あらすじ
生前退位から令和改元フィーバーの陰で、この国では何が起こったのか?
スマホの中の象徴天皇制を問い、「生前退位」から令和改元の言説空間を鋭く分析する、日本でもっともビビッドな表象文化論!
SNSでは皇太子とのツーショット写真が投稿され、天皇は時に「かわいい」キャラクターとして愛でられる一方、スピリチュアリティへの欲望をかき立てている。
そうした時代に明仁天皇は、「おことば」の発信によって「弱者政治【マイノリティ・ポリティクス】」という言説戦略をとった。
誰もが表象の消費者であり、同時に表象の生成者ともなり得る「ポスト・グーテンベルク」時代に、わたしたちは天皇(制)とその表象をいかにして問うことが可能なのか。本書はその試みである。
[本書の内容]
序章 表象の集積体としての天皇(制)研究―その可能性と限界
第一章 「おことば」の政治学
1映像表現としての「おことば」を読み解く
2語りの戦略性―「弱者」としての自己表象と「寄り添い」のディスクール
3語り手の欲望―アリバイとしての宗教的超越性の語りと永続性への欲求
第二章 狂乱と共犯―令和改元におけるメディア表象をめぐって
1政府による「政治的利用」の成功
2皇室による異議申し立てとその欲望、実質的共犯
3政府と皇室の共犯関係
4マスメディアの狂乱と不安、SNSの充満とノイズ
第三章 ポップカルチャー天皇(制)論序説
1皇室によるポップカルチャー消費―ゆるキャラ・初音ミク・アイドル
2ポップカルチャーによる皇室消費―現代天皇小説・天皇マンガ考
3 monstrum としての『シン・ゴジラ』
第四章 「スピリチュアル」な天皇をめぐる想像力―瑞祥・古史古伝・天皇怪談
1令和「瑞祥」と規範逸脱の可能性
2雑誌『ムー』における「オカルト天皇」言説
3現代天皇怪談、その異端性と批評性
第五章 「慰霊」する「弱い」天皇の誕生―一九九四年小笠原諸島行幸啓の検討から
1慰霊の宛て先
2訪問意図の読み替え
3「弱い天皇」の誕生
終章 SNS時代の天皇(制)を問うこと
※第四章の一部は、青弓社刊『〈怪異〉とナショナリズム』(怪異怪談研究会監修、茂木謙之介ほか編著、2021年)を基とする。
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Posted by ブクログ
「令和」改元以後という歴史の契機と、SNSの登場というメディア史的契機を意識した新しい時代の天皇制論。とくに「平成流」の内実を「弱者=マイノリティ」をめぐる言説戦略と捉え直し、明仁天皇が「象徴」としての表象戦略をパフォーマティヴに実践しつづけたありようが鮮やかに論じられる。
問題点としては、明仁天皇のメディア戦略の卓越性が強調された一方で、それが美智子皇后とのペアで行われていた面が後景化していること。「平成流」の構築と再生産にあたっては、皇后としての美智子の役割を無視することはできない。また、安倍晋三自民党政権が「平成流」の定着に果たした逆説的な役割も捉え切れていないように見える。「平成流」がメディアでクロースアップされるのは、安倍政権の反憲法的・反立憲主義的なありように対する批判・諷喩という契機が大きかったのではないか。「平成流」の称揚・肯定が収まる政治的なコンテクストに対する顧慮が十分ではないように思われる。