【感想・ネタバレ】2084年のSFのレビュー

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Posted by ブクログ

『ポストコロナのSF』に続く日本SF作家クラブによるアンソロジー。オーウェルの『1984年』の100年後、というお題で書かれた23編。『ポストコロナ』もだいぶ面白かったがよりぶっ飛んだ設定が多くて大変良かった。『1984年』をどこまで意識したりオマージュするかもそれぞれで、想像力を解放してくれればどちらでもいいんだけど、それでもやっぱり『R___R___』の二重思考をあれだけ表現した筆致は凄すぎてニヤけた。あとは短編だからこそではあるんだけど『男性撤廃』は長編にするか『女性撤廃』との二本立てで楽しんでみたくなった。

事実が小説より奇なりなんて、ぶっ飛ばせ。

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2023年09月05日

mac

ネタバレ

・「小説よりも奇妙な現実なんて、誰も求めてないよ!」

・「僕は今幸せなんです。現実ってそんないいものですか?この世界で歌っていてはいけませんか?
誰にも迷惑かけてません。一人でいるだけなのに」
「現実だって、それほどいいものじゃない。だがなあんたがそうやって現実から逃げているあいだも、
現実を支えるために必死で戦ってるやつらがいる。誰にも迷惑をかけてないと言うが、
あんたの幸せは、彼らの犠牲で成り立ってる」

・効率優先、生産性第一の社会、即ち若いことが価値だとされる社会では、
人間的な豊かさや幸せは二の次になりがちだ。
・人類が到達した「無眠社会」。それは人が起きたまま睡眠できるようになり、
圧倒的な生産性を手に入れた社会。しかし、そんな世界の中でシステムに適合できない(睡眠せざるを得ない)者、
適合しすぎた(「夢」から出られない)者がいた。
・生物にとって睡眠は欠かせないもの。自然界では、たとえ脳がない生物であっても寝る。
・人口睡眠装置『アウェイク』は30分の睡眠で、記憶の整理、免疫機能の調整、肉体的休息の効能を得られる。
・働くにせよ、学ぶにせよ、1日8時間、年間4か月のアドバンテージが得られる、というお題目のもとに実現した
超高度生産社会の中で、福祉のお世話になることは、公共の敵と看做されることを意味した。
・「みんなはただ奴隷のように働く自分たちが、かつての人間よりも優れたものだと思いたいだけなんだよ」
・「人は眠りを無駄なものだと決めつけてしまったけれど、本当は違うんだって。
どんなに人生に生きがいを感じている人でも、本当は、自分が世界から離れる時間が必要で、
それが眠りなんだ、って思った。眠って、活動して、眠る。それがセットなんだ」
・「みんなにとって今の世界は悪夢なんだよ。どこにも逃げられない。
ずっと現実が絶え間なくて、勉強することと働くことに追われている。だから30分の夢の世界にずっといたいんだ」

・残そうという努力をしなければ、消えてしまうものも多い。

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2023年04月30日

Posted by ブクログ

「1984年」のオマージュとして企画された23人の作家によるSFアンソロジー。ディストピア小説のオマージュだからか、暗いというかなんというか。
2084年という未来を描いた物語であるのに、未来は無限で輝かしい、みたいなキラキラした物語はないように思いました。拡大する世界、進歩する科学、それらの速度に追いつけない個人の精神世界。その乖離を埋めるための科学が、さらに隙間を広げてゆく、かのような。
知らないうちに、世界と社会とのずれが生まれていて、小さいものが無視できないほどの存在感を持ち出してしまって、押しつぶされそうになってしまった、という恐怖がある。そんな読後感です。
自分と他人、自分以外のものとは決して相容れないということが目視できてしまった、ということかなぁ。それを埋めるための科学技術が、断絶をより際立たせるという結果になってしまった。

全体的にそんな印象になってしまった「2084年のSF」です。ただ『R__R__』だけが、不安や閉塞感をぶっ飛ばそうとしてくれる。抑えきれない衝動と、それに突き動かされる情念。いい。
「1984年」オマージュであることを思えば、「2084年のSF」という本自身に閉塞感を感じても仕方のないことか。その状況をぶっ壊す兆しになるのが、自分にとっては『R__R__』だったのかもしれない。

