あらすじ
うーちゃん、19歳。母(かか)を救うため、ある無謀な祈りを胸に熊野へ。第56回文藝賞、第33回三島賞受賞。世代を超えたベストセラー『推し、燃ゆ』著者のデビュー作。書下し短編「三十一日」収録。
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Posted by ブクログ
目次
・かか
・三十一日
独特のかか弁で書かれた非常に読みにくい文体が、奇をてらったものではなく、必要だったのだなあと思う。
すごい作家が誕生したものだ、と思った。
19歳の浪人生うーちゃんの語る家族の姿は、実に歪だ。
とと=父親が浮気をして出て行ってしまったため、かかとうーちゃんとおまい=みっくん=弟の3人は、かかの実家でジジとババと従妹の明子と暮らしている。
明子の母がかかの姉だが、ババはこのかかの姉=夕子ちゃんを溺愛していて、夕子ちゃんが寂しくないようにおまけでかかを産んだということを公言してはばからない。
その夕子ちゃんの忘れ形見の明子を今度は溺愛して、ジジとババはオペラに連れて行ったりレストランでで食事をしたりする。
かかの作る食事は、顧みられない。
それでも、うーちゃんが母を求めてやまないように、かかもババに愛してもらいたくてたまらないのだ。
だからうーちゃんはかかを憎む。
ととは養育費をきちんと払い続けているのだし、こんな家なんて飛び出して、家族3人で暮らせばいいのに、と強く思うが、そうはできないから余計に家族というものはたちが悪い。
そして徐々に壊れていく、かか。
うーちゃんがかかを救うためにしようと考えたことは、普通の19歳なら考えつかないことだろう。
それでも、どんなにかかを憎みあきれても、やっぱりかかを救いたいと一生懸命考えた末のことなのだ。
”いっしょに淋しがってくれるかみさまがいないなら、うーちゃん自身がうーちゃんたちのかみさまになるしかもう道は残されていないんでした。”
女性という性の持つ身体性。
心と身体の協調性。
文体の持つ説得力。
なんかもうこれ、町田康に読んでもらいたいわ、と思ったら、解説が町田康だった。
やっぱりね。
もう一つの短篇『三十一日』は、かなり短い作品で、ペットとの暮らしとその喪失を書いているのだけど、これもまた上手い。
”涙が噴き出たがそれは尚子をひとつも癒さなかった。終わる。終わっていく。戻ってはこない。なにひとつ取り返しがつかない。”
なんて甘くないんだろう。
最近のゆるゆるな小説に辟易している人は、一度読んだ方がいいと思う。
Posted by ブクログ
19歳のうーちゃんとかか、弟、祖父母、従姉、犬の日常。一見するとありふれた家族のように思えるけど、かかは酒を飲んで荒れるし、祖父母とはぎくしゃくしたような関係。家族との複雑な関係や、何で生まれてきたのかのような問いかけが出てきて、読んでて苦しくて仕方なくなってくる。
だけど合間にうーちゃんの、かかが好きな気持ちが見え隠れしてるし、旅の途中で突発的に嘘をSNS に投稿しては自分の気持ちを確かめ整理してて、とても目が離せなかった。
まず冒頭の『女の股から溢れ出る血液』が衝撃を受けた。幼少のうーちゃんが『一疋の金魚』の正体を知らないのは当然のことだけど、知らないからこその好奇心、誰かに見せたいという欲求は誰にも止めることは出来ない。だからこそ、冒頭からこの作品が生々しく感じた。
次に、全体的に方言なのか造語なのか、んっ?ってなる言葉がいくつも出てきて気になった仕方なかった。
調べてみたら『そい』は『それ』を意味した博多弁だったし、大阪弁の『ほったらかす』、茨城弁の『だかん』、広島弁の『のんよ』みたいに、全国各地の方言で語られてて、この家族は一体どこの出身なんだ?ってなった。方言だけかと思ったら『ありがとさんすん』『まわまみーすもーす』とか、かかの造語が出てきてもう訳分からん。
だからいつものようにすらすら読めないし、理解しながら読むのには時間かかったけど、なんか不思議な世界に迷い込んだような、でも戸惑いながら読んだ。
さらに、“おまい”って何度も出てきて、誰の事?って思ってよくよく読んでみたら弟のことで、どうも弟に語りかけている文体で成り立ってた。
“おまい”が誰を指してるのか分かると、この作品の見通しが少し良くなってきて、もう一度最初から読んでみたくなってしまう、そんな中毒性がある作品に感じた。
最後に、この作品の中でうーちゃんは『かかを、産んでやりたい、産んで育ててあげたい』と思うようになる。ととに浮気されて痛みの中で生きるかかを想ってのことだろうけど、母と娘の関係が入れ替わるって、すごく複雑。
でも、それって複雑な家族関係の中で生きるうーちゃんだからこそできる発想であって、うーちゃんの価値観でもある。
この作品は、冒頭から生々しく始まり、性とか家族役割とか複雑に描かれてるし、どこをとっても難しい。
なのにまた読みたくなる、そんな作品でした。
私と同年か年少の方の作品ってことに驚いた。
しかも、10代でこの作品を書かれたことに衝撃を受けた。