あらすじ
太平洋戦争で、日本はなぜ敗れたのか。本書で説く「克己心の欠如、反省力なき事、一人よがりで同情心がない事、思想的に徹底したものがなかった事」など「敗因21カ条」は、今もなお、われわれの内部と社会に巣くう。そして、同じ過ちをくりかえしている。これらを克服しないかぎり、日本はまた必ず敗れる。フィリピンのジャングルでの逃亡生活と抑留体験を、常に一貫した視線で、その時、その場所で、見たままのことを記し、戦友の骨壷に隠して持ち帰った一科学者の比類のない貴重な記録。ここに、戦争の真実と人間の本性の深淵を見極める。第29回毎日出版文化賞受賞の不朽の名著。 ★電子書籍版『虜人日記』では、紙の書籍でモノクロだった挿絵を全てカラーで再現。未公開の写真や挿絵も追加。
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Posted by ブクログ
本作は、醸造技術をもつ企業人が軍属としてフィリピンへ派遣され、業務を行い(アルコール製造)、終戦を迎え、捕虜として過ごした筆者の、およそ二年ばかりの日記であります。
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類似の作品に、た山本七平氏による『一下級将校の見た帝国陸軍』がありますが、本作はこれとは大きく毛色が異なります。『一下級―』が文字通りの戦中記であり、九死に一生を得るかのごとくの怨讐に満ちた筆致で生死の淵を描くのに対し、本作は後方支援部隊からの視点であり、緊張度は若干低めかもしれません。
ただし、小松氏の超然とした視点は、女遊びに現を抜かす日本軍兵、その兵士が苦しんでいるジャングル行軍に自分の女とその荷物を運ばせようとする将校、人はいるものの物資も食料もない現地の状況(ロジスティック不全)、等々を克明に捉えています。
また小松氏の描写は、現場から常に一歩引いており、時に詩歌や絵画の挿絵があり、ジャングルでの調理シーンなどはむしろユーモアすら感じぜずにはいられないものでありました。限界的状況でも文化的精神を失わない氏の人格には敬服するばかりです。それゆえか読んでいてまったく凄惨な気持ちになりませんでした。
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もう一つ驚くのは、本作が氏の死後にその家族によって私家版として出版されたことです。
つまり氏は本稿を出版することなく亡くなっているのです。あとがきで娘さんが書かれているように、まさか父が思想的にこのようなことを考えていたとは露知らなかったとのこと。それだけ本作の信ぴょう性は高まろうかとも思います。筆者は自らの記憶をとどめるためだけに書いていたということでしょう。記録とは実に大事であります。
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ということで戦記物でありました。
読んでどうなるというものではないでしょうが、やはり感じるのは、自分で考え、表現すること、の大事さであります。筆者は単なる軍属とはいえ、キチンと自身の意見をもち、時に将校にも議論をし、行動を決定していました。人の死のタイミングは多分に運命に左右されますが、それまでの人生はやはり己の掌中に持っておきたい、そう感じた読書体験でありました。