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2023年09月23日

Posted by ブクログ

様々な方向の作品が読めて良い。特に気に入ったのは、斜線堂有紀「BTTF葬送」。未来の話なのに大変ノスタルジックな筆致で描かれるのが新鮮。遠い未来の主人公と現代の読み手との感情のシンクロさせるような仕組みが素晴らしい。竹田人造「見守りカメラ is watching you」もよい。リズミカルにユーモラスに描かれるが、その実、近い将来の問題を描き出してて、笑いながら読んで、読み終えてどきっとする。十三否塔「至聖所」も、オーソドックスではあるが、だからこそ未来のお話なのに足のついた物語としてのギミックがよい。春暮康一「混沌を掻き回す」も、テラフォーミングという大掛かりな装置を巡る世界の動向を、確かにそのような事態が起きてしまいそうだという、ミステリチックなお話で積み上げる。ご都合主義、そのようなもの、とされているところの裏に踏み込むことで、現実的な質感のある物語になっている。

こういうアンソロジーなので、方向性がバラバラなのは仕方ないとしても、もう少し並べ方を工夫するとか、テーマ絞るとかできなかったのかな?というのは正直なところ。読んでて単調に感じたり、人絞ってもう少しページ数割り当てた方が良いのでは?とか思ったり。

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2023年07月10日

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ネタバレ

 おそろしき
 こともなき世を
 おそろしく。


 1984年生まれの身からすると『1Q84』が刊行されたあたりで一度生まれ年についてめんどくさいなぁ、という気分になったことがあると思うのだけれど、逆に1984年生まれなのに1Q84読んでないの? って云われたくって本当は読んでいるのに読んでいないことにしているわたしのようなひとは沢山居るんじゃないかと思っています。いやわたし本当に読んでないですけどね?
 さてさて、フーコーが、トリュフォーが、長谷川一夫がこの世を去り、じゃぁ誰が生まれたかというとまぁあんまりぱっとしないわけなんだけれど、日本で公開された映画が、と云えば結構粒ぞろいで、とはいえ1985年には負けるなぁという中途半端な年なわけですよ。何が云いたいかといえば実際の1984年なんて実は大したことがなくて、あくまでもセンセーショナルなのはオーウェルの描いた『1984』ということ。
 さてそうなると、2084はどうか。
 先ず恐ろしいのは、あと10年余りでもう2084年の方が近くなってしまうということ。折り返しを過ぎて、さて1984年と比べて現代は…と見てみるとあまり進歩が無いように感じるのは、まぁ自分が生きてきた時代だからという贔屓目があるのも事実。
 ではあと30年程の未来、オーウェルが1984年を描いた1949年の百年後である2049年に、我々はどんな2084年を描くのか。

 案外悪くないんじゃないだろうか?


 というわけで久々に前口上が長くなりました、『2084年のSF』。
 先日レヴューした『新しい世界を生きるためのSF』と同じ系譜ではあるけれど、より正統派かな? という感じは受けました。わたしが「正統派」と云うときは勿論、良くも悪くもである。
 全体的に、突き抜けていくパワーのようなものは『新しい世界…』の方が強い。そこはもう好みなのかなぁ。若手の作品を気に入る傾向にあるようです。

 今回は特に気に入った作品のみを御紹介。


「目覚めよ、眠れ」 逢坂冬馬
 眠り、を克服 (?)した社会と、それに適応出来ず苦しむ主人公を描く。いま当然とされているもの、ことが、ひとつ踏み越えた先では大きな問題提起の元になるというSFのベーシックな形だけれど、その転回を上手に利用して最後に大きく、裏返る世界の皮肉さと恐ろしさがグッド。見事なSFほど、面白く読みながらも薄ら寒い恐怖を残してくれる。


「R_R_」 空木春宵
 こちらは拍動=ビートを取り締まるようになった社会で、音楽を知る少女の物語。
 設定もさることながら、その表現手法に唸らされる。その手があったか! またその仕組を、敢えて読み解かせるところも好き。
 芸術、を武器にディストピアに対抗していく、これもまた普遍的な形ではあるけれど、その分キャラクタの魅力、筆致の魅力が際立っていてもう、これは、ロックだ。


「情動の棺」 門田充宏
 「R_R_」と一瞬似通ったディストピアで、逆にその構造の内側から、内側であるからこその手法で一矢報いるような、SFミステリと云っても良いような作品。非常に丁寧な書き口が淡々と描き出す、その棺の中に秘められた激情が見える。


「フリーフォール」 安野貴博
 ロボットが…M-1グランプリで二回戦に…?
 量子ネット上で思考を加速させることが可能になった世界。30秒が数ヶ月にもなる世界で、主人公は人生を精算に掛かっているのだけれど―
 演算、計算の加速という技術的な要素と、後半の主人公が抱く生々しい感情との対比がとても良かった。技術の粋を尽くして非論理的な行動に出る、っていうのは本当にシンプルで、好き。


