あらすじ
死刑という「安息」──
なぜ人を殺すことでしか、彼らの思いは遂げられなかったのか。
「死刑になるため」、「無期懲役になるため」と、
通り魔を行い、放火をし、見ず知らずの人を傷つける凶悪犯が後を絶えない。
彼らはなぜ、計画を実行し犯罪をおかすことができたのか。
我々と、あるいは彼らと同じ境遇にいる人々と、何か違うのか。
本各界の研究者、彼らを救済する人びとに上記の問いを投げかけ、
そのインタビューの中から「彼ら」の真の姿、そして求めているものを探る、ルポルタージュ。
【取材者】
秋葉原無差別殺傷事件犯人 加藤智大の友人 大友秀逸氏
宅間守・宮崎勤らの精神鑑定士 長谷川博一氏
東京拘置所・死刑囚の教誨師 ハビエル・ガラルダ氏
永山則夫の元身柄引受人候補 市原みちえ氏
10代少女毒物殺人事件 支援者 阿部恭子氏
元刑務官 坂本敏夫氏 など
【目次】
第一章 加害者家族を救う人
阿部恭子
NPO法人World Open Heart理事長
第二章 自殺と他殺を受け止める人
大友秀逸
「秋葉原無差別殺傷事件」犯人 加藤智大の友人
第三章 死刑囚に寄り添う人
ハビエル・ガラルダ
教誨師
第四章 「傷つけたい」思いと対話する人
長谷川博一
こころぎふ臨床心理センター センター長
第五章 「生きづらさ」に向き合う人
大石怜奈・石神貴之
学生団体YouthLINKメンバー・OB
第六章 「死刑になりたい」殺人犯を支え続けた人
市原みちえ
「いのちのギャラリー」管理人
第七章 家族と嗜癖から人間を見る人
斎藤学
家族機能研究所・精神科医
第八章 社会と犯罪の関係を研究する人
岡邊健
京都大学大学院教育学研究科 教授
第九章 死刑を執行する人
坂本敏夫
元刑務官
あとがき
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Posted by ブクログ
この10年くらいで、「死刑になること」を目的とした凶悪犯罪が増えている印象がある。
つい先日も、中学三年生の女の子が「死刑になりたい」と見ず知らずの親子に重傷を負わせた。
彼女にしろほかの凶悪犯にしろ、凶悪犯罪を犯して見ず知らずの人や身近な人に対して、取り返しのつかないことをする以外の選択肢がなかったはずがない。
あの人たちはいったいどうして、あんな凶悪な反社会的行動に至ったのかを知りたくて読んでいる。
死刑という刑罰があることによって、犯罪を抑止するという効果を狙っているというのが、死刑制度の前提にあるはず。
でも、これだけ次々と死刑になることを望む人が凶悪犯罪を起こしているということは、死刑に犯罪を抑止する効果は無いということだ。
犯罪抑止の効果がないどころか、凶悪犯罪が起こる一因になってしまっている。
そもそも、死刑になることを目的として見ず知らずの人を死傷させるのは、拡大自殺と呼ぶべきもので、そもそも自殺を望む人が多すぎる病んだ社会を変えて行く必要がある。
変えていく必要のあることの中には、死刑制度の廃止もあるだろう。
それから、殺人欲求というものを持っている人は一定数存在して、彼ら彼女たちはそのために悩んでいるけれど、相談先はなかなか無いという話も興味深かった。
歴史を見返すと、人類の死因のトップは他殺だった。私達の祖先は、程度の差こそあれ必要なときに(あるいは不必要なときでも)暴力を振るうことをしなければ、生き延びることも子孫を遺すこともできなかったかもしれない。
暴力的傾向が生存に有利な時代を生き延びた人たちの遺伝子を私達は受け継いでいるので、何かが間違えば人を傷つけたり殺してしまったりとか、そういうこともありえるのかも。一生そんなことにはなりたくないけど。
Posted by ブクログ
死刑を求め罪を犯す人、加害者の家族を支える人、刑務官、生きづらさをサポートする団体、様々な立場の人たちが死刑とその周縁を語るノンフィクション。メディアが作る安易なイメージとは違い「そうだったのか」と思う事が非常に多かったです。
犯罪心理学、セーフティーネット、死刑廃止論、発達障害、学校教育など現代におけるキーワードを理解する上でヒントが多い本だと思います。報道を見た時の姿勢、感じ方がより柔軟になるのではないでしょうか。おすすめ本です。
Posted by ブクログ
ふだん触れちゃいけない感情に触れたような気持ちになる本
