あらすじ
日本橋三越の柱に、幼いころ実家に貼ったシールがあるのを見つけたところから物語は始まる。狂気と現実世界が互いに浸食し合い、新人らしからぬ圧倒的筆致とスピード感で我々を思わぬところへ運んでいく。
誌上発表後、新聞各紙絶賛、話題沸騰の受賞作を緊急刊行!
第65回群像新人文学賞受賞作(選評より)
語り手、そして読む人の立つ足下が揺るがされる――柴崎友香
絶望的成長小説である――町田康
最も文章の水準、小説技術の水準の高い作品だった――松浦理英子
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
幼き頃に母親から「あなたの父親」と教えられた廃鉱の鉱夫人形ツトム。その人形が小波の暮らす東京に姿を見せるようになり……少しずつ不安定な世界がじわじわと広がっていく感じが良かった。意味が分からなくて解説サイトを見てしまった(笑)
Posted by ブクログ
言葉の選び方の新鮮なこと、この現象や動作をこう表現して、その表現が初めて出会うものなのにストンとハマるのでグイグイ読み進めていきました。小波が平常でいないのは他者から見れば勿論分かるけれども、小波の視点から見ると、なにか真っ直ぐだなとも思いました。靄に包まれて方向が分からなくなるような、かと思えばどこからか剣が飛んできそうな、とても凄まじい作品、、、読めて良かったです。
Posted by ブクログ
美しい狂気
なにしろ文章が美しい。味わい深い。
色彩が豊かで、だのに言い回しがねちっこくないし、ワードセンスがクール。
計算された研ぎ覚まされた一言一言。
驚いたものをピックアップしたけどまだいっぱいある。
これはなんのジャンル?
サイコ&サイバー?
サナミの生育環境、過去からとんでもない狂気が生まれている。
子が母親に似てくるという恐怖。
鮮やかに迫ってくる得体のしれない不気味な体験。
与えられた言葉で考察の余地のあるものは愉しい。
ツトムの過去の物語も並行して繰り広げられるが、理想の架空の父親と、なんら関わりはない
結局最後までオチは言い切らずに匂わすのもニクい。
・夫は実在したのだろうか。ついに失顔症まで患っただけだろうか
・家に入れた老人は誰??実はホントの父親だったり?
確実に実在した人物
・サナミ
・モブ:デパートの店員
・防火設備検査員
いたであろう人物
・廃鉱山の母子、スタッフ
幻
・ワクチン接種会場や、団地の庭、に現れたマネキン
ホームセンターのは多分普通にマネキン
・デパートのけろっぴシール
・ドッペルゲンガー
過去にいた人物
・サナミの母
・要介護のサナミの父
パラレルで進む架空の過去
・尾去沢ツトムたち(鉱夫)
わけがわからいのだけど、おもしろい。こういうの見ると読書会って参加してみたいなと思うけれど、私のようなバカが行っては話についていけない気がするので行かない。
独特の擬音のメモ
・肺が、セロセロと
・神経はヒリヒリと震え
・だんぎだんぎと一段とばしで
・ゆびをさらさらと擦り合わせ
・水をぐんぐん飲み下し
・ポトポトと帰って行った
・ミーミーという警告音
・カサカサと小声で叫んだ
・バラ、バラと靴の放り出された
・チリチリと震えながら、定点に
・鉱物の粉がチラチラと雪のように光って
・じん、じん、じん、という足音
・モロモロと崩れ
家庭用安心坑夫
秀逸ワード
・虹色のパルス波のような痛み
・肌は、病人のような黄緑色
・非常口の誘導灯が緑色の恒星めいて
・肉厚で、クリスマスめいたあか色
・赤い点になった小波がずん、ずんと線形に飛び退って
・鉱物が鉛筆のような幽かなきらめきを返し
・舌先の青い炎だけがチロチロと
・パイ状に重ねられ圧縮されたおびただしい時間の地層
・肉ののりもの
Posted by ブクログ
町田康さんが群像新人文学賞の選評で「絶望的成長小説」と評しているが、そう言われればまさにそう。
父の愛情はなかった、と気づき、そこにこだわるあまり、今までの「夢のような生活のなかに帰ることはできな」くなったと理解するバッドエンド。これまでの生活が幸福だったのか?と疑問符がつく気もするし、正直夫の実在も定かではないけど。
