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Posted by ブクログ
初めて読むタイプのエッセイだった。
エッセイっていうジャンルにくくっていいのかな?
1950年代から1970年代にかけてのイタリアが、ミラノや友人たちが、あまりにも日本の…いまの自分とかけ離れていて、フィクションを読んでいるような気持ちだった。
でも、フィクションでは書ききれない、友人たちの気質、思い出、部屋の様子…明るいイメージのあったイタリアで、こんな人たちがこんなふうに暮らしているのか、と新鮮な思いだった。
印象に残っているのは、ユダヤ人の家族の話…戦争の記憶が鮮明な時代のヨーロッパは、自分が想像している以上に人の暮らしや考えに影響を与えていて、それを経験した人のことを読むのも初めてだった。
著者の体験と友人たちが、遠いものに感じていたけど、最後の一編、
コルシア書店は私たちの理想だった。仲間たちそれぞれが思い描いていた書店には相違があって、でもそれを無視していちずに前進しようとしてた。
でもその相違を知ることで、人それぞれが自分自身の孤独を確立し、人生ははじまっていく。
そのことを長い間知ることができなかった。
というような内容の一文を読んで、懐かしさを感じるとともに、まだ自分は若いので、そういう理想を追い求める場所を羨ましく感じた。
Posted by ブクログ
著者がイタリアで暮らし、そこで交流したコルシア・デイ・セルヴィ書店に集った仲間たちについて一人ずつ書いている本。
仲間たち、と言うけれど、文章の距離感は彼ら自身からは少し離れて、ゆったりと取ってあるように思う。優しいというよりは、ただあるがままに、偏屈さや悪癖もその人の一部としてユーモアを持って観察していて、まるごと受け取っている感じ。好きな作家の梨木さんのエッセイと同じ雰囲気を感じる。とても好き。なんとなく、二人とも神学に触れていてヨーロッパ留学、現地で暮らす、そのことをエッセイに…というあたり気質が似ているのかもしれないと思ったりする。
いろんな人のいろんな人生があり、その中のほんの少しの間、列車に乗り合わせたみたいに書店を介して触れ合う。あっという間に通り過ぎていく付き合い、悲喜こもごもの人生を振り返るのは切ないけれど、それだけにきらきら輝くものでもあるし…。
そのあっという間を私たち読者はさらにあっという間に駆け抜けて、振り返って寂しくなったときに来る最後の段落が沁みる。そう、怖くはない、本当は悲しいことじゃない、これこそが必要だったということが、わかるような気がする。
Posted by ブクログ
たしかに、最初の方はとっつきにくくて、大丈夫かなと思ったがだんだんこの書店の魅力、ミラノの雰囲気、詩的な表現に取り込まれていった。
こういう穴ぐらのような場所というのは、みんなが求めていて、たとえば大学の部室なのか、行きつけの飲み屋なのか、なんとなく誰かが集まる親友の家なのか、そういう人間くさい、人があつまってしまう場所というのは居るだけで居心地がよくて、理念や目的があってもなくても、結局はそこにいる居心地の良さが目的になるのだと思う。
そして、それぞれが目的をもってそのねぐらを離れていくときがくる、やはり心の指針を定めることができるのは自分だけであり、それなくして、本当の意味での心の平静を手に入れるのはできないと気がつく。
第二、第三の、大人の思春期、青春の物語だなあと思った。それが、自分たちから程遠いイタリアのそれも戦後の混乱のなかでという、この距離感と運んでくる風のおしゃれさが、半端なく気持ちよかった。落ち着いて読めた。そして自分の身に照らすことができた。こんな場所が欲しいけど、いつまでもこんな場所にはいられないのではないかという、憧れと焦りと日常の無機質さをほどよく埋めてくれる物語だった。