あらすじ
日本では1000万頭近い猫が飼われているといわれますが、その多くが腎臓病で亡くなっています。猫に塩分を控えた食事をさせて日々気をつけていても、加齢とともに腎機能は必ず低下してしまいます。そんな猫の腎臓病の原因は、これまでまったく不明でした。
そんななか、宮崎徹先生が血液中のタンパク質「AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)」が急性腎不全を治癒させる機能を持つことを解明しました。猫は、このAIMが正常に機能しないために腎臓病にかかることもわかったのです。
このAIMを利用して猫に処方すれば、腎臓病の予防になり、猫の寿命が大幅に延び、現在の猫の平均寿命である15歳の2倍である、30歳まで生きることも可能であるとされています。
──これは、愛猫家にとっては、とてつもない朗報です。さらに、AIMは、猫だけでなく人間にも効き、また腎臓病だけでなくアルツハイマー型認知症や自己免疫疾患など、これまで〈治せない〉と言われていた病気にも活用が期待されます。
本書は、最新医療の研究現場のリアルを伝えます。
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Posted by ブクログ
ヒトもネコも腎臓病は治せない。著者、宮崎徹さんは病気に打ち克つ蛋白質「AIM」の研究を。腎不全末期の15歳のキジトラ、キジちゃん、寝たまま食事もせず余命1週間。飼い主もすがる思いで著者に。AIM10㎎の静脈投与7日、キジちゃんは、起き上がり食事をして元気に動き回った。是非、商品化をお願いします!宮崎徹「猫が30歳まで生きる日」、2021.8発行。著者の見解:ネコの腎臓病は、AIMが先天的に機能しないという一種の遺伝病。子猫の時からAIMを投与すれば今の倍の30歳ぐらいになるのでは と。
Posted by ブクログ
猫と暮らしている人間として、とても興味深く読ませて頂いた。本の印税が、ネコと人間の腎臓病研修費用などに充てられるというのも購入した理由の一つだ。
著者の宮崎先生はとにかくすごい。
治せない病気を治したいという信念を貫くために努力を惜しまない。人間を診るお医者様だが、様々な偶然や縁を経て、今やネコのためにも全力を尽くして下さっている。そしてその知識をコロナ対策にも活かそうと尽力されている。私に財力があったら迷わず宮崎先生の研究のために寄付したいとさえ思う。
また、宮崎先生の素晴らしい努力の道筋を辿るうちに、日本が海外と比べてどれだけ医学の研究という分野で遅れをとっているかを窺い知ることができた。
海外は結果がすぐに出なくとも、未知の研究のために投資を厭わない。日本は結果の出そうにない研究には費用サポートも出にくく、そもそも研究をするための施設も足りないという。コロナに関してもそうだ。
もっともっと、宮崎先生のような志を持ったお医者様が増えてほしい。
Posted by ブクログ
記録。
宮崎先生とツィメルマンとの対談。
やはり音楽も科学も、自然や生命そして人間の精神の美しさや不思議さを想い、探求し、
「音楽家は音楽の言葉で、科学者は科学の言葉で表現する。つまり同じことをしているのだ」ということで落ち着いた。
Posted by ブクログ
猫が30歳まで生きる日
治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見
著者:宮崎徹
発行:2021年8月12日
時事通信出版局
知らなかったが、猫の多くは腎臓病で死ぬらしい。この本は獣医が書いたのではなく、医師で医学者(東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター分子病態医科学教授)が著者。著者がスイスのバーゼル免疫学研究所の正規研究員をしている際、偶然見つけたAIMというタンパク質が、肝臓病、がん、肥満など多くの病気治療に使える可能性がある、とりわけ腎臓病治療にとても有効であることが分かってきた。そこで、腎臓病になることが非常に多い猫に使ってみたところ見事成功、人への薬開発の研究とともに、猫への薬も作ることになったという内容がまとめられている本。
