【感想・ネタバレ】アトランティス=ムーの系譜学 〈失われた大陸〉が映す近代日本のレビュー

あらすじ

はるか昔、栄耀栄華を極めながら、一夜にして海中に沈んだ大陸があった――こんな伝説とともに語られるアトランティス大陸やムー大陸。誰しも子供の頃に、その謎に夢中になった記憶があるのではないだろうか。とりわけ日本は、ムー大陸に日本人の起源を見出そうとした戦前の軍高官から戦後のポップカルチャーに至るまで、言わばこの伝説に長く深く取り憑かれてきた。なぜ、我々は失われた大陸に惹かれてやまないのか。伝説の起点ともいえるプラトンから繙き、その複雑にして数奇な伝説受容を辿る野心作!

プラトンが紀元前四世紀に、著作のなかでアトランティス大陸について記して以来、ムー大陸やレムリア大陸を含む、いわゆる「失われた大陸(Lost Continent)」は2000年以上にもわたって、私たちを魅了し続けてきた。そこには、金髪碧眼のアーリア=ゲルマン人こそが、始原の文明を生み出したと説き、その始まりの地がアトランティスだと主張したナチス・ドイツや、同様の主張を日本人とムー大陸について行った大日本帝国の軍高官らも含まれる。アトランティス大陸の所在に限っても、スウェーデン説やアメリカ説、クレタ島説、サントリーニ島説など多種多様な説があり、21世紀に入ってからも新説が生まれ続けている。
日本では戦前にプラトン全集を翻訳し、日本のプラトン受容において重要な役割を果たした木村鷹太郎(1870-1931年)を皮切りに、アトランティス、そしてムー大陸をめぐって、『竹内文書』をはじめとする偽史、さらに皇国史観ともかかわりをもちながら、さまざまな言説が生まれた。その関心は、戦後になってもなお衰えることなく、オカルト・ブームを経て、小松左京『日本沈没』のようなSF小説はもちろん、『ウルトラマン』や『黄金バット』などの特撮物、手塚治虫の『海のトリトン』などのアニメや映画、さらにはゲームの世界にも浸透しながらますます賑やかに盛り上がっていく。
なぜ、人類は、とりわけ日本人は、これほどまでに失われた大陸に惹かれてやまないのか。本書は起点となるプラトンにさかのぼり、迷路のように入り組んだ日本での受容の歴史を丹念に跡づけ、その心性に迫る!

【本書の内容】
はじめに
序 章 「失われた大陸」について問う理由
第 I 章 アトランティスの由来と継承
第 II 章 アトランティスからレムリア、ムー大陸へ
第 III 章 失われた大陸、日本へ――一九三〇年代
第 IV 章 戦時のムー大陸言説――一九四〇年代
第 V 章 戦後の継承――一九五〇―六〇年代
第 VI 章 神話希求と大災害―一九七〇―八〇年代
第 VII 章 浮上し続ける神話――一九九〇年代以降
最終章 なぜ語られ続けるのか

あとがき

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Posted by ブクログ

「アトランティス」「ムー」に胸ときめかせた思春期に思いをはせながら、なぜあんなにも「失われた大陸」に魅了されていたのか、その理由がわかるかもしれないと思い、手に取りました。結果、予想を上回る面白さで、大満足でした。
私自身は、今やムーもアトランティスも(レムリアも)実在はしていなかった、と考えてはいるのですが、明治時代から日本ではかなりのいい年をした大人が、大真面目にアトランティスやムーの実在を論じ、時には戦前の軍国主義・国粋主義にまで影響を与えていたことを知って、驚きました。近代日本においてアトランティス・ムーがどのように取り扱われてきたか、現代ではどうなのか、私たちにとって〈失われた大陸〉とはどんな意味があるのか、そんな問いかけも含めて情報量満載の、資料としても、もう一度「アトランティス・ムー」について考えてみるきっかけを作ってくれる本だと思います。
それにしても、日本人くらいムー(アトランティス)が好きな民族もほかにないんじゃないか、と思ってしまいました。忘れたころにブームが再燃する〈アトランティス〉〈ムー〉そして〈超古代文明〉。古代に宇宙人がやってきてもたらした文明だとか、厨二ゴコロを刺激しまくる「失われた大陸」たち。ロマンティックな幻想なのか、危険な偽史なのか。見る人、語る人によって千変万化する幻の大陸。あとがきに「魔法の鏡」と著者が表現するように、見たいものが見えてしまうのかもしれません。
沈んでは浮上する「失われた大陸」は、これからも私たちの前に浮上しては新しい何かをもたらしてくれるんでしょう。かつてその実在を信じていた人はもちろん、信じていなかった人、知らなかった人にもおすすめしたい本です。後半になるほど著者の熱量が上がってくるのが伝わってきます。欲を言えば、巻末に索引が欲しかったです。

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2023年08月31日

Posted by ブクログ

日本近代のムー・アトランティス大陸受容史は貴重で、新興国日本の自尊心やヨーロッパ列強に対する焦りが日本独自の解釈を引き出した事か知れた。

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2022年12月03日

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