あらすじ
対・社会主義/対・国家/対・前近代社会――
対比するものや時代によって「資本主義」の意味は変わる。
市場経済・企業組織の変容、中国の台頭。
いま「資本主義」は、どんな現実をうつすのか?
「市場」と「所有」のバランスにその本質を見出し、
歴史と概念から付き合い方を考える、AI時代の「資本主義の哲学」。
*
もちろん私たちは「資本主義」という言葉、概念にだけ関心があるわけではなく、そのような言葉で指示されている現実そのものに対してこそ深刻な関心があります。しかしながら我々は「資本主義」という言葉、概念なしにはその言葉が指し示す現実について考えることはおそらく不可能なのです。――「はじめに」より
【目次】
はじめに
1 資本主義・対・社会主義
2 資本主義とは何か
3 仕組み
4 核心
5 AI時代の資本主義
おわりに
補論 資本主義と国家
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Posted by ブクログ
全体的には自分には難しかったが、興味を引いた以下の点を引用として残しておく。
「インデックスファンドを買う、ということは結局、市場の現状に追随する、ということ、みんなの真似をする、ということです。さてここで誰もが誰かの真似をしたとして、その始まりはどこにあるのでしょうか?」「…リスクテイカーたちがいなくなり、みんながみんな他人の真似をし始めたらどうなるのでしょうか?いわゆる『バブル』はこうやって発生するのです。」(P.198)
自動翻訳でも同様のことが起きるとの指摘。「しかしそのうち徐々にインターネット上の言語データの中に、自動翻訳の成果、更には最初から自動出力の文章…も増えてくると、機械学習システムによる模倣、学習の対象の中に、それ自体が自動機械によって作成されたものが増えてくるでしょう。」(P.199-200)
「奴隷制度が否定された自由な労働市場を前提とすると、そこでの取引の対象は、人身それ自体にほかならない労働力、あるいは人的資本丸ごとではなく、その利用権ということになります。ですから労働の取引は商品の売買よりは資産の賃貸借の方に近いのです。…何が雇用であり何が請負となるかはもちろん具体的にはケースバイケースですが、大まかな方向性で言うと雇用においては仕事の内容や目的は特定されず、被雇用者は雇用主の指揮命令に服し、雇用主には指揮命令権の範囲内での被雇用者に対する懲戒権が生じる一方で、保護する義務も生じます。こう見ると雇用という制度は、奴隷制度を自由な契約によってマイルド化して整理した仕組みであると見ることもできるでしょう。」(P.162-3)
Posted by ブクログ
この本の前に感想とも言えない感想を書いた「社会倫理学講義」に続いて、稲葉振一郎を読むが、「社会倫理学講義」よりはましではあるが、これも、今の自分には、かなり難解な本だった。
私は、この春から、大学院後期課程、いわゆる博士課程に進学し、勉強というか、研究を続けている。進学したのは、経営学研究科、専門は人事管理。春から研究を開始するにあたり、指導教授と面談で研究計画を相談した際に、何人かの学者の本を読むように勧められたのであるが、稲葉振一郎はそのうちの1人であった。
博士課程に進学できたということは、修士論文を書いたということであるが、修士論文での私の大きな関心事は、日本的雇用システムであった。実際に修士論文にも、主としてバブル崩壊以降の日本的雇用システムについての先行研究を、研究背景として整理した。おそらく、指導教授は、日本的雇用システムについて、私が更に広く、深く理解しておく必要があると考えて、稲葉振一郎を紹介してくれたのだと思う。
ただ、稲葉振一郎は人事管理の専門家ではない。社会学者である。ただ、本書もそうなのであるが、資本主義とは何か的な、経済思想的な著作を何冊か書かれている。指導教授から読むことを勧められた学者として、中野洋があるが、中野洋は、既に亡くなられている労働運動家である。なぜ、指導教授がこの2人を読むことを勧めてくれたのかということを考えると、人事管理の背景として、企業とは何か、とか、その更に背景として資本主義とは何かまで遡って理解しておくこと、更には、かつては、資本主義に対抗する思想であった社会主義についてや、それを背景とした、日本の戦後の労働運動について理解しておくことが、研究に厚みをもたらすということをおっしゃりたかったのではないか、と勝手に考えている。
さて、この本は、「資本主義とは何か」という議論を、「資本主義vs社会主義」というテーマで始めている。アダム・スミスやマルクス以来の資本主義、社会主義(あるいは共産主義)の考え方を整理する一方で、現実の問題として、(少なくとも)ソ連・東欧型の社会主義は姿を消してしまったことにより、基本的には資本主義のみが残った状況も説明している。
しかし、資本主義というのは、放っておくと富の偏在というか、経済的な格差が生じて拡大していきかねない制度なので、それを良しとしないのであれば、資本主義の中にそれを防ぐ仕組みをビルトインしておく必要があるのである。
経済的には、税金や社会保障制度などによる広い意味での所得再分配制度、また、放っておくと弱者になりかねない存在である労働者や零細企業などを守るための法律等が、その仕組みにあたるのである。
考えてみると、利潤そのもの、株主の利益などを追及する企業という組織の中で、働く人たちが、経済的安定ばかりではなく、働きがいを得ながら仕事をするためにはどうすべきか、というようなことは、人事管理の根本的な課題と考えられる。
そのようなことをかんがえるべし、ということで勧めてもらい、読んでみた本ということだ。