とても分かりやすい言葉で説明されていて、読みやすく、理解しやすい本のため、読んでいても明るい気持ちになれる。
AIMは、Apoptosis(細胞死) Inhibitor of(抑制する) Macrophage(マクロファージ)と著者が名付けたもの。マクロファージの細胞死を抑制する分子、という意味だそうだ。体内には「貪食細胞」が存在し、「不要な物を食べて体内を掃除する役割」を果たすが、その代表選手がマクロファージで、そのマクロファージだけが産出するのがAIM。血液中にかなりたくさん存在する。そして、AIMはマクロファージを死ににくくする働きをする。ただ、最初の内は、体内でAIMがどんな働きをするか分からなかったそうだ。ここまで読むと、マッチポンプのようで奇妙な気もする。
生活習慣病は治療法が確立してきているが、治せない病気がある。著者がそれらの共通項を考えてみたところ、ある種のごみが溜まって起きていることに気づいた。腎臓病、自己免疫疾患、アルツハイマー型認知症・・・貪食細胞には外から入ってきた敵を食べるのと同時に、体内で出来たごみも食べることが分かっていた。しかし、貪食細胞の働きを強めてごみをたくさん食べてくれるようにする方法が不明だったので、治療には使われなかった。
あるとき、脂肪の上にふりかけると脂肪がドロドロになった。脂肪を溶かす。ということは、脂肪肝が原因の肝臓がんの治療に使えるのでは?そんな研究から、AIMこそが貪食細胞の働きを強め、治せない病気をも治せることに繋がっていくのではないかと著者は考えた。
腎臓病の場合、多くは最初に「尿細管」という尿の通り道に死んだ細胞の破片(デブリ)が溜まり、詰まってしまうことから始まる。尿細管周辺には炎症が発生し、老廃物の濾過装置である糸球体に及び、尿細管と糸球体のユニットである「ネフロン」が死んでしまう。一度死んだネフロンは再生しない。そして、老廃物は血液に混ざり、尿毒症となるが、貪食細胞に老廃物を食べさせてしまえば尿毒症にはならない。
同じように、アミロイドβと呼ばれる不要な物質が溜まるアルツハイマー型認知症も、貪食細胞に食べさせてしまえばいい。
著者は、バーゼル研やテキサス大学で研究室を持ち、若いころから論文を発表、世界中で評価されてきたが、一つのタンパク質がまったく違うたくさんの病気に効果があるというのはおかしい、という考え方があり、うさんくさく見られた。だから、肥満に対するAIMの効果の論文を発表して、翌年に肝臓がんへの効果の論文を出して学会で発表すると、「昨年は肥満だったのに、今年はがんですか」と皮肉を言われたそうだ。
そんな中、著者の講演を聞いていた同じ動物病院の獣医師2人が質問に来た。講演でたまたま猫を調べたらAIMがなかったと余談で話したことに引っかかったようだった。猫の多くは腎臓病で死ぬことを知り、獣医師にとって非常に深刻な問題であることを知る。そして、獣医師とも一緒になって治療に使えないかと研究を始める。その後、実はAIMは猫にもあることが分かった。ただ、猫の場合はIgMという細胞(空母と表現)にいるAIM(戦闘機と表現)を飛び立たせることがないことが判明した。待機しているだけで働かない戦闘機。
そこで、マウスから分離、培養したAIMを使って猫に使ったところ、余命1~2週間と診断された猫が1年生きた。AIMは合成できないため、取り出すのに時間や費用がかかり、さらに長く生きさせることができなかったが、それができれば10年程度で死ぬ猫が30年ほど生きることも可能だと著者は考えている。
エンジェル投資家を見つけ、製薬化に向かうことができた。ところが、去年3月、コロナのために中断した。投資してくれた薬とは無関係の大手会社の資金難と、研究のやりにくさが原因だった。ただ、今は中断しているが、一歩ずつ治験に近づきつつあるようだ。
もちろん、本来の人への治療に使う研究も進められている。どのようになるのか、注目すべき技術なのだと思われる。
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著者がバーゼル研で与えられた研究室は、ノーベル賞の利根川進氏が使っていた部屋だった。
マクロファージは、本来、細菌やウイルスをやっつける善玉なのに、血管内では悪玉コレステロールをため込んで動脈硬化を発生させている。AIMを持たないマウスを作ると、動脈硬化の進行は通常より遅い。
