あらすじ
「クールジャパン」に象徴される各国が競い合うようにおこなっている文化輸出政策。
保守政治家の支持基盤になっている陰謀論者。
政党がメディアや支持者を動員して遂行するSNS工作。
これらの起源は戦時下、大政翼賛会がまんがや映画、小説、アニメを用いておこなったアジアの国々への国家喧伝に見出せる。
宣伝物として用いられる作品を創作者たちが積極的に創り、読者や受け手を戦争に動員する。
その計画の内実と、大東亜共栄圏の形成のために遂行された官民協働の文化工作の全貌を詳らかにしていく。
【本文より】
全てが戦時下に連なるというのはある意味では正しい。
ぼくは戦後から現在に至る生活や政治や文化のあり方が戦後の基調にあり、その表層をお色直し、コーティングしてきた戦後民主主義が衰退して剥離することで、戦時下の様相が復興したと考える。
そしてそもそも戦時下に設計されたそれら文化創造や政治参加のあり方は良くも悪くも(私見ではより悪く)SNSやオンラインと整合性が高いとも考えられるのだ。
だから本書もまた、ぼくは戦時下の「協働する文化工作」をめぐる諸相を「現在」への極めてベタな批評として語ることにする。
(序章 協働する「文化工作」)
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Posted by ブクログ
現在日本のアニメや音楽が世界から注目を集めているが、国はクールジャパンの名目でこの流れに乗っかり日本をアピールしようとしている。これには戦時下の文化工作と酷似する点が多くあり、文化工作の様相を詳しく見て行きながら警鐘を鳴らす趣旨の本。
漫画、映画、アニメ、音楽、文学が今でいうメディアミックスの形式で、プロパガンダに利用される様を具体例を見ながら学べる。
音楽業界の端で働く私としては、四章に音楽の話が多くて興味深かった!「椰子の実」は最近だと朝ドラのあんぱんで流れていたが、劇中では出征する寂しさを歌っているように思われた。しかし、本書によると椰子の実は南方政策の正当性を説くために利用されていたとのこと。タカシやノブちゃんが何気なく歌っていた歌が、実はプロパガンダによる刷り込みがあったという別の視点ができて面白い。
また南方政策の論拠の一つとして、スメル文化圏という虚偽の主張があった話も面白い。デタラメの学説で戦争を正当化していたということになるが、これはSNSで陰謀論が蔓延る現代で特に危惧すべきことだろう。
本書では戦時下の文化工作の考察のみだったが、次作では是非今のクールジャパンの施策について詳しく切り込んでもらいたい。