あらすじ
コロナ禍の世界でなにが起きていたのか。アトウッド、ケレット、イーユン・リー、チャールズ・ユウなど、錚々たる作家の声が国境や人種を越えて響きあう、空前絶後のアンソロジー。
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Posted by ブクログ
面白かった。
ニューヨーク・タイムズマガジンが、現代のデカメロンを作ったらどうかと、作家たちに声をかけ、
7月には特集号になったというから、驚きのスピードだ。
ケイトリン・ローバーによる序文にこうある。
_人生でも指折りに恐ろしい経験のさらに深く放り込まれてはきても、作家たちが芸術作品を作っているのだと分かった。略
最良の文学作品とは読み手を遠くに連れていくだけでなく、自分たちがどこにいるのかをはっきりと理解させてくれるものなのだ_
合わない作者ももちろんいたけれど、
どれもこれも本当にあの2020年の春の事を書いていて、リアルだった。
不安と、現実逃避と、希望とが入り交じって。
短い作品ばかりなのに、漠然とした死を感じるからこわいほど興味深くておもしろい。
『既視感』
日に日に空き部屋になっていく、ニューヨークのアパートメント。人見知りの黒人女性と初老の白人女性。
彼女はピアノ教室を開いていたが、子供たちはもう来ない…仕事も家族もなく、どこにも行き場のない人たちのはなし。。
『ロサンゼルス川つれづれ話』
ゲイのカップルの日常?男女のカップルと変わらないんだと、知らされた。音楽、本、映画、どれも趣味が合わない。
お気に入りの作家は、愛する人と結ばれて、毎晩一緒に映画を観ている…。
歴史上の素敵なカップルを数えてみる…。
ある日、自転車をオンラインで注文した。彼は、イラつきながら自転車を組み立てる。自分は?私は、なかなかにダメな子で、そういった面倒からは逃げてしまう。そうして、彼の怒りをかいながらも、出来上がった自転車でロサンゼルス川を走る。
悪くない…のかな。こんな人生に甘んじても。
『石』
冴えない小説家が、トークイベント中に石を投げられたことで、気の毒な被害者として一躍注目されることになる。しかし、犯人は見つからず、人々はそんな事件も忘れてゆく。
忘れられた小説家は、これから書きたい本、文学的で真の自分の世界を…などと考えていると…。
これ、すごいな。
『スクリーンの時間』
テレビを見せずに子育てをしようとする、物書きの夫婦。しかし、彼らはテレビなしでは過ごせない大人になっていた。ロックダウンで外に散歩にも出られなくなってしまった子どものために、彼らはお互いの仕事を調整して、子どもと過ごす…
でも、日曜日だけ映画を観せたらどうかと話し始める。そこからの、二人の姿が、ユニークで、甘美で、だのに、あなたたちこそ大丈夫なの?という気持ちにさせられる。
一番お気に入りの短編。
『大きな赤いスーツケースを持った女の子』
これこそとてもデカメロン的なんじゃないかしら?
大きな赤いスーツケースを持った女の子だと思い込んでいた彼女は、作家のファム・ファタールではなかったのだ。。ラストになるほどと、うまいなぁと、なってしまった。
『完璧な旅のおとも』
4年前から別々にくらしていたマヴィ(妻)の息子ミケーレが、ミラノが危ないと言って夫婦の家にやってくるという。
夫婦の最後の夜は、失敗に終わっている。
ミケーレが来てからは、禁欲生活のままだww
若いミケーレに翻弄される僕が妙に憎めない、イタリア人の愛されキャラなのだ。
翻訳のリズムがすごく良くて、なんだか一瞬で読めてしまった。
『願い事がすべて叶うなら』
これは、ホテルに隔離されているの?
それともドラッグの常習犯である俺の幻覚なの?
分からなくなってくる…
オチがやっぱり!えウソ?!というおもしろさ。
キリがないのでこの辺りで。
俄然、本家の『デカメロン』を読みたくなっている。