人間の体は、1個の受精卵からスタートし、二つ、四つ・・・と分かれ、万能細胞と呼ばれる「ES細胞」の集まりとなる。この時点まで、各細胞は、将来、どんな細胞にもなれる。ただ、この時点ではなんの機能も持たない「役立たず」。その後、異なる細胞になって臓器を形作るべく分化をすると、もう後戻りはできない。
果物のドリアンに含まれる物質に、AIMを活性化する作用があることを著者は発見した。特許登録。
2005年、スペインの研究グループから、「AIMが細菌にベタベタくっついて菌をまとめ、お団子のように固めてしまい弱毒化する」という報告が出された。著者は、コロナウイルスにも使えると考えている。
Posted by ブクログ
ネコ好き、ネコ飼いとしては読んでおくべき一冊かと手に取ってみた。
AIMという、これまで、その機能を知られていなかった体内タンパク質の研究と成果の物語。タイトルにもなっているように、腎臓疾患によって命を落とすことの多いネコに対し、その機能とメカニズムの解明によって、腎臓病に効果のある薬、サプリを開発しようという筋立ての本書。
ではあるが、前半、著者がその謎を追って、海外でその研究に没頭できる機会に恵まれ成果を挙げるクダリが、先行投資の苦手な、リスクを取らない保守的な日本社会を揶揄していて興味深い。
「もし日本で研究していたら、間違いなく研究費が取れず、早々にAIMの研究から撤退しなくてはならなかっただろう。(中略)
日本では、どちらかというと、論文が出た後に研究費がもらえる。しかしそれでは、とても重要な研究の芽が出ないうちに潰してしまっているのかもしれない。」
そしてまた終盤は、AIMをいかに製剤し市販していくか。大学の研究室の枠組みを越えての取り組みも日本の閉鎖性が障害となっている。
著者は、そこを専門分野、学際、業界の垣根を越えた人間関係で次々と突破口を開いていくところは読んでいても痛快だ。これも、若い頃から専門性に囚われず、あらゆることに興味を持って接する姿勢で臨んでいたからであろう。 研究に行き詰った時も、
「何か新しいブレークスルーを得るには、専門に固執するのではなく、全方位指向性のアンテナをつねに張りめぐらせている必要があるのでは、と思った。」
と述懐している。
さて、その研究の対称であるAIM。
さまざまな偶然が重なり、体内にあるタンパク質のひとつであるAIMが腎臓病などの、〈治せない病気〉に効くということを突き止めるわけであるが、中盤に語られる、経緯とその仕組み、システムの摩訶不思議さは、正に本書の核心だろう。
〈治せない病気〉の多くは、発症や進行のメカニズムすらわからないものが多いことから始まり、ウイルスや病原体といった外敵の侵入と免疫系の戦いとして捉えていた病気は
「体から出たなんらかのゴミが溜まった結果、発症する」
という共通項にたどり着く。
そして、その溜まったゴミ掃除を行うものが、それまで機能がまったく不明だったAIMが、そのゴミに付着し、マクロファージに代表される貪食細胞にそれら不純物と一緒に食べさせることで体外への排除を促していたことを突き止める。
元々、体内に存在するAIMをいかに働かせるか? 慢性腎臓疾患のネコ科は、なぜAIMが機能していないのか? そのマクロの遺伝子解析の世界は、現代医学の最先端のお話でもあり、非常に興味深い。
これまで、不治の病や、一見、まったく違う病気に見えていた病気も、「自分の体から出るゴミが溜まる」という共通のメカニズムが原因である場合、AIMが効果を発揮するという発見は、アルツハイマー型認知症等、多くの症例にも応用が利くということでも、今後の推移が非常に注目される。
また、以下の発想は、近年の過剰なゴミの処理問題にも一縷の望みがあるようで興味深い。
「人間が生活をしていれば必ずゴミは出るのと同じで、生きているかぎり、このような生体内のゴミを出さないようにすることは不可能ではないのか? そう割り切って、ゴミが出る速度より、掃除する能力を、ほんの少しでもいいから高く設定してやれば、結局ゴミは溜まらないし、溜まっていたゴミも最終的に取り除けるはずである。」
AIMという体内の極小の世界から見える未来像に、いろんな意味で、微かな光明が見える好著だ。