あらすじ
この現代社会、いったい何が善くて何が悪いのか?
カントだったらこう考える――。
さまざまなテクノロジーの発達も手伝い、善悪の基準がますます曖昧となっている現代社会。
ビジネス、道徳教育、生殖・医療、環境問題、AI、差別問題……。
現代社会で巻き起こるあらゆる倫理的な問題について、私たちはどう判断すればよいのか。
その答えは「カント」にある。
哲学・倫理学における重要な古典としてつねに参照され続ける一方、難解と評されることの多いカントだが、本場ドイツでカント倫理学の博士号を取得した著者が、限界までやさしくかみ砕いて解説。
その上で、現代を生きる私たちが「使える」実践的な倫理として提示する一冊。
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Posted by ブクログ
今、日本国と日本人にかけているものがあるとすれば、真っ先に上げるべきは倫理であると言える。日本人にはどうも近代における倫理がインストールされていないようだ。成田悠輔なる人物の言動がよく表している。彼のように著しく倫理に悖る人間が公共で発言し、且つ政府委員として公共政策に関わるなど、彼個人が倫理に悖るだけでなく、日本国の社会全体が倫理を欠いている。
これは本著の中でも取り上げられているが、日本の学校教育の中で、倫理についての教育が成されていないことが非常に大きい。「道徳」と名のついた教化はあるが、実際には愛国教育(それも間違った形の)であり、倫理は教えていないのである。これでは日本人には倫理はインストールされない。
ただ、遅くはないので、まずは本書を手に取って近代的な倫理とは何であるのかを理解することから始めるのが良いのではないか。また中学、高校生ぐらいのお子さんをお持ちのかたは、本書をもとにお子さんと倫理について話し合われることをおすすめしたい。
Posted by ブクログ
カント倫理学における基本的な思想の骨格を示した上で、それをビジネス倫理、道徳教育、生殖・医療倫理、環境倫理、AI倫理、差別に関わる倫理といった個別テーマに応用しながら、さらに深く解説しています。倫理学を人生における「実学」にする。そんな力のある一冊ですね。関連して、作品の読者や関係者だけでなく、倫理学研究者にあてた「あとがき」にも注目です。
Posted by ブクログ
不十分に見える所があっても、初学者相手の新書なので広く浅くなるのはやむを得ないこと。細かな点を論難するよりも、著者が研究するカントの理論を自らの生き方に反映させていること(←この時点でかなり稀有なのでは?)、そして、その理論と実践の結びつきにいて一般の読者に分かる形で説明しようとしている(←さらに稀有、というか他に誰かいるのか?)点を評価すべき著作なのだと思う。
Posted by ブクログ
カントを通じて倫理を学ぶ。
自分が正しいだけではダメ、周りも納得できるものでないと倫理的に正しいとは言えない。利己的になりすぎず、でも自分はしっかり持っていたい。
Posted by ブクログ
いろいろ問題があると思う。たとえば、選択的妊娠中絶の話をしようとする先生は、まず妊娠中絶のそのもの話をするべきだと思う。
とは書いたものの、非常にすっきりした文章なので、まあ哲学とか倫理学とか応用倫理学とかそういうのやりたい学生様は読んどくべきだと思います。(そして「自分で考える」べき)
Posted by ブクログ
カント倫理学の根本的な立場を明確にしたうえで、その考えかたにもとづいて、現代の応用倫理学でとりあげられるさまざまなテーマに対してどのようにこたえることができるのかという問題について考察をおこなっている本です。あつかわれている応用倫理学上のテーマは、「ビジネス倫理」「道徳教育」「生殖・医療倫理」「環境倫理」「AI倫理」「差別に関わる倫理」の六つです。
カント倫理学において重要とされる定言命法についての解説をおこなったあと、著者は「道徳法則とは、それぞれの人のなかでのみ存在しうるのであり、その人のうちにしか存在しえない道徳法則がその人にとって誤りであるということはありえない」と主張します。
このことは、カントの義務論の根底をかたちづくっており、純粋実践理性の自律というカント特有の考えかたの証左とみなすことができますが、他方でカント倫理学を応用することのむずかしさにも通じているように思います。このことは、現実との媒介につねに目を向けていたヘーゲルの社会思想と比較すれば明瞭です。じっさい本書でも、こうしたカントの根本的な立場へと何度も立ち返ってその立脚点の揺るぎなさが印象づけられる一方で、やはりカント倫理学は融通が利かないという感想をもつ読者もいるのではないかと感じます。
なお著者は「おわりに」で倫理学研究者に向けて、研究内容がわれわれの生きかたにかかわる以上、そのことを社会に向けてわかりやすく伝えていくことが求められるのではないかという主張がなされています。本書のなかでも、著者が学んだカント倫理学が著者自身の生きかたにどのように反映されているのかということが語られており、それじたいが倫理学という学問のありかたに対するひとつの考えかたを示しているように思います。