この本は各章で「死刑」に携わる人たちにインタビューする形式になっているんだけど、それぞれの章が本当濃い。
私が一番インパクト感じたのは第一章の阿部恭子さんのお話。
なかなかヘビーな話を軽い調子でぽんぽん話してる感じがするインタビューだった。
他の人のインタビューも考えることが多い話が多かった。
多分再読しますね、この本は。
Posted by ブクログ
私にはテーマが重く、知らないことが多かったですが、とても興味深かったです。
読み終わった後、正解がないような気にもなり、考え続け、相手を知ろうと思う気持ちも必要だと感じました。
Posted by ブクログ
ヘヴィな内容を想像させるタイトルだが、そうでもない。本書に登場する人物たちはいずれも無差別殺傷犯(もしくはその潜在犯)と向き合い、話を聞いてきた人々である。彼らへのインタビューを中心に構成されたルポルタージュだ。人は誰しも無差別殺傷犯になりうる可能性があると本書は指摘する。そうしない為にはやはり社会との結びつきが重要なのだと語られる。淡々と日本の今を見つめた静かな良作である。
Posted by ブクログ
「死刑になりたくてやりました」このセリフを
度々聞かされてる気がする。この言葉を死刑賛成派の方々は、どう受け止めているのだろう。厳罰化が犯罪抑止にならないことは明らか。むしろ、死刑の一番の理由、現実には、被害者遺族感情、遺族が望むから、ということだと思うのだけど、、それこそ、犯人がどんな罰を受けても、亡くなった人は戻らない。どんな判決でも、遺族が満足するなんてはずもなく。。むしろ、何故?何故?の答えの方が、必要な気がするのだけど、違うのかなぁ。生きて解明すること、説明し尽くすこと、そして、悔いること、それこそが、遺族への癒やしでもある気がするのだけど、きれいごとかなぁ。
Posted by ブクログ
著者が、「死刑になりたい」という動機から殺人を企てた犯人の心理に迫るべく、活動家や研究者、心理士等10人にインタビューしまとめた本書。
登場した人物の大半は、その著書を読んでいたり、手にしたことのある文献に登場していたりして、私もその名前を既に知っていた人。もちろん、言及されている事件やその犯人は、世間でもよく知られたものばかり。
著者は、無差別殺傷犯にとても興味があったと言う割に、本書でインタビューした誰もがその犯人の心理を否定しないことが予想外だと言っていたのが、逆に不思議だった。興味があったのならば尚更、否定しないことに納得しかないのではないか。まあ、そう書かないと話の流れがうまくないからという短絡的な理由でそう書いただけなのかもしれないけど。
私が本書で一番なるほどと思ったのは、殺人を企てて完遂してしまう人物は、やっぱりそれなりに頭がよく、行動し切ってしまうだけの強さがあるというくだり。
ああ、確かにそうかもしれないな、と。いろいろな条件(敢えて言うなら悪条件)が重なって重なって重ならないと大事件にはなり得ず、だからこそ、世間を震撼させるような事件はそんなにたくさんは発生しない。
彼らのように悲惨な生育歴や環境の中にある人はほかにもいるはず。それでもほとんどの人が、劣悪な状況があっても殺人にまで至らないことを思えば、やはり完全に行動化までできてしまった犯人には「ほとんど」に当てはまらない何かがあるのだろうし、それを解明することこそが、次にそんな悲劇が起きないようにするための大きな糸口になると思う。
本書でも著者を含め皆が言っているのは、死刑制度には犯罪抑止効果は全くないということ。私もそれには完全同意で、本当の意味で贖わせたいのならば、死刑制度ではその役割は果たせない。被害者遺族が、犯人の極刑を望むのは当然の思いだと思うが、第三者が制度すらよく知りもしないで、遺族の気持ちを考えたらそれしかない、みたいにわかったように死刑を肯定するのはそれは違うかなと。
死刑になりたくて人を殺すということは言わば拡大自殺。そして本書で言われているのは、自殺者が多いことは、個人にではなく社会にその責任があるということ。
死刑制度は一刻も早く廃止して、事件を起こしてしまうそのメカニズムの解明に注力する方が、よっぽど意義があると私は思っている。
ある章では、有名な事件の犯人の元同僚が登場する。本書が刊行されたときは、まだ当該死刑囚の刑は執行されていなかったのだなあ。その元同僚の思いを知って、なんだかとても切ない気持ちになってしまった。