あらすじ
大手出版社で校閲者として働く矢野聡には、秘密があった。横浜・黄金町のギャラリーで出会ったハンガリー製のラブドールを小春と名づけ、一緒に暮らしているのだ。毎晩、ベッドで小春のからだを弄びながら話しかけ、返事を聞き、愛撫されつつ眠りにつく日々。女性バーテンダー・鵜飼千賀子の部屋で快楽に耽るだけでは得られぬ安らぎを、小春はもたらしてくれたのだ。
そんな聡の人生に、1人の良い女が登場する。千賀子の店で出会った映像翻訳者の茜屋恭子は、知的な魅力の持ち主だった。
「これまで会ったことのないタイプだな。時々胸の鼓動が速くなった」と小春に話してしまったことから、聡の周辺でさまざまな事件が起こり始めて――
戦慄の長篇サスペンス!
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Posted by ブクログ
初読みの作家さん。
芥川賞、谷崎潤一郎賞など受賞されてる方。
何かで紹介されてるのを見て購入。
聡は出版社で校閲の仕事をする独身男性。
彼は密かにハンガリー製のラブドールを購入し、小春と名付けて毎夜弄び、話しかけ、これが精神衛生上とても良いと考える。
バーを営む千賀子とは定期的に会う。
千賀子はバーに現れた男が過去の秘密をネタに脅されている。
恭子は、一度見かけただけの聡に執着して彼を眺めることのできるマンションに引っ越し、双眼鏡で半年以上も観察し続ける。
正直言ってちょっとずつ変な人ばかりの物語で、文学や映画の蘊蓄もいっぱい出てくるけれど、どういうストーリーなんだろう...と思いながら読んでいた。
が、後半、急激におかしなことになっていく。
終盤、怖いけれどページを捲るスピードが上がります。
淡々とした文章で読みやすかった。
予想以上の怖さで楽しめました。
Posted by ブクログ
アカデミックに知識人達を配し都会的に男女の交際を絡めてゆきながら、変態なのか狂人なのか手探りしながら読み進めてゆく。
で、結局はファンタジーと思わせておいてのホラー小説…?
分からないけれど何故か心に残る一冊。
Posted by ブクログ
出版社の知り合いが薦めてくれた本です。タウン情報や本、映画が満載なので、神保町とか好きなら、この本も好きかも、と教えてくれました。確かに街のディテール、サブカルチャーの破片があふれんばかりに埋め込まれていて、そのリアリティがラブドールが意志を持つ、という荒唐無稽な設定を現実に定着させている、と思いました。1980年の「なんとなく、クリスタル」が当時、知らない固有名詞で構築された時代気分のシンボル小説であったことから42年、今は日常に散りばめられた固有名詞で時代気分ファンタジーを成立させています。なにしろレオパレスなんて単語、小説で出会ったのは初めてです。没後30年、松本清張のような暗い昭和の情念も令和の今に召喚されているし、もっとストレートに業田良家の空気人形の純愛も参照されている、と思いました。著者の作品は朝日新聞に連載されていた「花はさくら木」ぐらいしか読んだことがなく、最初、こういう小説書くんだ、という戸惑いもあったのですが、しかし、特異な趣味で物語を煌びやかに紡ぐ、というのは一貫しているのかな、と感じました。
Posted by ブクログ
久しぶりの大家作品に気負ってページ開くと主人公はラブドール…。SFホラー、それとも穴場紹介?あまりに突飛な設定に最初は戸惑うも、豊富に繰り出される蘊蓄マッタリ楽しんでいるうちに怒涛のラスト。辻原さん、551のブタまんまでカバーしているとは。この春、大津SAで食べたシューマイ懐かしい。