あらすじ
武家社会を生み、鎌倉幕府を支えた東国武士団の形成と組織構造を、文献と現地の精査を通して解明し、関東平野を疾駆する武士達の実像に迫った中世史研究の先駆的著作。解説=大隅和雄
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Posted by ブクログ
中世における東国の武士の実態を解明する論文のほか、竹崎季長や『吾妻鏡』などにかんする論考などを収録している本です。
「中世成立期の軍制」という論文が、中世における武士の軍制にかんする論文で、総説的な位置づけにあたる巻末の「中性武士とは何か」でその考察の結果があらためて簡潔にまとめられています。著者は、国司直属の武士と、地方の有力貴族ないし豪族のもとに組織された武士という、二つの系統から軍が構成されていることを明らかにしました。中世の武士社会は、こうした二重構造をかかえ込んでおり、そのことは一方で在地の武力を国司が体制内に「組み込む」という意味をもつとともに、東国の豪族による国衙の「乗っ取り」もおこなわれたということを著者は指摘します。
さらに著者は、こうした中世における武士の実態の解明を通じて、武士による支配を理解するさいに、「律令制的国家意識」を安易にもち込むことに対する警戒を呼びかけています。院政期において、天皇や院の「人間」的な行動が多く伝えられるようになりますが、このことは人的結合にもとづく組織が国家体制に浸透していったことに対応しているとみなすことができます。『神皇正統記』に代表される「律令制的国家意識」を前提としたうえで、封建制と律令制の共存や対立、あるいは妥協として中世以降の歴史を解釈するのではなく、組織内部の人的結合のありかたをていねいに解きほぐしていくことで、統治の実態を明らかにすることが、著者の意図だったのではないかと考えます。