「至聖所」 十三不塔
 聖地巡礼、というのは結局いまのジャパナイズまたはアニメ化 (笑)された意味合いとしてでも、自分を見詰め直すという意味合いに重きがあるように感じている。その場所で、その何かを愛してやまない自分自身と向き合うのだ。
 軽妙なテンポで進む会話と、主人公が自身の内側を掘り下げていくメインテーマの反比例が非常に好み。記憶をコンテンツとして保存する、という設定の怖さもありつつ、けれど、データとしての記憶に対して、生身や感情論で向き合えることの素晴らしさも感じる。勿論それは危険なことでもあるという自覚はひとまず、置いておいて。


「BTTF葬送」 斜線堂有紀
 特殊設定ミステリの旗手は、特殊設定SFの旗手でもあった。
 悔しいけれどどつぼでした。これはもう世代的に仕方ないのかもしれないけれど。
 2084年、という設定を最も活かしているのが巧いとも思うし、それがそのまま1984年への思慕へ繋がっているのも、その年に生まれた人間としては有難いもので。
 BTTF、という表記でピンとくるひとは、もうそれだけで読んでいいと思う。
 にしてもやはりこのひとは、結局どうしたって恋愛小説家なんだな、というのが一番の感想。
 恋してやまないもののひとつくらい、抱きしめていてみせろい。


「星の恋バナ」 人間六度
 ガ○バスター感を凄く感じるのは、設定盛々の特撮系SFだからでしょう。
 これでもか、と作り込まれた設定の数々を、出し惜しみしないでガンガン使う、このあたりの精神は古き良きオタクみたいでとても読み応えがあります。それでいて青春小説、恋愛小説としてもきらりと光る良作。巨大ロボ、いぇい。パイロットの少女、いぇい。宇宙怪獣、いぇい。




 さてさて。
 SFには希望が溢れている、って、前にも書いたけれど、これは好きだなと云う作品達は皆、技術や理論上の面白さは勿論、思考の面白さが抜きん出ているみたいです。
 きっとどうにかなっていく、きっとどうにかしてみせる。
 考えに考えて、けれど考えなくていいことは考えない。
 自分にできることの限界を知っていて……いや、少し違うかな?
 正しくはきっとこうだ。
 自分に出来ることには限界があるということを知っていて、けれど、その限界がどこかを自分は知らないことを知っている。
 持てる知識や想像力をこれでもか、とつぎ込んで。希望も絶望も間違いなくそこにあるから、そのすべてを綯い交ぜにして、物語のすべてを尽くしたとき、その物語は時代を超える。

 素晴らしいよ、SFは。

 ☆3.8

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2022年08月01日

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ジョージ・オーウェルの『一九八四年』から100年後の2084年。世界はどうなっているだろう。23人の作家が描く書き下ろしアンソロジー。

半数以上は初読みの作家。

印象的なものは青木和「Alisa」、久永実木彦「男性撤廃」、門田充宏「情動の棺」、竹田人造「見守りカメラ is watching you」、安野貴博「フリーフォール」、十三不塔「至聖所」、斜線堂有紀「BTTF葬送」

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2022年07月18日

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ジョージ・オーウェル『1984』の100年後をコンセプトにしたアンソロジー。企画は楽しいけどコンセプトのせいかどの作品もディストピアになっている。科学技術が進歩しても楽しそうな未来になっていない。
能天気に未来を礼賛する作品も読みたかったなぁ。

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2024年02月21日

Posted by ブクログ

 日本SF作家クラブ編集である。2084年を舞台にした、23人の作家の短編を集めた書下ろしアンソロジー。
 ディストピア小説の傑作「1984年」から100年後を予言する? いや、作家は予言者ではない。己の想像力を吐き出しているのだ。

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2023年03月19日

Posted by ブクログ

1984年から100年後の2084年の世界。感染症や全体主義の再興、テクノロジーの進歩を受けて大きく変化した社会を描く。だが、そんな中でも人間が世界内存在として対話し生きていく姿が映し出される。

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2022年06月10日

Posted by ブクログ

日本SF作家クラブによるアンソロジー。前作「ポストコロナのSF」の執筆陣がリアルタイム・オールスターみたいな陣容だったのに比べると、ニューフェイス寄りの人選。他にも、逢坂冬馬氏がSFを書くことを、恥ずかしながら迂生はここで始めて知った。そのせいか、作品の傾向もバラバラ、出来の方も玉石混交とまでは言わないが、かなりばらつきがある。SFの濃度(?)も、普段SFを読まない読者に配慮したような作から、尖りすぎて、ほとんど何が書いてあるのかさえ、理解できないようなのまである。とりあえずは、この幅の広さを楽しんで、趣味があった作を愛でればいいと思う。個人的に気に入ったのは「至聖所」、「移動遊園地の幽霊たち」、「男性撤廃」辺り。

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2022年05月30日

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