あらすじ
雲見番番頭の亜智一郎は、日がな一日ぼんやりと空を眺めている。だがそれは仮の姿であり、実際は将軍直属の隠密方であった。しかも彼を取り巻く人々は、かつての泡坂作品に登場した人物たちと、因縁浅からぬ関係が!?尊王攘夷に揺れる幕末で次々に起こる怪事件を、雲見番が粛々と解決してゆく連作短編集。
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Posted by ブクログ
その題名に冠せられた名前が物語るように、これはかつてミステリファンを驚喜させた『亜愛一郎シリーズ』の先祖に当たる亜智一郎を主人公にした時代ミステリである。
が、アイデア溢れる作者のこと、決して亜愛一郎シリーズを踏襲するような二番煎じは行わず、これは云わば泡坂版『仕事人』である。『必殺』は敢えて除いておこう、血生臭い話が並んでいるわけではないので。
亜智一郎を筆頭に、芝居好きな似非荒武者緋熊重三郎に、甲賀忍術を体得した藻湖猛蔵、豪腕誇る古山奈津之助の4名で構成された雲見番衆。とてもこの一冊で終わるのは勿体ないではないか!!!願わくばシリーズ化を求めたかったがそれも今は叶わぬ。
そんな粋な彼らが織りなす物語はかつての『亜愛一郎シリーズ』の特色であったチェスタトンばりのアクロバティックなロジックは鳴りを潜め、むしろ宝引の辰シリーズや夢狸庵シリーズに近い雰囲気を持っているが今回は将軍直属の人物という設定だけに江戸時代の歴史を色濃く繁栄しているのも興味深い。
従ってタイトルの『恐慌』の文字は物語の勇ましさには何とも似合わないとは思うのだが。