ツトムの過去と、小波の現在も、交わるようで全く交わらない。ツトムはバターケーキで家族から送り出されたことがあったのに、小波は母の作品である「割れたたくさんの卵の殻」の上に、手つかずのホールケーキを乗せて、おむつで蓋をし、ゴミに出す。ツトムには愛情ある家族があったが、小波にはないのが悲しい。
全編考察が必要なザ・純文学で、確かに難解だが、文章は読みやすく、全体的に映像化したらめちゃめちゃ怖いだろう奇妙なホラー感があって(ラストの鍋のシーンとか怖すぎ)、わたしは好みだった。
Posted by ブクログ
小波(さなみ)はテレワーク中の夫に日々彼女なりに気を遣いながら生活を送っていたところ、小波の母にとって小波の父だった坑夫のマネキンのツトムが目の前に現れるようになる。入り混じる幻と現実の中で小波はある行動を起こす。
芥川賞選評で数名の選評委員さん、特に小川洋子さんが本作のツトムに惚れ込んでおられたので俄然興味が沸いて手に取ってみました。
確かに坑夫だったツトムとマネキンのツトムの下りはかなり面白い。ただし小波の狂気は突拍子もないところがあって読んでいて戸惑ってしまうこともありました。
Posted by ブクログ
純文学。
読みやすい文体ながら、表現や使う言葉が独特。
東京で過ごす小波の前にツトム(小波が父だと聞かされていた、マインランド尾去沢にある坑夫の人形)が現れるという、どこからつっこんでいいかわからない設定に惹かれる。
小波は、食堂にいた会話も笑顔もない母子家族をツトムの新しい家族だと思い込んだり、ツトムと鍋を囲んで誕生日のケーキを食べようと浮き足だったりする。
苦労すら感じさせる家族を羨ましいと思い、恐らく経験のない家族の団欒を再現しようとするその姿が悲しく虚しい。
小波が拒絶されたと感じ顔も覚えていない夫は、別に悪い人ではないと思うけれど。サナちゃんと呼んで、専業主婦でいさせてくれて、小波の実父に対する認識も真っ当。
夏なのに雪が降っていたのは、小波の不安定さを表しているのだろうか。さすがの鹿角も蝉が鳴く時期に雪は降らない。
マインランド尾去沢、一般公開が終わる前に行きたいな。
Posted by ブクログ
最近何らかの受賞作を読むことが自分の中で流行ってるので、芥川賞受賞作として。
タイトルが何だか馴染みづらい文字並びだなと。「坑夫」っていうところかな。作者さんはお若そうだけど、なぜ坑夫という発想がでてきたのか、キラキラした職業じゃないところに奇妙なリアリティ。
作品は、正直しんどかった。
スピード感があり、そんなに長くもない作品なのであっという間に読み終えることができるのだが、主人公の危うさにどこか感情移入してしまうのか、気持ち的に負担が若干大きかった。
主人公は、端的に表現してしまうと、何らかの精神的な病がある人なのだと思う。語られる視点がその主人公のものなので、読者は頻繁に理解に苦しむことになるが、理解する前にあれよあれよと物語は進み、事態はカタルシスを迎える。
主人公は目的を果たすとこっちの世界に戻ってくるが、大切なものを壊したことに気づく。でもおそらくそれは完遂しなくては前に進めなかったことなのだと思うので、しょうがない結末だったのだろう。そしてそれはもしかすると母親の呪いのようなものだったのかもと思うと、主人公が不憫でならない。
こう物語を整理すると、全てがきちんと組み立てられているのが見えてくる。主人公がなぜそんな病に侵されているのかの背景、今のアパートの情景描写、夫の描かれ方など、上手に配置されていて無駄がなく、作者の知性の高さを感じる。計算され練られた物語。
ただ、私個人の好みで言えば、読むのがちょっと辛い話で、残念ながら"好き"とは言えないのです。
よってすごい作品とは思うけれど、★は3。
Posted by ブクログ
やべえ分かんなかった。
結局、夫すらも妄想だったということ?
それとも愛想尽かして出て行ったということ?
過去と現在、季節すらバグる作品だった。
Posted by ブクログ
んーどうだろうね。わけわかんないってのが正直なところ。妄想の中で「いつだってうまくいかなかった」けれど、何とかしようともがいたってことなのかな。ラストに救いもなくて、まだ暗中模索の中。
現実はそうなのかもしれない。苦しんでいる人に気づいてやらなきゃな。