、現地の学校ではやはり論理的思考力の教育に磨きをかけているという。思考力を客観的・論理的・科学的なものに育てることで、歪んだ価値観に流されない。
これこそが真の強きアメリカ像ではなかろうか。