あらすじ
父を亡くし、天涯孤独となったいばらを引き取って夫となった扇唯一。だが23歳年上の夫が父の話をする時、いばらの胸は微かに疼く・・・・・・。
大晦日の昼下がり。高校生の扇いばらは、温かなマンションのダイニングであんこ作りに取りかかっていた。ザルに小豆をあけ、さっと水洗いする。手で豆を掻くと、ジャキジャキと小気味好い音が響く。これを雪平鍋に移し、たっぷり水を入れて、ガスコンロの火をつけて煮込む。高校の先輩たちに初詣に誘われたいばらだったが、保護者の同伴なしに深夜に外出するのは駄目だと、夫の唯一に止められた。沸騰してきた鍋を流しに運び、小豆をザルにあけた。いばらにとっては、初めて経験する日本のお正月になるはずで、すべてが新鮮だった。長くイギリスで暮らしてきたいばらは、日本の文化や行事をよく知らない。幼い頃に母と死に別れ、4か月前に父も亡くしたいばらを迎えにきたのが、父の大学の後輩の唯一だった。23歳年上の唯一と結婚して日本で暮らすことになったのだ。玄関の開く音がする。唯一が帰ってきた。「おかえりなさいませ、あなた」。棒読みの挨拶。唯一は「それ、やめなさい」と嫌がるが、いばらは夫婦らしいやりとりというものを試してみるのが好きだった。いばらと唯一、二人は秘密を抱えている――
感情タグBEST3
大変よろしかったです。泣いた
淡々と日々が綴られているのだけれど、その奥に狂気のような寂しさが隠れていて、そしてそれがとても幸福で、いつのまにかいばらの友達になっている気持ちで読みました。
いばらはとってもかっこいい女の子で、彼女が愛する唯一はすごく穏やかで素敵な男性です。
ゲイなのかもしれないけれど、それが明確に描かれていないところもいい。
私にはゲイの親友がいて、彼がどうしても社会的に嫁を必要としたらなろうと思っていたくらい彼が好きです。
いばらは絶対の味方を欲しがった。その結果が家族だった。
この先のことは、2人がいい感じで決めていくのだろうと思えるラストでした。いろんな方法がある世の中でよかった。
すごくほっとする、日本という国が改めて好きになる作品でした。
本当は⭐︎を10つけたいです。